JAの活動 特集詳細

特集:激動に対応して

2014.10.10 
【対談 村上前副会長・伊藤前常務(後編)】大災害に協同の本領発揮 高齢化社会の世界モデルに一覧へ

・政治との関係議論を
・大災害に本領を発揮
・「脱原発」に広島の思い
・小水力で地域自給を・支店の協同活動に成果

 相次ぐ政権交代、さらには安倍政権による農業・農協改革などで、この数年、JAグループは、時の政権との間で一定の緊張関係を余儀なくされた。一方で、第25、26回のJA大会決議に基づきくらしの活動分野でも、支店の協同活動、女性の運営参画など、自らの組織基盤強化や地域の活性化に向けた活動を積極的に展開してきた。10月3日掲載の前編に引き続き、この間、JA全中にあってJAグループをリードしたJA全中の前副会長・村上光雄氏、同じく前常務・伊藤澄一氏に語ってもらった。

JAの立ち位置に自信を
協同組合の原則に即して

◆政治との関係議論を

JA全中前副会長・村上光雄氏 伊藤 TPP(環太平洋連携協定)に対するJAグループの取り組みに、海外の農業団体や協同組合の仲間たちが理解し、発言しています。国内と同時に、世界的にもTPP問題や日本JAグループの現況を訴えていく必要があります。ここに至るまでに、日本の農業、JAにとっても大きな出来事の一つに政権交代がありました。当時、これをどのように受け止められましたか。
 村上 政権が替わったときは、民主党で本当に大丈夫かなと思いました。戸別所得補償制度ができ、組合長の会議などでは民主党に接近するべきだとの意見もありましたが、政権が流動的なので、やはり全方位で平等に付き合うべきだと考えました。結果的にはよかったと思っています。だが、今の安倍政権の農業・農政改革論議をみると、協同組合として、JAグループとして農政活動や政党との関係はどうあるべきか、真剣に議論する必要があると感じています。
 JAの政治的活動には限界があります。JAは政治的中立が大前提です。ただ、そうはいってもわれわれの考え方とまったく相容れないときはどうするのか。今回のTPPもそうですが、食料自給や地域社会のことは国民全体の問題でもあります。いまは、協同組合の政治的中立という立場を堅持しつつ、高度な判断が求められる局面にあると思っています。
 本来は、よき文化と伝統を守るのが「保守」ですが、今の政権はこれを壊すことをやっている感じがします。ただし、政治的に潰されることのないように、JAグループの農政運動を見直し、今日的に国民的な理解を得られる運動に転換していく必要あるのかもしれません。軽々に言えない難しい問題がありますが、政治とのかかわりは、その時々のJAトップの判断が重要になると思います。
 伊藤 この6年の出来事の年表をつくってみました(下表)。この間、衆・参両院の選挙がそれぞれ2回ありました。選挙制度の仕組みもあって政治の変化が極端になり、政策も振れやすくなりました。そのなかで変化に弱い第1次産業や国民の生活に火の粉が飛んできています。それに応じて、JAグループのなすべきこと、進むべき道の選択も重要な意味を持ちます。これまでの激動ぶりを振り返ると、この先何が起こってもおかしくはありません。
 その意味で、農山漁村に甚大な被害をもたらした平成23年3月11日の東日本大震災は、JAの存在意義、協同組合の力が発揮された出来事でもありました。

(写真)
JA全中前副会長・村上光雄氏

激動年表

 村上 私はあの時、羽田空港にいましたが、対岸の千葉から火の手があがり、「日本はいったいどうなってしまうのか」とさえ思いました。その後の東京電力福島原発の事故です。「日本はどうなるのか」と非常な危機感を持ちました。
 伊藤 私は翌日の日本農業賞の表彰式典の主催者側として段取りしていましたが、急きょ中止にしました。激動の年表をみると、平成22年度は歴史的な年になりました。4月の口蹄疫発生、夏の酷暑、そして10月にはTPP問題が起こりました。鳥インフルエンザ発生もこの年です。その年度のM9.0の巨大地震、巨大津波そしてレベル7の原発事故が発生するなど、本当に苦しい1年で、言葉に言い尽くせない思いがあります。不安定な政治環境の中での出来事でした。

