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【農業改革、その狙いと背景】農政・農協「改悪」の正体 鈴木宣弘・東京大学教授2014年8月4日

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・組織温存でなく農家・農村を守る
・「対等な競争」誰のため?
・相互扶助精神、協同組合はじゃま
・農業・農村からさらなる収奪
・「日本の農協は世界の成功例」
・食と農犠牲にN省のスタンス

 農協改革をはじめとする今回の農業改革は「規制改革」の名のもとに進められようとしている。規制緩和とはしばしば「対等な競争条件」の確保が目的であり、それが実現すれば多くの人々にチャンスが増えると説明される。しかし、それは本当なのか? 鈴木宣弘東大教授は国民の命や健康を守るために助け合い支え合うルールや組織を「既得権を守っていると攻撃し」、自ら利益のために市場を奪おうという狙いがあるとその本質を突く。だが、ここで組織防衛に走ってはならない。農業と地域を守ろうとする人々のために組織が存在していることが原点だと強調する。

◆組織温存でなく農家・農村を守る

 「医師会はTPP反対をトーンダウンしたから混合診療の解禁はあの程度で収めた。農業組織はまだ抵抗しているから解体だ。されたくないなら反対をやめろ」との指摘は、いまの政権があらゆる側面で見せている陰湿・巧妙・卑劣な手口を象徴している。
 TPPは、4月のオバマ大統領の訪日での日米「実質合意」が「ちゃぶ台返し」となって、「決まらなくてよかった」のではなく、いま明らかなことは、TPPを決着するには牛肉・豚肉・乳製品などの関税を限りなくゼロに近づけるしかない(冷凍牛肉では38.5%→19.5%→9%→まだ下げ足りない)という重大な事態に陥っているということである。国外からの日本の農産物関税は「撤廃しかない」との圧力もさらに強まっている。
 ここで、JAなどの農業関係組織が目先の組織防衛に走れば、思うつぼにはまり、墓穴を掘る。農業が崩壊して、地域が崩壊して、組織だけが生き残れるわけがない。「組織が組織のために働いたら組織は潰れる。拠って立つ人々のために働いてこそ組織も存続できる」ことを忘れてはならない。
 全農の株式会社化についても、「株式会社にすることが全農のビジネスに損か得か」を議論してはいけない。「農家、農村を守れるか」でなくては、最終的に組織も持たないことを肝に銘じるべきである。

 

◆「対等な競争」誰のため?

 食料・農業、医療、雇用もすべてそうだが、規制緩和し、equal footing(対等な競争条件)を実現すれば、みんなにチャンスが増えるかのように見せかけて、国民の命や健康、豊かな国民生活を守るために頑張っている人々や、助け合い支え合うルールや組織を、「既得権益を守っている」と攻撃して、それを壊して自らの利益のために市場を奪う、あるいは、人々をもっと自由に「収奪」して儲けようとしている「1%」の人々の誘導に乗せられてはいけない。
 某国首相が国際会議で昨年秋に述べた「私がドリルになって規制という岩盤を打ち破る」「いかなる既得権益といえども私のドリルから無傷ではいられない」に続き、この6月30日付の英紙フィナンシャル・タイムズに、「私の『第3の矢』は日本経済の悪魔を倒す」と題した論文を寄稿し、「規制の撤廃の他、エネルギーや農業、医療分野を外資に開放することを言明した」と産経新聞が報じた。いよいよ「暴走極まれり」である。
 ヘレナ・ノーバーグ=ホッジさんは、『いよいよローカルの時代?ヘレナさんの「幸せの経済学」』(ヘレナ・ノーバーグ=ホッジ、辻信一、大槻書店、2009年)の中で、概略、次のように述べている。「多国籍企業は全ての障害物を取り除いてビジネスを巨大化させていくために、それぞれの国の政府に向かって、ああしろ、こうしろと命令する。選挙の投票によって私達が物事を決めているかのように見えるけれども、実際にはその選ばれた代表たちが大きなお金と利権によって動かされ、コントロールされている。しかも多国籍企業という大帝国は新聞やテレビなどのメディアと科学や学問といった知の大元を握って私達を洗脳している。」やや極端な言い回しではあるが、これはグローバル化や規制改革の「正体」をよく表している。そして、某国首相の浅はかな発言が、誰に踊らされたものかもよくわかる。
 少数の者に利益が集中し始めると、その力を利用して、政治、官僚、マスコミ、研究者を操り、さらなる利益集中に都合の良い制度改変を推進していく「レントシーキング」が起こり、市場が歪められて過度の富の集中が生じる。この行為こそが「1%」による「自由貿易」や「規制緩和」の主張の核心部分である。

 

