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【小松泰信・地方の眼力】精神的風土としての空気を創る2018年6月6日

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【小松泰信(岡山大学大学院 環境生命科学研究科教授)】

 阿部勝昭氏(JAいわて花巻代表理事組合長)と比嘉政浩氏(JA全中専務理事)との対談「自己改革から新たな農協運動へ」(【JAcom】&農業協同組合新聞5月30日号)を興味深く読んだ。何がキーワードかを自問し、阿部氏が用いた「空気」と自答した。

◆大事な空気は捉えどころがない

小松 泰信(岡山大学大学院 環境生命科学研究科教授) 「(JAいわて花巻の27)支店はそれぞれ旧JAの本所で、そこには育まれた伝統文化があり、私たちはそれを大事にしながらも、いかに1つのJAとしての空気を生み出すかに非常に心血を注いできました。...地域の空気感ということを考えると、どんどん変わってきたと思います。JA改革に取り組むなかで感じるのは、そうした受け皿としての地域の空気感が大事であり、それが薄かったり無かったりすると、いくら改革の風を起こしても受け止めてもらえないのではないかということです」と、阿部氏。
 「何をするにも組合員や地域とJAとの間に基礎となる空気がなければならないということですね。『土壌』というのともまた違いますか」との問いには、「土は耕し肥料をやれば芽が出てきますが、空気というのは捉えどころがありません」との答え。

 

◆高等教育機関が醸成する空気

 当コラムが「空気」に引き寄せられたのは、内田樹氏の『ローカリズム宣言』(株式会社デコ、2018年3月)にも、この言葉がキーワードとして用いられていたからだ。
 氏は、このまま「教育改革」が進むと、地方の大学が統廃合され、消滅していくことになり、大学がひとつもない「無大学県」が出現する可能性に言及する。そして、「これは地元にとっては文化的にも経済的にも大きな痛手になります」と、警鐘を鳴らす。「高等教育機関がもたらすのは単に地域の経済効果だけではなく、いわば一種の『空気』でもあるから」が、その理由。そして、「風通しの良い知性、権威や世俗におもねらない自尊心、活発な好奇心、そういうものが流れ出る場所が存在する街と、そういうものがない街の違いは、暮らしていればはっきりわかります」と、高等教育機関が醸成する空気を語っている(pp.184-185)。 

 

◆空気のように地域に根ざすJAの役割

 ここで再び対談に戻る。
 比嘉氏が、JAいわて花巻において、組合員である農業者に施設の運営を任せるという事業方式を採用したことを話題にすると、「施設の自主運営については、ここまで組合員がしっかり運営してくれるのかという思いです。今までは組合員組織の活動については、あまりにもJA職員が準備し過ぎてきたのではないか。今、共乾施設を自主運営している人たちをみると、自分たちでどう運営したらいいか、自ら勉強し事業計画を作っています。会計も自分たちで税理士に頼み、経営内容も把握するようになっている。今までにはなかったことで、すばらしいと思っています」と、阿部氏。
 さらに直売所への出荷に際しても、栽培したものを出荷するだけだったのが、最近では、「レタスにしても持ち運びやすいようにスーパーバックに入れて自分の棚に並べるなど、買う側の目線で考えるなど、直売所が売り方を工夫するトレーニングセンターの役割も果たすようになっています。そういう気づきが組合員に生まれてきているということです」とのこと。
 そして、「地域からは組合員以外は利用できないのかという声もあるほどで、暮らしに果たすJAの役割は、まさに空気のように地域に根ざしています」と、JAと地域との一体感をここでも「空気」という言葉で表現している。

 

◆「精神的風土」としての「空気」

 「空気」の意味するところを日本農業新聞・論説(5月20日)が教えている。取り上げているのは方言。決して、放言ではない。
 「各地の方言が、じわじわと衰退している」という危機感から、「土地土地で"お国言葉"が話されるのが豊かな文化の表れで、方言衰退は地方衰退を映す鏡といえる。方言の価値を見直し、意識的に伝え残す努力が必要だ」と力説し、「方言は、......多様で多彩な文化。伝統芸能と同様の価値がある。『精神的風土』だからだ」と、定義する。最後に、「各地でも食農教育とともに、方言に触れ学ぶ地域文化教育も進めてほしい。JAには地域や学校との仲介役を期待したい」と締めている。まったく同感、腑に落ちた。
 「空気」を「精神的風土」とするならば、それが一朝一夕に作り上げられるものではないことは、言わずもがな。
 ところが、「農」ある世界に吹き荒れる改革の嵐は、「空気」をあまりにも軽んじている。改革もどきがうまくいかないばかりか、その精神的風土を毀損し続けるわけはここにある。思い知れ!

 

◆「精神的風土」の象徴としての農業協同組合

 平成30年版食料・農業・農村白書では、「農村地域の住民が生活関連サービスを受け続けられるよう、政府では、地域住民や地方公共団体等が協力・役割分担をしながら、生活サービス機能等を集約・確保し、地域の資源を活用して仕事や収入を確保する取組を『小さな拠点』づくりとして推進」していることと、「地域の課題解決を担う住民主体の組織『地域運営組織』の設立」が進展していることを紹介している(p.193)。
 当コラム、「小さな拠点」にも「地域運営組織」にも多くを期待していない。官僚・役人の"やってる感"が伝わってくる代物。手を替え品を替える前に、既存の組織やシステムの再評価と、そこへのてこ入れの方がよほど効果的である。なぜなら、「空気」に揉まれ馴染み、「精神的風土」を象徴しているからである。典型例が農業協同組合である。
 内田樹氏の"行政が地縁ネットワークをうまく作れない理由"(文春オンライン)には、思わず快哉を叫んだ。
「行政がやるとどうしても共同体の目的が『目に見える利便性の提供』ということに限定されてしまいます。......でも、相互支援の共同体を通じて弱者を支援し、その生活の質を保持するという事業は、数値的に......可視化できない。育児とか介護とか医療とか教育とか、そういう弱者支援事業は、長期にわたるし、その成果を単年度ごとに数値的に示すということができない」と明快。
 故に、「相互支援の中間共同体を立ち上げるというのは、基本的には行政の支援を当てにするのではなくて、私人が身銭を切って、自分で手作りする事業だと僕は思っています。『持ち出し』なんです。そうじゃなければできません」としたのち、ズバリ「贈与」と明言。さらに、「持ち出し」覚悟の私人による共同体の立ち上げは、今総理自らが関わる「公共の解体」への根源的な批判のあり方、との見解が披瀝されている。
 だとすれば、農業協同組合の立ち位置は明確。「精神的風土の象徴」として、強靱なる「空気」創りに突き進むのみ。
 「地方の眼力」なめんなよ

 

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