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シリーズ:いんたびゅー農業新時代

2017.04.25 
【冨士重夫 JC総研代表理事理事長】JAの総合事業維持へ一覧へ

県域合併も対抗戦略に
聞き手:田代 洋一横浜国立大学・大妻女子大学名誉教授

 農業新時代を切り拓くにはいうまでもなく「新しい農協づくり」も欠かせない。それには政府の「農協改革」の狙いを改めて見抜き、安易な事業譲渡論に揺るがされず、組合員と地域から支持される総合農協の機能を戦略的に強化することが求められる。今年度はまさにその課題に正面から向き合うべきだとしてJC総研の冨士重夫理事長はこれまでにない大胆な再編論を提起する。田代洋一横浜国立大学名誉教授が聞いた。

◆狙いは信用・共済分離

 田代 新年度を迎え、改めて農協「改革」の攻撃の狙いをどうみるか、どう対抗すべきかお聞かせください。

【冨士重夫 JC総研代表理事理事長】 冨士 今後の最終的な狙いは、JAの信用事業と共済事業を農林中金と全共連に譲渡させ、それらの事業ではJAを代理店化し経済事業専門のJAにしていくということだと思います。昨年秋の全農改革の議論で全農自ら生産資材製造を行っている部門は売却して、全農はメーカーからの仕入れ契約の当事者とならない、という意見が出されたように、全農の購買事業を否定しており、JA段階でも要は販売事業だけを行う販売専門農協になれという絵姿を描いている。同時にJAを代理店化しておき、連合会は株式会社化していく、そしてM&Aの対象にする。そうした連合会制度の廃止も狙いではないか、と思います。

 田代 農水省は信用事業を譲渡させるテコとして准組合員利用規制を問題にしており、改正農協法では施行から5年間調査して結論を出すことにしていますが、調査はどうなっているのか。そもそも准組合員問題の本質をどう考えるべきでしょうか。

 冨士 現在は准組合員の利用問題について、どうすれば調査できるのか、その手法や項目などを検討しているようです。
 准組合員の数は多くても、実際の事業利用、とくに経済事業は圧倒的に正組合員が多く6~8割を占めているのが実態だということをわれわれは主張してきました。しかし、信用、共済、くらしの事業では、准組合員利用のほうが多いのではないかと批判する。それはつまり、この問題はもともと、信用・共済事業を代理店化させるための、いわば脅しということではないか。
 准組合員問題を員外利用問題のように扱い、JAが不特定多数を対象に事業拡大するのはけしからん、もはや正准の比率が逆転し、これは農業者の協同組織として問題だというわけですが、もともと制度として准組合員を認めているのであり、しかも共益権(議決権)は与えていません。ですから、いくら准組合員の数が増えても農業者の協同組織としてのガバナンス、ヘゲモニーは失われません。つまり、制度上、准組合員の数や利用量の問題と農業者の協同組織であることに関係はない。
 そもそも政府は、こんなおかしな論理でけしからんと言っているわけで、准組合員の問題は制度論に関わるのに、その議論をしようとはせず、信用・共済事業を分離・代理店化するためだけの方便として使っている。つまり、代理店化すれば利用規制はしない、という脅しです。
 われわれとしては逆に組合員制度として権利と義務が平等、公平かといったことを問い返す必要があります。そこから協同組合の制度論として准組合員に共益権がないのはいかがなものか、という話にもなり、それをどう与えるのかという議論も出てくる。つまり、誰を組合員とする協同組合なのか、その共益権のあり方はバランスのとれた公平で民主的なものとなっているかなど、われわれ自身が協同組合の組合員制度として問題にしなければならないということです。

◆准組に権利と義務を

 田代 准組合員対策は地域によって取り組みに濃淡があるようですが、農協全体としてどういう取り組みが求められますか。

 冨士 准組合員といっても、元農家で土地持ち非農家になりながらも引き続き地域に住んでいる人や、正組合員の親戚関係者、そして純然たる他地域から流入してきた住民というように階層区分があると思います。ですから、それに応じて、たとえば共益権の付与の割合がそれぞれ異なる准組合員制度を創設するなど、組合員の性格によって組合との民主的関係を作りあげて、それを定款や規約で決めていく。
 この問題はまさに「食と農を基軸として地域に根ざした協同組合」というJAの立ち位置を自己改革のなかで自らのルールとしても確立するということだと思います。今回の自己改革で掲げているアクティブ・メンバーシップの構築は、組合員との関係を権利、義務も含めて再構築する実践運動にすべきです。それを積み上げたうえで実態をふまえ、それに対応した法律改正する運動を展望すべきだろうと思います。

