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シリーズ:農協を創った人たちを訪ねて

2013.12.09 
【JA 人と事業】第10回 堀川千秋・JA梨北代表理事組合長に聞く一覧へ

・女性、消費者の視点も
・事業推進は納得づくで
・消費減に柔軟な対応を
・産地廃棄をゼロに
・JA直営の農場経営も
・変化に対応の知恵を

 山梨県のJA梨北は、中山間地の条件に合わせ、営農を中心に生産農家の手取り向上を事業の基本に据え、実行している。そのめ農業・農家の環境変化に対応し、常に革新していくことのできる職員の育成に力をいれている。代表理事組合長の堀川千秋氏に聞いた。

組合員目線で事業展開

◆女性、消費者の視点も

堀川千秋・JA梨北代表理事組合長―JAの運営において、何が重要だと考えていますか。
 事業を行うときの目線をどこに置くのかということだと思います。農協は農家の組織です。生産者の目線で何ができるかを考えるべきです。それを基本に女性、消費者の目線をどう取り入れるかが重要ではないでしょうか。常務に女性を登用していますが、彼女が中心になって作成した中期計画の中で、農業を振興する「植(sowing)」、安全・安心を提供する「食(staple)」、組織・組合員・消費者である「職(staff)」の3つの「ショク」を「愛(め)でる」こと、すなわち「think the world of 3S」をスローガンに掲げましたが、こうした発想は女性でなければ出ないのではないかと思っています。
 目線を変えると、これまで見えなかったことも見えてきます。
 いま、米はすべて買い上げ、JA独自で販売しています。系統の仮払制度はありますが、生産農家にとっては一日でも早く販売代金が欲しいものです。それに応えるには買い取りが一番だと考えてのことです。
 自ら売るという姿勢が米の食味ランキング「特A」の評価につながったのだと思います。もともと「梨北米」は、「米作り百選」に選ばれた米栽培の適地です。それを生かして生産農家の手取りを増やすべきだというのが農協の基本的な方針です。

◆事業推進は納得づくで

―中期計画書や総代会の資料をみると、大変分かり易く工夫してありますね。
 事業計画書は、いわば職員のバイブルです。なぜその事業を行わなければならないかについて納得してもらわなければなりません。事業推進はノルマではないのです。例えば貯金など、農協の経営に必要な利益をあげるには、これだけの貯金高が必要ということを職員に徹底することが重要です。農協では無駄な推進はやらせない、農家のためになる推進しかしてこなかったつもりです。
 この地域から農業をとったら何も残りません。農家がいなくなったら農協は潰れるでしょう。このことを心に刻み、農協は農家に寄り添い、豊作の時は一緒に喜び、凶作の時は一緒に悲しむという姿勢で臨むようにと、職員には常に話しています。
 農協の正組合員は95%を占めます。規制改革会議で信・共の分離を言っていますが、組合員は信用・共済で食っているわけではないのです。信・共で上げた利益を農業に投資して何が問題なのでしょうか。
 そう考え、設備投資は農業関係以外ほとんどしていません。それが正組合のためであり、この方針はこれからも通していくつもりです。
 従って准組合員の拡大は取り組んでいません。ただ高齢でリタイアしたときには、必ず後継者に自分の持ち分を譲渡して、脱退しないようにと呼び掛けています。

◆消費減に柔軟な対応を

―事業の対象を正組合員に絞っておられるようですが、これから人口減が進むなかで、問題はありませんか。
 多くの農協が、准組合員を拡大していますが、そうではなく農業者である正組合員が利用を増やしてくれればよいと考えています。人口減で事業は苦しくなることが予想されますが、これは農協に限りません。消費の減少に対してどう事業を展開するか、これからの大きな課題です。
 日ごろ、職員にも言っていますが、いまが考えどころです。作るだけが能ではない、スクラップアンドビルドも視野に入れておかなければなりません。儲からないから潰すのではなく、社会環境の変化で使命が終わったからです。ガソリンスタンドなどがそうですが、昔のようにテーラーで給油にくるような農家はいなくなりました。できるものは集約し、より効率的に使うようにするべきでしょう。
 このとき、購買品で系統外を利用することもあります。しかしこれは、農協の事業はあくまで組合員の利益のためにあるのであって、組合員の選択肢を広げるものだと考えるべきです。

