コラム

「正義派の農政論」

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【森島 賢】
新浪ローソン社長の減反廃止論は先祖返り

 新浪剛史ローソン社長が、米の減反廃止を提案した。10月24日の産業競争力会議の農業分科会で資料(資料は本文の下)を添えて提案した。
 新浪社長は、同分科会の主査であるだけに、この提案は重い。
 林芳正農水相は、さっそく翌日の記者会見(資料は本文の下)で、これは、選挙公約だから、と言い訳しながら、検討することを表明した。

 新浪社長の提案は、米生産農家にたいする10アールあたり1万5000円の直接支払と、米価変動補填を来年からやめる、というものである。そして、3年後には減反をやめる、という案である。その目的は、大規模化によるコストの削減だという。
 ここには、農政の最大の目的である食糧自給率の向上、つまり食糧安保の考えがない。
 ローソンといえば、かつて米粉パンにいち早く注目して売り出し、食糧自給率の向上に一役かって、注目をあびたコンビニだが、この提案には、以前の崇高な食糧安保論が、跡かたもなく消えている。

 これでは、食糧安保の無視、小農切捨てという、かつて失敗した自民党農政への先祖返りになってしまう。歴史の経験から、なにも学んでいない。
 4年前に、民主党は食糧安保の最重要視、それに貢献する全ての農業者への支援、という政策を掲げ、農村部の支持をえて、政権交代をはたしたが、この提案は当時の民主党農政を全否定するものである。また、多くの国民は、食糧安保をないがしろにするこの提案を否定するだろう。
 民主党よ、結党の初心に戻り、農政の対抗軸を鮮明に示し、野党第1党の矜持をもって、この提案を否定せよ、と声援したい。他の野党だけでなく、自民党農林族の共感もえられるに違いない。民主党再建の突破口になるだろう。 

 この提案を採用したら、どうなるか。筋書きは次のようになる。
 当初は、生産量が大量に増え、米価が暴落する。それがしばらくの間つづき、その後、低米価に耐えかねた農家が、つぎつぎに生産を止める。その結果、米不足になり、米価が暴騰する。国内産だけでは足りず、緊急に輸入することになる。一度やめた農家は、米価が暴騰したからといって、米生産に復帰できない。復帰するには数年間の準備が必要だからである。輸入米が惰性的に増え、また米価が暴落する。こうした乱高下の末、国内生産は壊滅状態になり、恒常的な輸入米依存の状態になり果てる。 

 こうなることで、直接の被害をもっとも大きく受けるのは、大規模農家である。だから、下の表のように、大規模農家ほど減反に加入している農家が多い。

平成24年産米の所得補償交付金の作付規模別にみた加入率

 上の表から分かるように、減反制度への加入率は、経営規模が大きいほど高い。5ha以上の大規模経営は95.7%で、ほとんど全部の農家が加入している。
 それは、小規模農家は生活費の一部分を米からの収入に依存しているのに対して、大規模農家は生活費の大部分を米収入に依存しているから、減反廃止の影響が甚大になる、という理由である。
 ここに、この提案の実態をみない思い違いがある。

 思い違いのもとには、米価が下がればコストの高い小規模農家が生産をやめ、大規模農家だけが残る、という誤った理解がある。
 コストについての理解が誤っている。
 教科書を持ち出すまでもなく、コストは社会的な概念である。その物を作るのに、どれだけの犠牲を支払ったかを、社会全体で計算するものである。そのさい、犠牲を誰が支払ったかを問わない。
 これとは全く違う供給価格という概念がある。これは、供給する人が、その物を何円なら供給してもいい、と考えている価格である。これは、コストとは違う。コスト割れの安い価格で供給することもあるし、コスト以上の高い価格で供給することもある。

 米に当てはめて考えれば、次のようになる。
 小規模農家は、多くのばあいコスト以下で供給する。コストのなかには自分自身の労働にたいする報酬が含まれているし、自分の農地にたいする地代分と自己資本にたいする利子分も含まれている。それらを社会的にみて妥当な金額に見積もり、肥料代金などと足し算したものが、コストである。
 小規模農家にとって、自分の労働、農地、資本にたいする報酬は生活費の一部だから、米価が下がったばあい、それらの報酬を減らし、生活費を削って供給を続ける。極端にいえば、それらの報酬がゼロになるまで続ける。つまり、米価がコスト以下になっても供給を続けざるをえない。
 これは残念なことだが、古今東西で例外なくみられる現実である。農業問題の根源は、まさにここにある。
 これに対して、大規模農家は米価がコスト以下になれば供給を続けられない。自分の労働、農地、資本にたいする報酬で生活費の全てをまかなっているからだ。わずかな米価下落が、生活費の圧迫に大きくひびく。
 これが、米価を下げたばあいの生産側の反応である。

 この提案は、減反をやめて米価が下がればコストの高い小規模農家が生産をやめ、大規模農家だけが残る、という理解に基づいている。だが、それは、以上でのべたように誤りである。
 どうしても大規模農家だけを残したいのなら、小規模農家を市場以外の圧力、つまり、政治の圧力で切り捨てるしかない。だが、それでは、4年前に経験したように、農村の反対で政権を失い、実行できなくなるだろう。

新浪ローソン社長の提案は、ココをクリック

林農水相の記者会見は、ココをクリック

 

(前回 TPPをアジアの社会思想は受け入れない

(前々回 農協に捨てるべき既得権はない

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(2013.10.28)