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コラム:地方の眼力

【小松泰信(岡山大学大学院 環境生命科学研究科教授)】

2018.06.13 
【小松泰信・地方の眼力】創造的自己改革への決断一覧へ

 6月10日に投開票された新潟知事選で、与党が支持した候補者が当選した。野党幹部が農村部で比較的善戦したことを踏まえ「もっと農政を争点にしていれば」と悔やめば、農林議員の一人はこれで「政府がいけいけどんどんで農業改革に突き進むのでは」と警戒する。野党選対関係者は「原発は争点にならなかった。原発以外の争点をつくりきれなかったのが敗因」と振り返えれば、国民民主党幹部は「(都市部の)新潟市では負けたが農村部では結構勝っている。安倍農政の結果、地方ほど自民党離れが進んでいる」と分析し、「環太平洋連携協定(TPP)や農政をもっと争点にすべきだった」と話した(日本農業新聞、12日)。でるのは後知恵ばかりなり。

◆政策確立全国大会と"逆立ち食料安保論"

小松泰信(岡山大学大学院 環境生命科学研究科教授) JAグループは7日、東京都内で「平成30年食料・農業・地域政策確立全国大会」を開催し、JAの創造的自己改革の完遂に向けて決意を新たにするとともに、自民・公明の与党の政策責任者に対し、JAグループの政策を実現するよう訴えた。
 その日の日本農業新聞・論説は、「農業成長産業化を前面に掲げる安倍農政は、大規模化、競争力強化の政策ばかりが目立つ。中山間地への配慮や家族農業も含めた地域全体の活性化、底上げの視点も欠かせない。産業政策と地域政策を車の両輪とし、同じ軌道を描くバランスある農政展開こそが求められている。大会では、こうした観点に立った持続可能な地域農業の確立も再確認すべきだ」と、注文をつけた。
 ところでこの論説には、「食料安保に関しては、政府内で"同床異夢"の危うさも見られる」という、看過できない情報が提示されている。「安倍政権下でこれまでに経験のないハイレベルな貿易自由化が加速する中、輸入食料の安定確保に比重を置く食料安保の考え方の強まり」で、自給率45%への引き上げという国是を軽視、無視した"逆立ち食料安保論"の台頭である。
 要は国民を飢えさせないことを目指し、高コストの農畜産物を無理して自給しないで、低コストで輸入できる国を世界中から探し出し、リスクを分散させながら安定して輸入することで食料安保を実現しようという浅知恵である。
 生みの親は新自由主義者、経済界のお歴々、規制改革推進会議の連中、そして国民をなめきった政治屋。そこにあるのは、「食料主権」、すなわち「自国民のための食料生産を最優先し、食料・農業政策を自主的に決定する権利」の放棄のみ。
 このような考えが表面化していること自体、「今後の農政展開の最重要課題に、国内農業生産を柱とした食料自給率引き上げを通じた食料安保構築と地域対策の拡充」を据えている中家JA全中会長には、到底許すことのできない動きのはず。
 このような方々をひり出している与党の幹事長がどのような発言をしたのか。そして与党の政策責任者と、どのような意見が交換されたのか、翌8日の同紙の記事から見ることにする。

 

◆「TPP11は今国会で成立させたい」発言をどう聞いた

 二階自民党幹事長の発言のポイントは、「自民党は、農業の成長産業化と合わせて、食料安全保障に軸足を置いた食料・農業・地域政策を確立する」「米価が安定し、安心して米作りが続けられるよう予算は恒久的に確立し、不測の事態が起こっても直ちに対応する」「JAがなくなれば農業も地域もなくなる」「准組合員の規制や信用事業の代理店化を押し付けるつもりは全くない。組合員が判断すればよい」、そしてこれらを「党として約束しておく」と、いったところだ。
 井上公明党幹事長は、「農業は命を支える大事な産業で、国の基だ」「力強い農業の構築に取り組む」「自己改革の完遂に向け、全力で支援していく」「TPP11は今国会で成立させたいが農業対策も進める」「米政策は、きめ細かな情報提供や環境整備を国に求めていく」といったところだ。
 リップサービスに加えて、嘘まみれの政権与党の偉いさんの発言。いつ何時、突発性記憶障害によって言った言わない、云々かんぬんになりかねない。話十分の一としておきながら、記録だけにはとどめておくべし。
 もちろん、TPP11に断固反対のJAグループとしては、「TPP11は今国会で成立させたい」との井上発言は、許しがたいはず。「農業は国の基」の意味を本当に理解している人間はTPPを認めない。井上さん、この言葉金輪際使わんといて。汚れるから。

 

◆改憲論議に安易にのるべきではない

 意見交換で気になったのが、JA関係者から出された「食料安全保障をスイスなどのように憲法に位置づけるべき」との、意見表明である。自民党の塩谷農林・食料戦略調査会長は、「わが国も食料安全保障の明記について、将来的に憲法改正の中で検討していく必要があると考えている」と述べるとともに、憲法改正自体にさまざま議論があることから、まずはニーズに応えた農業生産・販売を進める必要性を提起したそうだ。
 当コラムは憲法問題には門外漢であるが、日本国憲法は世界に誇れる平和憲法だと理解している。安倍晋三が改憲にご執心であることももちろん知っている。だから絶対改憲反対の立場である。おそらく安倍は、改憲に前向きな動きがあれば、よほどのことではない限り取り込むはず。その手にのるのは極めて危険、と言っておく。

 

◆本当の創造的自己改革をめざす

 5月9日の当コラム「鶴の一声にカクセイせよ」で、全国農政連が来夏の参院選比例代表の推薦候補者を決める予備選挙を行うが、何党から出馬するのか記されていないことを指摘した。聞くほど野暮、とは分かった上での話。
 与党と一体となった「政策確立」を前面に出す全国大会を開催するくらいであるから自民党ですよね。そして、現職の山田俊男氏が推薦候補者となった。決して評価されるような仕事はしていないが、昨年11月に自民党農林幹部による非公式会合「インナー」の一員となったことが最大の決め手となったようだ。
 ただし、JAグループが氏に期待する党内での影響力は、「参院選の得票数に左右される」として、全国農政連関係者は「本番の参院選でしっかり票を取らないと意味がない。......組織一丸で支援する必要がある」と語っているそうだ(日本農業新聞9日)。
 でもね、しっかり票を取ったらどうなります。農業問題にも農協問題にも関心のない議員を当選させる可能性大ですよ。これまで農政連が推薦して当選した議員は、期待通り働きましたか。TPPに反対票を投じた人が何人いましたか。まだ懲りませんか。
 もちろん、氏が前回よりも票を落としギリギリ当選してもなめられる。どっちに転んでもJAグループには地獄が待っている。
 だとすれば、組合員と役職員は重大な決意をもって、政治や政党との関係をじっくり見つめ直す機会とすべきである。
 JAグループにとって、本当の創造的自己改革はその決断から始まる。
 「地方の眼力」なめんなよ

 

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