◆産地廃棄をゼロに

―農業を基本とした事業で、これまでどのような成果がありましたか。
 農協の販売額は40億円余りで、この数年は横ばいです。ただ大規模な直売所が3カ所、小規模が5カ所あり、10億円余りを売上げています。これは新しい市場であり、農協の販売取扱高とは別のものです。つまり直売所で組合員の販売収入が10億円増えたということです。
 農業の担い手のことは心配していますが、地域の実情にあった農業の形態を考えるべきです。一つの考えが、3世代同居できるような環境がつくれないかということです。つまり初代のおじいさん、おばあさんが農業をやり、後継者の夫婦が勤めに出る。その子どもは初代の農業を見ながら育つ。中山間地では安定した就労の場をつくるのは大変ですが、これを順送りすれば農業・農家の継続ができるのではないでしょうか。
 直売所で販売するためJAのOBが生き生きと野菜作りをしています。農協では「二畝三畝農業」を呼び掛けています。つまり作ったものは農協が責任を持って売るので、小面積でよいから何かを作るようにということです。そのために契約栽培もやっています。生産者は直売所でも契約栽培でも、作ったら必ず金になるようにしています。
 さらに売れ残ったものや商品にならないものは、スーパーや惣菜店などと契約して「梨北さんちのおかずシリーズ」で惣菜に加工されて店頭に並びます。これが“産地廃棄ゼロ”を目指した農協の取り組みです。

◆JA直営の農場経営も

―水田農業では規模拡大がとなえられていますが、どのような対策を立てていますか。
 農地法が変わったので、農協自ら農業経営をやる必要があります。一昨年、総代会で承認され、いま約10haで細々ながら米づくりを始めています。最終的には農業法人か別会社でやるつもりですが、後継者がいない農家の農地を荒らさないように預かるのであって、いわば隙間産業。儲からなくても収支がペイすればよいと考えています。農業法人の規模拡大の邪魔をするものでもありません。農協はもともと作業受託事業をやっていたのでノウハウはありますが、安定した雇用を確保するには、将来、野菜の導入なども考える必要もあります。
 ただ規模拡大については、昔のように財産でなく、農家は農地を資産と考えており、ある程度面的集積はできるでしょう。しかし、平たん地はともかく、中山間地では、農地を貸した農家の収入確保のための新たな勤め先が地域にあるのかということが大きな課題になるでしょう。兼業や副業を含めた日本独特の農業を考える必要があるのではないでしょうか。

◆変化に対応の知恵を

―組合員の期待にこたえることのできる職員教育はどのようにしていますか。
 永遠の課題ではないでしょうか。繰り返しトップの考えを示すことが重要です。職員には、組合員に農協の考えをどう知らせるか、その方法は自ら考えるようにと常に言っています。職員に必要なことは知識と知恵です。知識は農協で教えるができます。しかし、100の現場には100通りの知恵が必要で、知識だけでは対応できません。このため職員にはさまざまな機会を与え、できるだけ多くのことを経験させることが重要だと考えています。
 日々、革新が必要です。肥料の販売が落ち込んだとき、「お任せ注文書」を持って回ったことがあります。つまり、組合員農家を回り、作目や栽培面積を聞き出し、それに必要な肥料や農薬を職員が責任をもって手配するということです。農協はどのような資材を扱い、価格がいくらで、このようなサービスができるということを農家に知らせていない、つまりPR不足なのです。こういう革新を一つひとつ積み重ねることが改革であり、そのことを職員に徹底したいと考えています。

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