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コラム:TPPから見える風景

【近藤康男「TPPに反対する人々の運動」世話人】

2018.05.24 
許せない!国会審議に見る政府・与党の掛け合い漫才一覧へ

 多国間の経済連携協定は多くの場合、経済的側面に加え政治的には地政学的側面を免れられない。そして時には、地政学的側面を担保するために軍事的な要素を伴うことも見られる。企業自体は国の枠組みから自由であるものの、多国間の枠組み作りは政府により代表されている。政治と経済が不可分な中国の存在が大きくなる中では、更に意識されるようになっている。
 今回は、TPPから見える風景を通して、日米が地政学的な意味を含め、どのようにアジア太平洋地域に関与してきているか考えてみたい。

◆声を挙げ続けることを諦めてはならない

 この原稿を書いている段階で、TPP11(CPTPP)承認案は衆院本会議を、関連法案は衆院内閣委員会を通過、本会議通過も真近だ。維新・希望を除く野党は先週来、「TPP11、働き方改革法案、カジノ実施法案には反対」で一致したと聞いている。市民団体にも、声を挙げて後ろから押してくれと言ってきている。TPPの外務委員会などでも質問を調整している節が窺えた。
 "森加計"始め、何が飛び出すか分からない、情勢は時に一気に流動化しかねない。私たちも諦める訳にはいかない。
 衆院外務委員会・内閣委員会審議の一部を傍聴する機会があったので、印象を記すが、発言の文言は再現ではなく、聞いた上での理解としての表現と理解願いたい。関連法案審議は未だTPP11(CPTPP)と日米協議への質疑に止まっている段階なので割愛する。

 

◆太鼓持ちVS空念仏のお粗末な掛け合い漫才

 5月18日の衆院外務委での自民党中曽根議員(とのやり取りは典型的な例だ)。曰く「日本の外交は受け身の歴史、攻める外交が必要だ。今般のCPTPPは攻めの外交のいい事例だと評価するが、日本が主導出来た要因は?」
 河野大臣は「早期妥結に向けて各国の理解を得ることが出来た。今後も自由貿易推進の旗を振っていく」
 河野氏は外務委員会で、多分10回以上「21世紀の協定、ハイレベル、苦労してまとめた"ガラス細工"、共通の価値、地域の繁栄と安定という意義等々」質問にお構いなく、しかも前後に尾ひれをつけて繰り返していた。他の政府側答弁者までも同じ空念仏を無意味に濫用していた。そして、中でも堀井外務大臣政務官、外務省山之内経済局長などは、下を向いたまま全く顔を上げることなくメモを読み上げることしかしなかった。堀井氏に至っては共産党穀田議員の「TPP11の内、米国がFTAを結んでいる国は?」との質問に「通告を受けていなかったので...」と答えることさえ出来なかった。

 

◆いいところ迄迫ったが、今一歩という感もあった野党の攻め

 5月16日無所属の会岡田議員はISDSに絞って質問し、じわじわとうまく政府答弁を誘導した。政府に「ISDSは日本企業が投資をする際の有効な投資保護の仕組みだ」、と繰り返させて、「それは分かるが提訴された側の国の主権はどうなのか、国民の権利はどうなのか?」とISDSが"外国企業に特権を与える"ものであることを印象付けた。その上で、「EUは反対のようだがどんな見解なのか?」、政府は何度も「他国の見解への言及は控えたい」と繰り返したが、結局、何度も"EUの公表資料では..."と繰り返しながら説明をする羽目になった。それを受けて岡田氏は、「常設の2審制の裁判所、有資格の専門家、そのまま聞くと正当な意見ではないか」と突っ込んだ。
 時間が許せば、米国のNAFTAでの、"政府間による紛争解決で充分だ、国内の司法制度を無視するものだ"という反対論、CPTPPでNZとの間で4ヶ国がTPPを除外する、あるいは極力頼らないというSide Letterを結んでいること、NZと2ヶ国が、ISDSを慎重に扱うとの「3ヶ国共同宣言」を結んでいること、更にはRCEPも考えると、ISDSは既に少数派であることを突いて欲しかった。

 

◆日米の新たな協議の枠組みFFRについても執拗な追求

 同じ16日共産党穀田議員は、米国は折ある毎に日本にFTAを求める発言をしている、米国は貿易赤字の削減が目的で焦点は農産物と自動車だ、対外貿易障壁報告書において具体的要求を出している、結局米国が要求をぶつける場がFFRに他ならない、と追及。そして「日本の視点が無い!」と切り捨てた。しかし、河野外相の空念仏の繰り返しと堀井政務官の「通告されておらず...」が帰ってきただけだ。河野氏の答弁は正に空念仏の最たるもので、「米国のTPP復帰を促す」「米国にとってTPPが最善のものだ」「要求はどの国もぶつけるが、"ガラス細工"をいじるのは困難だ」と繰り返すのみだった。
 では、FFR:Free Fair Reciprocalは麻生・ペンスの日米経済対話とどう違うのか? この枠組みで米国が言っていることはFFRと同じだし、貿易と投資という課題も同じだ。
 そして麻生・ペンスの枠組みでは8つの作業部会で具体的な協議が課長級によって先行・潜航され、農業分野では輸入牛肉の月齢制限撤廃、収穫後散布農薬の安全性評価や使用基準などが議論されたと伝えられている。作業部会で何が協議されているか追求すれば更に米国の意図は明らかになる筈だろう。

 

◆"これでは採決なんかできない!!"

 これも16日の外務委員会。国民民主党小熊議員の「協定6条で農業分野の見直しが出来るのか?」と当然の質問に、山之内経済局長は相変らずの「各国閣僚も理解」というお決まりの答弁だ。小熊氏が「米国の動向次第でどうなるのか分からないままでは、TPP11を採決するのか、TPP12なのか分からない。こんなものは採決出来ない!!」と声を荒げる場面があった。
 確かに「協定6条」は不確定なことしか書かれていない、協定としては実に雑で採決に値しないと言える代物だ。

 

  ※   ※   ※

 

 CPTPPは基本的にはTPP原協定そのものだ。日本は無理やり短期間でまとめるために、自ら譲歩し、強硬な国への歩み寄りをした"唯一の国"だ。TPPと異なる点、TPPを越えた点、そして日本の譲歩等を明らかにして欲しかった。
 協定6条の問題と脱粉・バタ-の低関税枠や牛肉のセ-フガ-ドは何度も取り上げられているが、カナダの文化的例外のようにある意味で"獲得した"事例、Side LetterにあるISDSなど新たな要素等々には材料があるはずだ。参院での頑張りを期待したい。
 市民団体のネットワ-ク「TPPプラスを許さない!全国共同行動」では、RCEP閣僚会合、日米の新たな枠組みFFR協議、日EU・EPA合意署名などが集中する6月末~7月前半に、"TPPプラス交渉を質す"院内集会を7月5日に予定し、政府も招聘して"質す"こととしている。

 

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