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シリーズ:今村奈良臣のいまJAに望むこと

【今村奈良臣・東京大学名誉教授】

2017.03.12 
第5回 仮説を樹て、思考し実践しよう一覧へ

 「JAの役職員の皆さん、それぞれの役職・持ち場を踏まえ、自らの仮説を樹て、思考し、新しい実践の道を切り拓き、推進・実行して、多大な成果をあげようではありませんか。とりわけ組合長をはじめとする役員の方に望むところです」。これが私の提言です。

今村奈良臣 東京大学名誉教授 つまり、仮説をもって事に当たれということです。
 なぜ、仮説なのかといえば、私は若い時に、京都大学の桑原武夫先生の「学問とは仮説をたてる能力である」という言葉に接し、「そうだ!」と雷に打たれたような気持ちになったことがあります。司馬遼太郎との対談の中にありました。周知のように桑原武夫先生の弟子たちにはすぐれた俊秀が輩出してきました。それはともかく、広辞苑には「仮説とは、一定の現象を統一的に説明しうるように設けた仮定」と書かれています。皆さんは、JAの経営管理、その新たな発展、地域農業の新たな展開、さらには組合員の意気高揚などさまざまな持ち場での任務を実行するにあたり、しっかりした仮設をたてて取り組んでいただきたいと思います。

 では、そういう今村は、仮説提起という点でいままで何をやってきたか、いくつか主なものを紹介しつつ皆さんの参考にしていただきたいと思います。

◆中央分権・地方集権

 まず、第1に「中央分権・地方集権」という仮説です。
 これは農業補助金の交付のされ方やその機能がいかに不毛であるか、いかに無駄が多いかということを全国各地の市町村・集落レベルにおよぶ実状を調査するとともに、農林本省の補助金交付の仕組みとその実態を洗い出すなかから提起したものです。それまでの財政学者や地方財政論の先生方はほとんどみんな紋切り型に、「補助金は中央集権的財政システムの核心にある」と説いてきていました。これに広範な実態調査を踏まえつつ、真っ向から反論したものです。
 農林補助金は、農水省のさまざまな局、部、課、そして係というように分割、所掌されており、予算書では一見統一的、包括的に体系づけられているようにみえるが、その配分の実態は決して体系的ではなくバラバラである(つまり「中央分権」)。他方、補助金の交付を受けたい市町村をはじめいろいろの農林団体には、一括して補助金が体系的に交付されるのではなく、バラバラに交付されている。「市町村単位に一括して補助金が交付されていれば、地域振興におおいに役立つのだが、バラバラの補助金をまとめ上げてうまく使うしかない」(東北のある町長)というのが実情であった。こうした補助金の実態調査の中から「補助金は、中央分権・地方集権」という逆説的批判を通して、既存の学説を徹底的に批判するとともに、望ましい補助金事業の方向性を提示した。
 1978年12月に家の光協会から出版した『補助金と農業・農村』の第6章に、これまでのような補助金を全面的に改め「Rural Development Fund」(日本語訳にすれば「農村開発基金」あるいは「農村整備基金」ということになるが、誤解を生みそうなのであえて英語にした)ということを提示したが、この提案は、実に20年後の1999年に創設された「中山間地域直接支払制度」に実ることとなった。この中山間直接支払制度はそのあと若干の改善も行われてきているが、中山間地域の皆さんからは喜ばれ地域の維持・改善の一つの糧になっていると思う。なお、この『補助金と農業・農村』は第20回エコノミスト賞(毎日新聞社)を受賞した。農業分野からは第1回受賞の故並木正吉氏以来で残念ながらその後、農業分野からの受賞はない。なお、この家の光協会から出版したものは12版を重ねてきたが、絶版となったので『今村奈良臣著作選集(下)農政改革と補助金』(2003年10月、農山漁村文化協会刊)に収録してある。

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