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シリーズ:今村奈良臣のいまJAに望むこと

【今村奈良臣・東京大学名誉教授】

2018.04.07 
第51回 第16回全国農林水産物直売サミット 第5分科会における私の講演の核心部分の紹介-つづき‐一覧へ

<メディコ・ポリス>について
 メディコ・ポリス(Medico Polis)というのは、もちろん私の造語であるが、医療・介護・保育などの拠点を表現したものである。
 農村地域における人々の高齢化の進展、他方における少子化などの進展、これに加えて過疎化の進展などが急速に進むなかで、メディコ・ポリスと私が表現した拠点づくりの課題がいまやますます大きくかつ重要な課題となってきている。それらは個々ばらばらのテーマではなく、地域ごとに連携し、ネット・ワークを作りかつ包括的な整備を進めるべき課題として提起されていると考えている。

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<「寄り添う医療」「支える医療」を>
 私が敬愛してやまない医師に、長野県の佐久総合病院の色平哲郎先生がいる。その色平先生との対談の一部を紹介したい。

 

 今村 超高齢化時代に突入しようというこの時代に、佐久総合病院のような病院を全国に広げるにはどうしたらいいか。色平さんは医者である前に『私は農協の職員です』と仰っているとおり、佐久総合病院のオーナーは農民です。わが村の医者を育てることが生命線、即ちJAの役割となるのではないでしょうか。今の農村医療の基本問題はどこにあるのでしょうか。

 

 色平 21世紀の医療問題については現在、「世界一の高齢国」は日本ですから、他国の例を参考にはできません。「21世紀の医療」については、住まいと医療ケアとの連携こそが焦点となるのではないでしょうか。例えば福岡市で医者が『楽居』(らっきょ)というケア付き住居をつくりました。5階建てで1階が診療所、2階がデイケアセンター、3階がグループホーム、4、5階が個室で、施設理念はなんと「穏やかな死の援助」なのだそうです。東京の品川区でも2011年に同様の複合施設を開設するそうですが、こういった「ケア付き住宅」あるいは「ケア付きコミュニティ」への要望は今後ますます高まることでしょう。
 しかし今の国では、住宅は国交省、福祉政策は厚労省、農村政策は農水省、人材育成は文科省などと各省庁がタテ割りで別々にやっています。高齢化とケアの問題は日本が世界最先端なのですから、政治がもっと主導権を発揮し、省庁が一体となった枠組みで取り組まないと変革は難しい。そして要望実現ができないというのなら、国民やJA組合員が声をあげて「好きな人と好きなところで暮し続けたい」「ケア付き住宅政策を推進してほしい」と発信して「声なき声」を言葉にして伝え広げていくべきでしょう。人材育成についても、地域の皆さんが主体的に厚生病院で働く医療人を育成する、という覚悟が農村の今後の課題でしょう。

 

 今村 先生の活動のテーマは『治す医療から支える医療へ』です。地域全体を支える医療に転換するために大事なことはなんでしょう。

 

 色平 日本の農村では伝統的に「お互いさまで、おかげさまで」の精神で支えあって生き抜いてきました。老後の不安感について、自分たちのケアにあたる介護士や医師らを育てていくという、今こそこんな自前の活動を始めるべきときではないでしょうか。
 例えば、農山村の医師不足をどうするのか? アメリカでは看護士に様々な権限を与え解消に努めています。ヨーロッパでは後期高齢者、これについては私は"後期"ではなく"高貴"と表現するべきだと感じていますが、"高貴"高齢者に「過剰な医療」は必要ない、という考え方が広まっています。
 適正な医療とは何でしょうか。マカロニのような管だらけになった祖父母を見て、孫たちはそんな姿になりたくないと感じることでしょう。もちろん治せる病気は治すべきです。しかしいよいよ治らない、となった事態にどうするのか? そんな時こそ"寄り添う医療""支える医療"が必要です。われわれはJA職員として、そんな組合員の想いを多少なりとも聴き取ろうと努力し続けていきたいと思います。

 

 今村 医師不足の問題は厚生連も声をあげていますが、次代を担う医者、とくに農村の医者をどう育てたらいいでしょうか。

 

 色平 21世紀の課題は何か、を敏感に感じ取れる学生を育てたいものです。今村先生はかねてより「高齢者じゃない、高齢技能者だ」と仰っておいでですが、まさにそのとおり! 高齢の方々はたくさん知恵や技をおもちです。若い世代の方には、現役の高齢技能者にお世話になる形で学んでもらいたい。(中略)日本古来の「お互いさまで、おかげさまで」という農村の伝統精神を受け継いでいく必要があるでしょう。だから毎年百数十人の医学生が来村し、いわば私は"悪"の道に誘い込んいるわけです(笑)

 

 今村 いやいや、"悪"の道ではなく、"正義"の道でしょう(笑)。

 

 色平 これまで10年間で1500人以上を"悪"の道に誘い込んでしまいました。

 

 今村 私はずっと前から、全国にある農業高校を生命総合産業高校に改革した方がよい、と提言してきました。食料の生産と確保だけでなく、人びとをケアして、生物を守って...と農業ができることはいっぱいある。...(中略)しかしそういう狭い技術ばかり教えるのではなく、生命総合産業高校ということになれば入ってくる学生も目の輝きを変えるでしょう。

 

 色平 医療が技術だけでは視野が狭くなります。農業も一緒かもしれませんね。"農"はすでに農業の枠組みを超えて地域とふるさとを支える生業(なりわい)として別枠で位置づける必要があります。"農"を単なる産業として考えるのではなく、地域コミュニティ、食文化、健康、自然、景観などと結びついたトータルな"業"として拡げて捉えて表現する必要があります(後略)

 

 以上、色平先生との対談を紹介するかたちで、メディコ・ポリスのあるべき望ましい方向を示したつもりであるが、これらに加えて、それぞれの地域の特性に対応して医療や介護、それに保育はもちろん子供たちのための教育の施設やその望ましい方向付けを、市町村やJAとの協力、指導を含めて、地域特性を踏まえた充実の方向を考えてもらいたいと思う。
 (注)なお、色平哲郎先生との対談の全容は拙著『私の地方創生論』(農山漁村文化協会刊、2015年3月)の第10章「メディコ・ポリスを考える」に出ている。機会があれば読んでいただきたい。

 

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