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コラム:食料・農業問題 本質と裏側

【鈴木宣弘・東京大学教授】

2018.05.17 
日米ともに遺伝子組み換え表示厳格化法、実は「非表示」法?一覧へ

GM表示義務の対象品目は少なく、混入率も緩いまま、
non-GM表示だけ「不検出」に厳格化

 

 日本の遺伝子組み換え(GM)食品に関する表示義務は、
(1)混入率については、
重量で上位3位、重量比5%以上の成分について5%以上の混入に対して表示義務を課し、
(2)対象品目は、
加工度の低い、生(ナマ)に近いものに限られ、加工度の高い(=組み換えDNAが残存しない)油・醤油をはじめとする多くの加工食品、また、遺伝子組み換え飼料による畜産物は除外とされている。
 これは、0.9%以上の混入がある全ての食品にGM表示を義務付けているEUに比べて、混入率、対象品目ともに極めて緩い。そうした中、「消費者のGM表示の厳格化を求める声に対応した」として2018年3月末に制度改正の方向が消費者庁で決められた。米国から日本にGM表示ができなくなる方向の圧力があるとみられていた中で、GM表示厳格化を検討するとの発表を聞いたときから、どのような決定がなされるのか、筆者も注目していた。
 ところが、決定された内容を見て、驚いたのは、(1)(2)はまったくそのままなのである。厳格化されたのは、「遺伝子組み換えでない」(non-GM)という任意表示についてだけで、現在は5%未満の「意図せざる混入」であれば、「遺伝子組み換えでない」と表示できたのを、「不検出」(実質的に0%)の場合のみにしか表示できないと、そこだけ厳格化したのである。

 

◆GM非表示法になりはしないか

 この厳格化案が法制化されれば、表示義務の非対象食品が非常に多い中で、可能な限りnon-GMの原材料を追求し、それを「遺伝子組み換えでない」と表示して消費者にnon-GM食品を提供しようとしてきたGMとnon-GMの分別管理の努力へのインセンティブが削がれ、小売店の店頭から「遺伝子組み換えでない」表示の食品は一掃される可能性がある。
 GM表示義務食品の対象を広げないで、かつ、GM表示義務の混入率は緩いままで、このようなnon-GM表示だけ極端に厳格化したら、non-GMに努力している食品がわからなくなり、GM食品ばかりの中から、消費者は何を選べばよいのか。消費者の商品選択の幅は大きく狭まることになり、わからないから、GM食品でも何でも買わざるを得ない状況に追いやられてしまう。これでは「GM非表示法」である。

 

◆米国からの要求に完璧に対応

 筆者が以前から指摘した通り、米国サイドは日本に対して「日本のGM表示義務は緩いから、まあよい。問題はnon-GM表示を認めていることだ。GM食品は安全なのに、そのような表示を認めるとGMが安全でないかのように消費者を誤認させる誤認表示だからやめるべきだ。続けるならばGMが安全でない証拠を示せ」と指摘していた。今回の表示厳格化案はこの指摘にピッタリ対応しているのは偶然だろうか。

 

◆米国でも「GM表示法」という名の「非表示法」

 それで思い出すのは、米国でも「GM表示法」という名の「非表示法」ができてしまったことだ。2016年7月29日、当時のオバマ米大統領が「米国遺伝子組み換え食品表示法」に署名し、GM食品表示が法律で義務化されることになったのを受けて、「米国自身が表示義務化に踏み切ったのだから、米国がGMを表示させないように日本に求めていると、鈴木はいつまで寝ぼけたことを言っているのか」と指摘する人がいた
 米国の連邦レベルのGM表示法は、一見すると、規制が強まったようにみえるが、そんなことはない。実は表示といってもQRコード(スマホなどで読み取るモザイク状コード)だけでよく、その食品がGM食品かどうかはいちいち読み取りで確かめなければわからない。事実上の「非表示法」だ
 背景は、表示の義務化を求める市民運動が全米各州で高まる中、州のGM表示法の投票を多額のキャンペーン資金で逆転させ、成立を阻んできたのが、ついに決壊し、2014年4月、全米で初めてバーモント州がGM食品の表示義務化法案(EUなみの基準)を可決し、2016年7月1日から施行されていたことだ。連邦法には、連邦法の成立によって州ごとの法律は無効となる内容まで盛り込まれているのだから、これは州レベルの厳しい表示義務化の動きを潰すための法律だということがわかる。巧妙な手口で騙されないように消費者は目を光らせる必要がある。

 

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