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シリーズ:新世紀JA研究会 課題別セミナー

2016.12.22 
【新世紀JA研究会・課題別セミナー】経営環境の厳しさ認識を一覧へ

信用事業譲渡「選択」も
あるべき姿 自ら考える

 JAの信用事業譲渡は、政府の今回の一連の農協改革の、いわば〝本丸〟です。総合事業を営むJAに取って信用は要の事業。これを譲渡し、農林中金(信連)の代理店となることは、JAの独立性を失うことにもなりかねません。新世紀JA研究会は第3回の危機突破・課題別セミナーでこの問題を取りあげました。セミナーで報告のあった農水省経済局金融調整課組合金融グループリーダー・山田貴彦氏の話のポイントを紹介します。

 以下の内容は、セミナーで山田リーダーが話された内容を、事務局でまとめたものです。JAからの信用事業譲渡について、農水省として初めて見解が明らかにされた注目すべきものです。内容をよく吟味しながら議論を進めて下さい。

◆信用の将来像検討

新世紀JA研課題別セミナー(12月10日) 規制改革推進会議の農業ワーキング・グループから、信用事業を営む地域農協について3年を目途に半減するなどの過激な意見が出されましたが、これには私どももびっくりしています。しかし、金融を取り巻く国内外の情勢とか、今後の金融の将来の見通しはどうなって行くのかを正しくご理解頂くことは非常に大切で、そのもとでいろいろな経営判断をして頂くことが重要だと思っています。
 まず基本認識ですが、一つは、農協改革は強制ではなく、みな様方が自己改革の中でやって頂くものということです。その目的は農業者の所得向上であり、新世紀JA研究会の今後のプランでも、いろいろと新しいことをやっていこうと書かれているのは素晴らしいことだと思います。ただ5年後、10年後の人口、少子高齢化や金利の低下という厳しい経営環境を認識した上で信用事業をやっていくということについて、持続可能性の高い、あるべき将来像を検討していく必要があるのではないかと思っています。
 信用事業がおかしくなって農協の経営自身が危うくなってしまえば、農業者にとっても非常なマイナスが生ずることになります。とすれば、農協として持続可能性の高い将来像はどのようなものかを検討していく必要があります。そんな中で信用事業譲渡は、将来的な持続可能性を高めるための選択肢の一つとして問題提起させて頂いています。

◆厳しい環境変化

農水省経済局金融調整課 組合金融グループリーダー 山田 貴彦氏 信用事業を取り巻く環境ですが、今後人口減少や高齢化が急激に進みます。高齢化に関しては、2020年度には高齢化率が30%、2060年には40%になる。人口も2045年には1億人を切るという推計になっています。また、生産年齢人口もほとんどの都道府県で10%以上減少します。農協が営業基盤とする地区の人口減少率は2040年までにマイナス25%です。農協はそうでなくても人口の少ない農村部に支店を多く持っており、人口減少の影響は大きくなります。人口が減少すれば経済活動が縮小し、貸出業務は落ち込みます。
 また、後継者が都市に移ることに伴い、遺産相続などで、農村から都市へ貯金が流出してしまうのではないかと懸念します。さらに農協の貸し付けに占める住宅ローンの割合は7割(信金は2割程度)と大きいのですが、野村総研の新設住宅着工戸数の予想では、人口減少などの影響を受けて、2030年には現在の約6割程度に減ります。住宅ローンの占める割合が大きい農協にはかなり厳しい事態が想定されます。
 金利の低下についていえば、2016年の中間決算では地銀の95行のうち7割の67行が減益という記事もでています。マイナス金利の影響で、実際に多くの金融機関が収益減になっています。当面、日銀によるマイナス金利政策は継続される見通しです。
 今まで基本的に貸し出しに与える影響をお話ししましたが、農協のビジネスモデルは貸し出しではなく、上部組織への預け金による還元奨励金が大きな源泉と思われている方が多いかと思います。そこで、この点についても触れておきたいと思います。結論から言いますと、農林中金もかなり厳しいことになります。
 その一つはバーゼル規制です。農林中金は、国際基準行として自己資本比率など国内行よりも更に厳しいバーゼル規制への対応が求められています。また日本経済が縮小するなかで国内投資家は海外への資金運用に活路を求めており、この面での競争が激しくなり、外貨調達コストも増えてきています。さらに貸出金収支も他の金融機関と同じく厳しいものがあります。以上を踏まえると、農林中金からの還元は今まで通り期待できるのかという心配があります。なおバーゼル規制は、国内基準行(農協)にも自己資本の質の向上を求めています。
 農協における信用事業について見ると、信用事業収益が3年連続で減少している農協は全体の3割になっていますが、全体ではマイナス2・8%とそれほど落ち込んでいません。しかし貸し出しの収益はマイナス17・3%と約2割減少しています。農林中金からの還元があり、見えにくくなっていますが、今後信用事業収益が減少して行く兆候ははっきり表れています。
 またフィンテック(Fintech)の進展も、これまでの金融機関の運営に大きな影響を与えると考えられています。将来的に金融店舗の必要性が少なくなる信用事業譲渡など、既存の金融の仕組み、サービスの見直しが求められるとみられます。
 以上のような信用事業を巡る厳しい状況を踏まえて、冒頭に申し上げたように農業者に対して安定的なサービスを提供していくための持続可能性確保のために信用事業の将来像について検討をはじめ、農業者と役職員との話し合いを通じて、しっかりと結論を得て頂く必要があると思っています。