◆大災害に本領を発揮

JA全中前常務・伊藤澄一氏 村上 残念ながら、農業やその生産基盤である農村・地域社会は、自然災害や政策の変更に対して、受け身にならざるを得ず、とくに最近は地域限定のいろいろな異常災害の発生に苦しめられています。災害のことは時間がたつと風化するものですが、いろんなタイプの災害が忘れる間もなく次々と襲ってきて、今年も8月には広島で豪雨による大規模な土砂災害があり、74人もの方々が犠牲になりました。
 伊藤 豪雨による土砂災害は、巨大地震とは違った意味で注目されます。この種の災害は、日本中どこでも起こるという教訓になりました。広島ではどう受け止められましたか。
 村上 広島での土砂災害は平成11年にもありました。その2年後に土砂災害防止法ができましたが、その経験が生かされていない。そのときに経験のある年配の人は、「用心しろ」と言っていたようですが、夜間の短時間での猛烈な雨量であり、明け方の土砂災害となったこともあります。急傾斜地の宅地開発であったためか、新しい家が多くやられました。行政の問題もあるのではないでしょうか。
 伊藤 広島の土砂災害では、公助とともに、地域ごとの自助・共助の精神も大事ということを教えられたように思います。
 村上 東日本大震災の時はJAグループも積極的に支援活動を展開、規模は違うものの、広島の土砂災害の被災地は新興住宅地でJAの組合員が少なかったせいか、JAの動きは鈍かったように感じます。普段からの何らかのつながりをつくっておくことがいかに大事かということを教えられました。
 ただ、こうした災害の時に思うのですが、JA共済の力は大きい。このたびもそうですが、あれだけ大変な目にあっても組合員が比較的落ち着いていられるのは共済制度が精神的な支えになっているからだと思います。東日本大震災では1兆円近い共済金が支払われましたが、びくともしなかった。長年にわたって築いてきたJA共済の力です。
 伊藤 人も動きました。日本中の共済担当の職員が震災後、ただちに被害調査・損害査定などの応援のため現場に入り、被災者からは「お陰で元気が出た」と、JA共済が再評価されました。JA共済は長い歴史の中で、担保力を高め保障拡充で力をつけてきました。それが大震災でも様々な異常災害でも役立っています。世界が注目する日本のJAグループの成功事例の一つです。
 村上 このほかJAグループは、大震災時の細やかな新聞報道、被災地への物資の調達、農家やJAの経営再建、支援の人たちの現地派遣、JA厚生連病院の医師・看護師の皆さんの被災地派遣などで、言ってみれば「JAルート」の協同活動をしました。JAレベルや女性部同士の支援活動となれば、それはもう無数といっていいほどです。第26回JA大会決議では、このような経験をもとに、地域社会をいかにして守るのかが、丁寧に書き込まれています。さらに原発事故に対しては、JA大会決議で、「脱原発」などの方向を打ち出しました。

(写真)
JA全中前常務・伊藤澄一氏

◆「脱原発」に広島の思い

「脱原発」を宣言した第26回JA全国大会 村上 脱原発はよい提案だったと思います。大きな反響がありました。われわれ生産者は、消費者に安全で安心な農産物を安定的に提供する役目があります。その農産物を汚染させる原発は必要ないというのは当然のことです。
 個人的な話ですが、広島市に原爆が投下されたとき、私の父は市内にいて被曝し、原爆症に苦しみました。このため私は大学を卒業し、すぐ農業に従事しました。原発は拒否すべきでしたが、これまでは「平和利用なら仕方ない」と思っていました。しかし、いったん事故が起きてしますと、原発は原爆と同じように放射能をまき散らすのです。認識が甘かった。そこで、被曝地広島県のJAグループの会長として、苦しんでおられる福島県の人々への償いになればと思い、JA全国大会決議に「脱原発」の提案をしました。
 伊藤 同時に再生可能エネルギーの利活用を打ち出しました。広島県は小水力発電で長い取り組みがありますが...。

