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2017.05.10 
小規模でも地域に農業を定着させる JAとぴあ浜松「とぴあ園芸教室」一覧へ

 「農あるくらしを身近で気楽に楽しむ社会」の実現に向けて、体験農園を重要な具体策として取り組んでいるJAは多い。静岡県のJAとぴあ浜松では、地域の農地を再活用して、小規模でも地域に農業を定着させるために畑を持っている人を対象に、出荷を目指して自分の畑で栽培できるようにするための「園芸教室」を月1回開講している。

◆改めて農業を見直すリタイア世代

マルチを張り穴をあけてエダマメを播種する(28年6月) 「"雑草が生え畑が荒れているので何とかしたい"とか"畑はあるけれど、どう使えばいいのか分からない"という60歳代前半の人が圧倒的に多いんです」と、JAとぴあ浜松の「とぴあ園芸教室」を担当し、野菜コース(入門編)で指導をする高倉克弥同JA営農生産部営農指導課主任(営農指導員資格認証)。
 JAとぴあ浜松は、遠州灘(海)から浜名湖を経て長野県境(山)までの広い地域をカバーしている。海側は世界的な製造メーカーを有する工業地帯と都市地域で、山側は典型的な農山村という地域だ。
 そのため、いま60歳前半の人たちは、実家が農家であっても「農業なんかしなくても、仕事はある」と、都市部や製造メーカーに仕事を求めて出て行った世代。
 しかし、そろそろリタイアする時期にきて、自分の家に小さくとも畑があり、いままでは自家用に多少作っていたけれど「本格的に野菜などを作って出荷できるようにしたい」、何も手入れをしていないので雑草が生えたり「荒れているので何とかしたい」など、改めて農業を見直しJAの「園芸教室」に応募してきている。
 全体としてはこうした男性が多いのだが、最近の傾向として「子どもがいる30歳から40歳代前半の主婦が2割くらい」いると高倉さんはいう。

◆技術レベルに合わせコース分け

 JAでは、合併してJAとぴあ浜松が誕生した当時から「新規就農支援講座」を設けて、共販に出荷できる新規就農者の育成に力を入れてきた。これは「プロ農家」の育成なので、それにふさわしい条件が必須であり、面接して合格するのは年に3名か4名程度だ。そこまでいかなくても「野菜をつくってみたい」という地域の人たちからの要望に応えるために、19年に「園芸教室」が設置された。
 現在は「野菜コース」の入門編と応用編、「果樹コース」「花きコース」の4コースがあるが、当時は野菜だけで定員も決めていなかった。そのため多い年は50名以上が参加した。参加層も楽しみでという人から、本格的に野菜生産をと考える人まで幅広く、当然だが意識だけではなく、技術的なレベルも「鍬の持ち方が分からない」人から「すでに出荷しているが、もう一度学びたい」人まで、同じ農業出身者でも大きな差があった。
 そこで24年から、野菜を入門と応用に分け、果樹と花き(それぞれ専門センターがあるのでそのセンターが担当する)の4コース制にした。

◆月1回講習受け自分の畑で栽培する

長ネギ(ふゆわらべ)の生育状況を確認(28年12月) いま全国のJAで地域住民との関係を築くために「体験農園」を開設しているところが多いが、「とぴあ園芸教室」はそうした体験農園とは、大きく異なる運営方法をとっている。
 ここでは月に1回だけJAの実習ほ場でさまざまな栽培方法や技術を学び、それを持ち返り自分の畑で1か月実践するという仕組みだ。そのために栽培する種子も提供されている。
 月1回ではよく分からないことも出てくるので、専用のホームページがあり、受講生はいつでもそこで確認しながら、自分の畑で栽培することができるようになっている。
 入門編の実習ほ場はJAが借地し管理しているが、応用編は多品目を生産しているJAのOBに指導をお願いし、そのOBのほ場(施設)で実習しているという。そのため座学はOBのほ場に近いJAファーマーズマーケット(以下、FM)で行っている。応用編で作るのは7、8品目だが、OBがかなり多くの品目を栽培しているので、それを真似ていろいろな品目に挑戦する人もいる。
 年間の受講料が2万円という格安感も人気の大きな要因ではないかと推測される。それだけJAの負担が大きいが、地域を活性化する仕事と位置づけられているということだろう。
 冬の収穫期には、数人の参加者のほ場を全員で見て回り、意見交換などをしている。そうしたなかで、参加者同士のコミュニケーションも深まっているという。

◆FMに出荷しいずれは正組合員に

 いま高倉さんが悩んでいるのは、入門編の受講者は基本を学んで卒業し、応用編へ上がる人がいたりするのだが、応用編の受講者の場合、繰り返し受講する人が半分(各コースとも定員は25名)程度いることだ。毎年受講してはいけないというルールもない。
 そこで高倉さんたちは、応用編の受講が修了した人たちを組織(例えばOB会など)し、定期的な野菜栽培のポイントなどの講習会はJAが行うが、あとは自分たちの関心がある作物を栽培している農家を呼んで学んだり、食育グループとのコミュニティーを作ったり、FMや地域の応援団として活動をしてもらうことを検討している。
 この組織に入るためには、FMとの取引きなどで引き落とすためにJAバンクに口座を設けてもらう(つまり准組合員になってもらう)、その人の農業労働日が90日を超えれば、JAの正組合員になってもらうという、ビジョンを描いている。
 果樹コースも、「家に樹があるけれど手入れの仕方が分からない」という人が多く、野菜ほどではないが受講生が毎年いる。花きは趣味で作る人が多く、出荷までを見通した受講生は少ないのが残念だという。
 いわゆる「体験農場」ではなく、実証ほ場で学んだことを、自分の畑に持ち帰り栽培し、いずれはFMに出荷することで所得につなげていく。規模が大きくなくても新規就農を支援するこういうシステムは、地域から耕作放棄地をなくし、地域に農業を定着させる新しい取り組みとして注目したい。
(写真上から)マルチを張り穴をあけてエダマメを播種する(28年6月)。長ネギ(ふゆわらべ)の生育状況を確認(28年12月)

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