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2016.06.09 
【米生産・流通最前線2016】飼料用米増産でスソもの枯渇 銘柄間格差に異変一覧へ

米穀新聞社記者・熊野 孝文

 28年産米の生産数量目標は743万t、自主的取組参考値は735万tと設定されている。農水省の4月末時点のまとめでは生産数量目標の達成が見込まれるのは13県、自主的取組参考値までの深掘が見込まれるのは21県となっている。需給改善に向けて引き続き需要に応じた生産を推進する必要があるが、一方、米流通の現場では業務用米を中心に急激な値上がりもみられるという。その一端をレポートしてもらった。

 「いったいどうなっているのかわからんよ。今までこんな相場は経験ないからね」と仲介業者がぼやいている。
 何が分からないのかというと、これまでコメ業界で培ってきた銘柄間格差がぐしゃぐしゃになってしまったので、その銘柄であればコシヒカリよりいくら上、いくら下という銘柄の位所が掴めなくなってしまったのだ。
 具体的に事例を示すと青森のまっしぐらや関東のあさひの夢といった業務用米として多く使われるコメは関東コシヒカリに比べ60kg当たりおおよそ1000円下で取引されていたのだが、それが連休明け後、急激に値上がり、今や関東コシヒカリと変わらない価格になってしまったのだ。値上がり幅が大きいのはこうした業務用米だけでなく宮城ひとめぼれ、秋田あきたこまちも急激に値上がり1万4000円を超えてしまった。


◆業務用が値上がり

業務用米品種の相対価格(表1)

 青森のまっしぐらや関東のあさひの夢といった業務用に多く使われるコメは連休前から徐々に値上がりしており、中食・外食業界では平成23年産米の再来かと危惧していた。中食業界では独自に業界が多く使っている、いわゆる業務用米銘柄を調査して、その価格を昨年2月と今年2月を比較したものを作った(表1参照)。それによると12産地品種の今年二月の加重平均価格は1万1911円で前年同月に比べ1612円、率にして15.7%値上がりしている。
 この表は農水省が毎月公表している相対取引価格から抜き出したものだが、中食業界が問題視しているのは値上がり率に関して同じ時期の全銘柄加重平均価格が10.1%の値上がりであるのに対して業務用米の値上がりが著しいこと。加えて問題視しているのが、取引量自体も減っている点である。昨年の2月はこれらのコメは約5万tの取引量があったのだが、今年2月は半分の2万5000tに減少したことを問題視している。27年産でも飼料用米増産政策でこうした業務用米の生産量が関東だけでも5万t減少したと推計され、28年産はさらに減少する可能性が高まっているからである。
 千葉県では連休入り前の4月25日に千葉市で農協や集荷業者、畜産業者を集めて「飼料用米説明会」を開催した。この席で28年産米から飼料用米専用品種や知事の特認品種でなくても、一般主食用品種を飼料用米に転用すれば県が独自に昨年の倍額を助成するという説明を行った。配布された資料の中には2haで主食用としてコシヒカリを作付した場合と飼料用米を作付した場合の生産者手取りを比較したものが配布されたが、そこには飼料用米を生産した方が約25万円も手取りが良いと記されていた。
 千葉県では連休明け後にも再度、農協や集荷業者を集め飼料用米増産の協力要請を行っている。なぜ千葉県はそれほどまで飼料用米増産に力を入れるのか?
 説明会では千葉県が生産調整未達成県のナンバーワンを6年続けていることが何回も触れられた。なんとしてもこの汚名を返上したいということなのだろうが、その裏には農水省の強烈な圧力があった。

(表2)関東の飼料用米取り組み状況
(表2)

 表2は関東の飼料用米目標面積を示したものだが、千葉県は45%増の7000haになっており、達成されなかった場合、産地交付金の2割がカットされることになりかねないのだ。産地交付金は転作を進めるうえで貴重な財源になっており、2割もカットされることは自治体にとっては大ごとである。これがために苦肉の策として主食用米として作付した品種であっても飼料用米に転用すれば助成金を倍増するという対策を打ち出したのだが、問題はそうした対策で本来主食用として供給されるべきコメが減少する可能性が高まることである。
 もう一度表1を見ていただきたい。中食業界が多く使用する品種の中に千葉のふさおとめ、ふさこがねが入っている。この2品種は千葉の早期米として端境期に量販店等の売り場に並ぶほか、業務用米にも使用されているのである。大粒で高温障害にも強く、炊飯適性が良いこうしたコメが飼料用に回ることになるとその影響は大きい。
 関東の早期米ではもうひとつ茨城のあきたこまちが知られているが、これも千葉の早期米と同様に主食用に回る量が減少すると予想されている。茨城県のあきたこまちの主産地は稲敷市だが、28年産では飼料用米として1000haの目標面積が掲げられ、地元の集荷業者によると大規模稲作農家の中には半分を飼料用米として作付し、あきたこまちの生産を止めた農家もいるという。消費地卸が事前にあきたこまちの購入申し込みをしてきてもそれに応えられないと危機感を抱いている。


◆端境期に早期米不足も

 早期米で最も早く出回るのは南九州のコシヒカリだが、宮崎県も関東早期米と同様、飼料用米増産でコシヒカリの作付面積が減少しており、端境期に主食用米がひっ迫しても早期米が潤沢に供給できない可能性が高まっているのだ。このため卸業者はユーザーに対して出来るだけ新米への切り替え時期を遅くしてもらうよう要請し始めている。
 生産者にとってはコメの価格が上がることは喜ばしいことだろうが、これは本来需要が盛りあがって価格が上昇するというのが健全で、多額の助成金で無理やり飼料用に転用することは、自らの顧客を失うことも同時に意味している。

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