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コラム:農政寸評

【森島 賢】

2018.05.16 
朝鮮半島に春が来る一覧へ

 北朝鮮を「悪の枢軸」といったのは、アメリカのブッシュ大統領(当時)である。ここでの「悪」は、ただの悪ではない。原文はEVIL、つまり悪魔である。悪魔は人間ではない。だから、金正恩委員長の斬首作戦などという作戦が、平気で語られる。
 金委員長は、核兵器を作ったり、側近を処刑するなど、たしかに非人間的なことを行っている。だが、人間であることは間違いない。
 ここでは、金委員長の非人間性や人間性を議論するつもりはない。日本のマスコミが、金委員長だけでなく、北朝鮮の政権の考えを取り上げないことを、ここで指摘したい。
 マスコミの頭の中には、「悪の枢軸」が刷り込まれているのではないか。それでは、状況が正確に分からなくなり、外交を誤って世界の孤児になってしまう。
 以下では、マスコミが伝えようとしない北朝鮮の実態について、朝鮮大学校の李柄輝准教授が、BSフジのTV番組や日本外国特派員協会で語った言説を借りて考えよう。
 同准教授の言説は、部分的には賛同できない点がある。しかし、確かな事実と論理に基づいて、北朝鮮の考えを正確に説明していると思う。

 2018年4月27日は、朝鮮半島にとって記念すべき日になるだろう。南北の首脳会議が行われた日である。この日は、朝鮮半島の、したがって、北東アジアの歴史的転換点になるかもしれない。この動きを世界中に広げれば、世界史的転換点にできるかもしれない。
 周知のように、いま北朝鮮と国連は戦争中で、一時的な休戦状態にある。国連とはいっても、事実上は米国である。そこで、北朝鮮と米国の関係を簡単に振り返ってみよう。

 

※   ※   ※

 

 米ソの冷戦中は、北朝鮮はソ連の核の傘の下にあった。それが米国の核攻撃に対する抑止力になっていた。しかし、1991年のソ連崩壊によって、核の傘を失った。
 それ以後、北朝鮮は米国と平和友好条約を結んで、米国の核攻撃を避けるか、それとも、自力で核武装して、米国の核攻撃を抑止するか、を選択することになった。
 この時、米国は北朝鮮との平和友好条約を拒否した。それ以後、北朝鮮は核開発を進めることにした。「先軍政治」への転換で、1997年のことである。
 米国は、これに対して干渉した。つまり、北朝鮮の内部崩壊を期待し、あるいは、米軍が北朝鮮に侵入して政権を倒そうとさえした。
 2003年には、米国は、北朝鮮を「悪の枢軸」とし、核を使った先制攻撃を公言した。また、昨年春には金正恩委員長の「斬首作戦」を言い出した。

 

※   ※   ※

 

 しかし昨年から今年にかけて、こうした動きに転機が訪れた。
 北朝鮮にとっての大きな転機は、昨年の大陸間弾道ミサイルの完成である。つまり、米国の中心部へ直接攻撃ができるようになった。これに、すでに開発した核弾頭をつければ、米国の中枢部に壊滅的な打撃を与えられる。これは、米国に対する核抑止の完成である。
 このことは、これまで費やした、GDPの24%という膨大な軍事費を、大巾に削減できることを意味する。これを経済発展のために使えば、2016年でさえ3.9%という高い成長率で発展させてきた経済を、さらに急速に発展できるだろう。10%程度の経済成長率を実現できるかもしれない。
 こうした背景のもとで金委員長は、以前の、軍事を全てに優先する先軍政治から、軍事と経済発展を同時に進めるという「併進路線」へ、さらに併進路線を終え、経済発展に集中する政治への転換を宣言した。つまり、併進路線の完成であり、終了の宣言である。

 

※   ※   ※

 

 こうした状況をみて、米国も変わりつつある。トランプ大統領は、金委員長が提案した首脳会談を受け入れた。なぜか。
 北朝鮮が併進路線を完成した結果、米国は、国家としての存続が危ぶまれることになったからである。いっぽう、北朝鮮は、以前から米国の核攻撃の危険に曝され続けてきた。
 こうした状態に終止符を打つことが、こんどの米朝首脳会談の主要な議題である。会談の前提条件は、互いに相手国の存続を保証しあい、決して相手国の崩壊を望まないことである。
 真摯に話し合えば、会談は成功するに違いない。

 

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 では、転換後の朝鮮半島をどのように構想するか。李准教授の説明を、筆者は次のように解釈している。
 当初は、南北の両国とも独立国として、互いに全く干渉しない。そうして、両国で共同のプロジェクトをいくつか始める。その中には経済事業だけでなく、技術開発を目的にしたものや、科学やスポーツの振興を目的にしたものもあるだろう。
 それぞれのプロジェクトには連絡事務局が必要になる。その数が多くなるにつれて、それらを統合する事務局ができる。こうなった段階で、両国はゆるやかな連邦国家を目指す。
 もともと、資本主義国と社会主義国だから、連邦国家になるには長い期間がかかるだろう。しかし、決してあせらない。

 

※   ※   ※

 

 この構想に、筆者が勝手に付け加えれば、つぎのようになるだろう。
 各プロジェクトは、激しい競争のもとにおかれる。そして、国民に支持されたものだけが生き残る。やがて、経済構造や社会制度や、さらに政治体制までも、国民の選択に任されることになる。
 このようにすれば、資本主義的効率と社会主義的平等を兼ね備えた社会になるだろう。歴史に類をみない快挙になる。そうするには、互いに相手国の存続を保証しあうことである。決して相手国の崩壊を望まないことである。日本の多くの農業者をはじめ、大多数の国民は、刮目して見守っている。
 長い間、暗く閉ざされていた朝鮮半島の夜明けは近い。日が昇れば、希望に満ちた明るい春が待っているだろう。
(2018.05.16)

 

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