◆相互扶助精神、協同組合はじゃま

 こうして、自己の目先の利益と保身しか見えない総合的、長期的視点の欠如した「今だけ、金だけ、自分だけ」しか見えない人々が国の将来を危うくしつつある。人々の命、健康、暮らしを犠牲にしても、環境を痛めつけても、短期的な儲けを優先する、ごく一握りの企業の利益と結びついた一部の政治家、一部の官僚、一部のマスコミ、一部の研究者が、国民の大多数を欺いて、TPPやそれと表裏一体の規制改革、農業・農協改革を推進している。これ以上、一握りの人々の利益さえ伸びれば、あとは顧みないという政治が強化されたら、日本が伝統的に大切にしてきた助け合い、支え合う安全・安心な地域社会は、さらに崩壊していく。
 「日本が伝統的に大切にしてきた助け合い、支え合う安全・安心な地域社会」を守るために頑張ってきた人々や協同組合などの相互扶助組織を追いやり、助け合い支え合う仕組みを壊すことこそが、彼らの利益拡大に不可欠なのである。地域社会を守るためにTPPにも反対するから邪魔で仕方ないのである。

 

◆農業・農村からさらなる収奪

 農協組織は農産物の「共販」、生産資材の共同購入、JAバンク、JA共済、医療、葬祭事業まで、地域の信頼を得て、地域生活全体を支える様々な事業を展開しているが、これを崩すことで農村での様々なビジネスチャンスを広げようとしている。
 JAバンク、JA共済の「JAマネー」の強奪は日米金融・保険業界の「喉から手が出るほど」ほしい分野で、これを実質的に切り離されたら、代理店の手数料だけでは、営農指導などの非営利(本来的に赤字になる)部門を持つ個々のJAは存立不能である。
 共同販売、共同購入が崩されたら、「対等な競争条件」どころか、さらに農産物を買いたたき、資材販売で価格つり上げをしようとする企業の独壇場にしてしまう。それは農協組織のない途上国の農村で、いまも現実に起こっている事態であり、農村の貧困が解決されない根本的要因である。森島賢先生が本紙でも書かれているとおり、戦前の日本も同じだ。そこに逆戻りすることなる。独占禁止法の適用除外のミルク・マーケティング・ボードが解体された英国の農村が「草刈り場」と化し、EUで最低の乳価に暴落した事実も忘れてはならない。
 農業委員会組織を骨抜きにして、農業に自由に参入して、儲からなければ農地を自由に転売して儲けるようにしたいLファームやPファームを展開している人々が政府の会議のリード役の立場を利用して露骨な自社の利益追求をしているのも、人材派遣業のP社の会長が「雇用の短期化・解雇自由」の雇用改革を進めているのと同様、情けないほどわかりやすすぎる。

 

◆「日本の農協は世界の成功例」

 ある農水省幹部OBは、「日本の農協は世界の協同組合運動の最大の成功例だ」と話してくれた。「バブル崩壊の際も、破綻した信連はなかった。リーマンショック時の農中による資金運用の失敗についても、組織自体の中で自律的に処理を済ませた。これまで公的資金の投入は一切なかった。」
 また、「販購事業においても、巨大化したのは偏にこれまでの努力の積重ねの成果であり、また他分野からの参入は常に自由だ。ある程度の系列取引は、日本の企業グループなら、どこにでも存在する。」
 こうした視点からも、JA攻撃が、市場強奪を目的とした「なりふり構わぬ」人々によるいかに理不尽なものであるかがわかる。

 

◆食と農犠牲に N省のスタンス

 「N省はなぜ農協を庇ってやらないのだろうか。たとえば、Z省なら銀行をあくまで守るだろうに」との声もある。長らくN省は、米国を喜ばせることが私益・省益・国益になってしまったG省と、企業の経営陣を喜ばせることが私益・省益・国益となっているK省と対抗し、貿易自由化の流れから食と農を守ろうとしてきた。官邸を取り巻くパワーバランスが崩れ、「米国と企業のために食と農を犠牲にする」構図が強くなってしまっているのが、いまの危機的事態の根底にあるが、そのN省までが、農業組織改革については、誰の味方かわからないと言われる。
 一方では、各省庁の幹部人事を官邸が決めるようになり、N省も、G省やK省のように、米国と企業を喜ばせなくては出世できなくなってしまうと、誰も暴走を止められなくなってしまう。内閣改造人事やお金をちらつかせて国会議員を恫喝する手法といい、どこまでも悪質・巧妙な策略が目に余る。
 厳しい状況だが、目先の組織防衛は墓穴を掘ることを肝に銘じた関係者の踏ん張りと、滋賀県知事選挙のように、世論の力で、こうした暴走に歯止めをかけるしかない。

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