(078)「優秀さ」の基準の違い2018年4月13日
何をもって「優秀」とみなすか、言い換えれば、ある組織や社会において、「優秀」と評価されるのはどのような人か、これは世界中で共通なのか、について考えてみたい。
最もわかりやすい例では、学校の入学試験や会社の採用試験のようなものがある。学校や組織では基本的に可能な限り優秀(と考えられる人)を採りたい。その際の判断基準に世界共通のものが存在するのか、それともそのような基準などはなく、地域や組織により基準は異なると考えるか、である。
実は、入学試験や入社試験のような広義の採用プロセスは、その組織が存在する社会の歴史や文化、伝統などに大きく影響を受けている可能性が高い。組織や個人の活動が狭い地域から拡大し異文化との接点が増加すると、この「優秀さ」の基準の違いは採用上、ひいては組織の経営上、深刻な影響を与えることとなる。
ある国(例えば、本社のある国)では極めて優秀と評価された人物が、別の判断基準を持つ国(例えば外国)で仕事をした場合、全くうまくいかないか、トラブルになるようなことが頻繁に発生するからである。ある文献によると、各国の知的スタイル(=「優秀さ」)の基準には以下のような違いがある。
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アングロサクソンの文化において、「優秀さ」とは、いかに対象(あるいは課題など)を「文章化あるいは記述」できるかであるという。誤解を恐れずに補足すれば、これは現在でも基本的にイギリス人がどのような人を優秀とみなしているかの重要ポイントと言い換えても良い。契約書が厚くなる理由でもある。
この米国バージョンは、いかに対象を「作業化」できるか、これが優秀さの基準のようだ。もちろん、米国でも「文書化」は大事だが、様式を重んじる本家より分家はよりプラクティカルということかもしれない。
現代の企業組織に勤務した人であれば恐らく多くの人が実感するように、組織の規模が大きくなればなるほど「文章化」の能力は必須となる。また、一連の作業をマニュアル化し効率を追求するという米国流の「優秀さ」の基準は、現代でも我々に多大な影響を与えていることは間違いない。
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一方、ドイツ人は英米人とは異なり、ある対象や物事を見た時、それはいかなる基本原理から導かれるのか...をしっかりと説明できる人間を「優秀」とみなす傾向があるようだ。ドイツで生まれ育ったアインシュタインが質量・エネルギー・光速度の関係をE=mc(cは二乗)という簡単な式で現したようなものかもしれない。目の前の現象ではなくその奥にある普遍の真理を見出せる人間こそが「優秀」という訳である。
さらに、フランス人が考える「優秀さ」とは、ある対象を「フランス語で説明できるか?」という点がエスニック・ジョークのようで興味深い。自国の言語、文化、歴史に絶対的なプライドと自信を持つ国民だからこそ、なのかもしれない。
もちろん、こうした分類には様々な見落とし点やおかしな点があることは否めない。それでも、どこか納得してしまうのは、これらが日常生活の中で見るある重要な一面を的確に示しているからであろう。
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では、日本人は何をもって人を「優秀」とみなしているか? 様々な意見があるだろうが、この文献では「どなたの門下ですか?Who is your master?」という記述が見られる。
つまり、本人ではなく誰の門下として指導を受けたかが、「優秀さ」の基準のようだ。実業界から学問の世界に転じた筆者には本当のところはよくわからないが、この傾向はおそらく現在でも相当強いのであろうと感じる事は多い。
就職活動中の学生が「出身校はどこですか?」と聞かれるのはこの亜流のようなものであろう。転職をした場合でも、元〇〇商事や〇〇銀行というだけで、少なくとも一定の敬意を払われることが多いのではないだろうか。
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これらの「優秀さ」のうち、どの基準が最も適切であるかは、与えられた時代や環境、そして組織や個人により異なることは言うまでもない。ただし、何か新しいことを行おうとする際や、ビジネスをめぐる環境変化が大きい時には、こうした文化的・歴史的ともいえる思考パターンが、良好に作用することもあれば、逆に悪影響を及ぼすこともある。
現代社会における「優秀さ」には、かなり思考力を必要とする多面的な判断が求められるにもかかわらず、どうも、ありとあらゆる意思決定や試験、選抜方法などが画一的になりつつあるような気がしてならない。
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