◆JAの総合力 失うな

 田代 農協「改革」攻撃に対して准組合員の主体的、制度的な位置づけに踏み込むべきだとのご指摘ですが、では、信用事業の代理店化はどう考えますか。

 冨士 JAが自ら主体的な総合事業体でなければ地域農業も地域経済社会も支えられないのであって、私は、代理店化には総合的にメリットはなく選択すべきではないと思っています。
 問題なのは、政府の規制改革実施計画で、代理店化の促進、と書かれたために、単協にその判断を仰ぐ議論をしてきたのか、その議論を進めろ、ということを今、政府が迫ってきていることです。したがってメリット、デメリットを組織できちんと整理したうえで議論をしていくべきだと思います。
 農水省は今のところメリットしか提示していません。自己資本比率規制を受けなくなること、信用事業専任理事を設置しなくても済むこと、事業コストが下がるといったことなどです。
 デメリットについては何も提示していませんが、手数料には消費税がかかりますので、手数料収入の水準は現在の信用事業収入の7~8割程度とも言われます。しかも手数料は、貯金量よりも貸付リスク、つまり、不良債権割合が高ければ高いほどリスクが高いために手数料は低くなる点も考えておかなければなりません。貯金残高の多寡だけではなくて貸付のリスクが高いかどうかで手数料が違ってくるということです。
 それから地域金融機関でなくなるというデメリットもあります。信用事業を中金に譲渡した後、中金が株式会社化されれば協同組合金融機関でもなくなるわけです。
 さらにあまり指摘されていませんが、譲渡とは主体が逆転するということです。他の代理店制度をみれば分かるように中金が代理店を選択するのであって、たとえば600あるJAが信用事業譲渡をしたとしても、数年後にはすべてのJAが代理店として継続できるわけではなく、採算性の悪いJAは切り捨て、収益性のいいJAだけを代理店にします、というのは基本的に中金の判断です。JAが判断することではありません。譲渡して代理店であり続けられることが当然だと思っていると、数年経ったら代理店契約を取り消されて地域で信用事業ができなくなる、あるいは他の金融機関の代理業務を選択しなければならなくなるということもあり得ます。
 そして事業の主体ではなくなるので総合対応力ができなくなり、農業や地域のインフラに投資することは、どんどんできなくなっていく。

◆代理店化で外資参入

 田代 代理店化の具体的態様はどうなるのでしょうか。

 冨士 代理店化といっても、ある1社だけの100%代理店はありえない、という懸念も指摘しておかなければなりません。韓米FTAでは、韓国の協同組合共済が株式会社化され単協は代理店化していきましたが、代理店事業の上限は1社25%、つまり、4社以上を扱う代理店になれ、というルールが導入されたということです。
 もちろん最初は100%代理店を認めますが、しかし、数年経つと、100%代理店などおかしいではないかと言い出し、結局、上限を設けて最低2社、3社などと他の金融機関が入り込もうとすることは十分に考えられるということです。郵政民営化の流れをみても、郵便局がアフラックの代理業務をしているわけですから、あれと同じことをJA共済でもやりたい、アメリカの狙いはそこだと思います。

 田代 代理店化の問題と合わせて、1県1JAへの合併問題が西日本をはじめ少なからぬ県で浮上してきました。どうお考えになりますか。

 冨士 私は1県1JAは肯定し戦略的に考えるべきだと考えています。この間の農協改革やTPP問題などを考えると、販売事業、購買事業を含めてもっと強いJAにしたいというのが現場の声です。信用事業も地域金融機関として機能を果たすべきで、事業譲渡はしないわけだが、一方で金融機関としてのボリュームを考えると、その選択肢のひとつとして1県1JAということもあると肯定すべきです。

◆効率的な1県1JA

 冨士 逆にいえば、1県1JAとは、地域協同組合として総合事業を維持し農業を核にした協同組合としてやっていくための戦略的選択だということです。その際、信用事業と共済事業はすでに統一されていて1県1JAのほうが効率的に事業展開できるわけです。そして地域金融機関として代理店化はしない。
 問題は経済事業です。これを単純に地区本部制というかたちにするのではなくて、購買事業と販売事業を分けるべきだと思います。購買事業は県内統一システムを作りあげるべきで、一括仕入れや合理的な県内配送などさらにコスト削減できる新しいシステムをつくりあげるべきです。
 一方で販売については地区本部制など、作物の特性に応じた地域の主体性で販売事業を仕組む。
 やはり大事なのは販売事業と直結した正組合員との意思疎通ですから、その仕組みとしてJAは生産者の近くにいなければならないという意味で、販売事業を中核とした新たなガバナンスの地区本部制や県全体の総合事業に関する執行体制、運営体制と民主的でバランスのとれた新たな機構を作りあげる。こうした戦略的な組織、事業のあり方について全中・県中が一緒になってモデルを練り上げ、次のJA全国大会に示すべきだと思います。

 田代 JAの核心に関わる数々のご指摘でした。時代環境の変化を受けた新たなJAの実現を期待したいと思います。

【インタビューを終えて】
 インタビューは日米交渉など多岐にわたったが、掲載部分のポイントは三点。第一は准組合員への共益権付与等の制度問題に主体的に取り組むべき時だ。第二に代理店化の相手先は、米韓FTAの前例でも、中金(信連)1行ではなく複数行(市中銀行等)へのそれになり、金融資本の傘下に入れられかねないこと。第三に1県1JA化も選択肢にいれ、その場合に信用・共済・購買事業は統合しても、営農販売は地域独自性を担保すること、である。いずれも協同組合運動の最前線からの大胆不敵な問題提起であり、関係者の真剣な検討が切に望まれる。 (田代)

(ふじ・しげお)昭和28年東京都生まれ。中央大学法学部法律学科卒業。52年全国農業協同組合中央会入会。農政部長、基本農政対策部長などを経て平成18年常務理事、21年専務理事、27年5月一般社団法人JC総研代表理事理事長就任。

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