(写真)
「脱原発」を宣言した第26回JA全国大会

◆小水力で地域自給を

 村上 日本は水資源が豊富です。原発は安上がりといいますが、それが間違いだということは原発事故で明らかになりました。この点、小水力は農業用の小水路と、ちょっとした落差があれば発電が可能です。小水路は農村のいたるところにあり、中山間地こそ導入するべきで、企業がやる大規模な太陽光などとは違います。地域の資源は地域に還元したいものです。
 伊藤 米づくりに用水路は欠かせません。網の目のような用水路を守るために農閑期の地域でも人々の参加が必要です。鉄道は10cm鉄路が途絶えると動きません。用水路も同じです。そのような地域社会の営みを国民や政治に理解してもらいたい。また、JA大会決議では「支店を核とした協同」を出しましたが、この取り組みはどうでしょうか。
 村上 支店を拠点とした協同活動は当然のことで、先進的なJAからは、「何を今さら」という声もありましたが、やはり支店レベルでの協同活動をちゃんとやらないと、広域合併してますます組合員離れが進む恐れがあります。支店活動ができていれば、少々規模が大きくなっても、本来の拠点は守ることができます。これがJA改革の一つです。
 支店にあった事業展開をやっていくことで、自主的な判断力を持ち、実行できる職員も育ってきます。また支店活動の中で、女性の活動が活発になったのも大きな成果です。
 伊藤 平成25年のデータでみると、女性の正組合員は約90万人で全体の20%、総代が2万1000人で7%、女性役員が1117人です。平成26年度のこれらの数値は、さらに大きく右肩上がりに増えています。これまでの目標数値をもった取り組みがはっきりと成果を出しています。併せて65万人の女性部、7万人の青年部が支店活動の中心である8300人の支店長を支えています。1000万人の組合員、家族等を含めると数千万人の人々がJAとつながっています。
 村上 JAは農業者だけの集まりではない。女性農業者が半分を占め、家庭でも家族のくらしを守っています。それにもかかわらず、農村は男性社会で、それでいいと考えていたことが間違いでした。しかし、JAも女性の経営参画や女性視点での地域づくりに取り組むことで、これまでにないJAづくりができてきていると思います。これは本当に楽しみです。国も地域のこと、女性のことを政策の中心テーマとする取り組み強化を図っています。JA改革論議を進めるわれわれの立場を後押しするようなものになればいいと思います。

◆支店の協同活動に成果

 伊藤 JAのくらしの活動も次第に女性が中心になっていますが、不安に思うのは高齢化です。すでに農村はこの問題に突入し、700近い全国のJAがこれに立ち向かっています。このこと自体が日本の将来に関わる問題だと思います。
 例えば、厚労省の推計値では、認知症460万人、軽度認知障害400万人の高齢者がいます。この人たちを支えているのは農村部ではJAであり、女性であり、女性部です。いま全中ではくらしの活動の中で、JA厚生連病院と連携して、健康寿命を延ばすために全国の半分のJAが介護保険事業を実施するのを指導し、健康寿命100歳プロジェクトの取り組みを広めてきました。つまり、JAグループは高齢化が最も進んだ地域で世界の最先端の問題に自治体とともに取り組んでいるのです。そのことは政府の農協改革論議の視野に入っているのでしょうか。
 村上 その通りです。これから高齢化社会を迎える中国もインドも日本を参考としてみています。アメリカや西欧も同じです。それにもかかわらず、規制改革会議は、協同組合のことを知らない委員ばかりで、その報告をみると、全中やJAグループが現在果たしている役割を評価することなく、むしろJAをたたくための材料ばかりを取り上げて、政治的な宣伝をしているとしか思えません。
 ただ、JAは今のままでよいわけではない。その一つが組合員問題です。26回JA大会で議論すべきテーマとしてあったものですが、結局はできませんでした。全中として、何らかの対応を打ち出すべきと思います。
 それと組織討議のあり方です。いま実態は一部の代表者に議論を任せてしまい十分な参加型になっていない。少し形骸化していると思っています。本当に地域の存続、農業のあり方を自らの問題として真剣に議論しているのかどうか、私自身の反省点でもあります。農業者だけでなく、一般国民を含めてモニターを設けるなどで、みんなの意見を吸い上げること。これがきちんとできないと、JAへの国民の理解を得ることは難しいでしょう。
 さらに経済事業の問題があります。昭和20年代後半の整促法(農協連合会整備促進法)による無条件委託販売に安住し、販売努力を怠っていた。組合員が一生懸命作った品質のよいものは高く売ってあげる。努力したことが報われる公平な価格実現が求められるのではないか。これは購買事業でも同じことだと思います。
 また、市況の変動に左右されないように、販売のリスクをヘッジする方法も、共済制度や先物取引を含めて、組織を挙げて検討していく必要があるのではないかとも思っています。制度面など難しい問題もあるが、これを考えないと農家所得の向上が難しく、またすべてを経済連や全農に任せると、JAの職員が勉強しなくなります。JAグループは、それを宿題として議論してもらいたいと思います。職員の教育、人づくりもJAにとって重要な課題です。 
 伊藤 人づくりについて。JA職員は、自ら生まれた地域でJAの一員として人生を全うする。課題は多いが、社会的に意味のある仕事をしていることを誇っていただいてよいと思います。JAの仕事で一人前になり、OBとして地域に戻り、JAで学んだことを活かす。そういう人材をJAは輩出しています。そのしたJAグループの役割も協同組合の理念に拠っているのです。本日は長時間の意見交換ありがとうございました。
 村上 協同組合の発展のために、これまでのJA大会決議を実践し、来年の第27回JA大会に向けて議論を深めましょう。

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