【信用事業譲渡について検討する際のポイント】

◆将来4つの選択肢

 その話し合いの中での今後の選択肢については、(1)経営の効率化、(2)農業融資の拡大、(3)合併、(4)信用事業譲渡及び代理店化の4つを考えています。このほかにも選択肢はいろいろあると思います。この選択肢についてのメリット、デメリットについて見ると、(1)については、コスト低減による効率化には限界があり、(2)については、農業融資の体制整備が求められ、(3)合併については、実現に時間がかかること、経済事業には必ずしもプラスにならないなどの事情があります。
 そこで今回、(4)の信用事業の事業譲渡を考えています。信用事業の譲渡と代理店化のメリットは次のようなことが考えられます。なお今回は事業譲渡のやり方として、代理店化という方法があると提案していますが、事業譲渡と代理店化は本来、別の問題だということを認識しておいて下さい。
 まず信用事業譲渡のメリットは、信用事業から経済事業に人的資源等をシフトすることが出来るということです。人の配置転換の問題なので、簡単ではないですが、段階的に進めて頂けたらと思います。次に一番大きいと思われるのが、信用事業に関するリスク・負担の軽減です。
 具体的には、自己資本比率規制など、経営の健全性に関する規制を受けなくて済みます。また信用事業の専担理事や員外監事の必置義務がなくなります。さらに各種コスト、例えば貯金保険料、JASTEMの利用料、貸倒引当金の積み立てが不要になります。
 次に代理店化のメリットです。このメリットは、地域の組合員等に金融サービスの維持が可能ということです。農村部では農協以外に民間の金融機関が無いということが、かなり多くあるかと思います。そうした所で地域の方々への金融サービスは維持できます。農協自身は総合事業体ではなくなりますが、農家・組合員の方々には総合サービスが維持されます。名称は農林中金や信連の支店などになりますが、専門農協としての部分は維持出来ますから、経済事業とかの部分は元々あった名前でいけると思います。
 次の代理店化のメリットは、相応の代理店手数料を受け取れるということです。普通の農協では、経済事業の赤字を信用事業で埋めているというのが現状ですが、これにより、収支の維持が可能になると思います。
 以上申し上げましたが、あくまでも農協改革というのは強制ではなくて自己改革です。金融情勢等々が非常に厳しくなっていくなかで、組合員の方々に対して継続的なサービスを提供するためのあるべき姿を自らで考えていただく必要があります。JAからの信用事業譲渡は対応の選択肢の一つと考えています。

(写真)農水省経済局金融調整課 組合金融グループリーダー 山田 貴彦氏

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