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特集:JAは地域の生命線 いのちと暮らし、地域を守るために 2017年今農協がめざすもの

2017.01.05 
【今JAに期待すること・石田敦史 パルシステム生活協同組合連合会理事長】農協は地域で存在感示せ一覧へ

力強い日本の根源は しっかりした地方に

 グローバル化をめざす新自由主義経済に綻びが見えてきたのではないか。そしてそれは協同組合の存在感を示す時の到来ともいえる。この間の農協改革に名を借りた農協攻撃について、さらにこれからの協同組合わけても農協のあり方について、同じ協同組合である生協の石田敦史パルシステム連合会理事長に聞いた。

 ――昨年、国の規制改革推進会議農業WGや自民党の小泉PTなどで、「農業改革」「農協改革」について議論され、それに基づいて閣議決定されましたが、こうした一連の動きに対してどのようにお考えになりましたか。

石田敦史 パルシステム生活協同組合連合会理事長 農業の現状をみると一部で所得が向上していますが、それでも離農する人がいて、同じパイの中で所得が移動しているにすぎません。将来に向かって安定して農業に携わっていけるような構造になっているかといえば、まったくなっていないと考えています。
 農業改革も農協改革も、かつての「郵政改革」と同じで、東京や関東圏の常識で考えているといえます。

 ――それはどういうことでしょうか?

 事業高でみればその中心は、シェアが高いのは人口の多い地域です。そのシェアの高い地域の事業構造を日本全国に敷衍しようとすると、人口の少ない地域には、非常に大きな問題がしわ寄せされることになります。例えば、離島や中山間地には、ATMは農協か郵便局にしかありませんし、買い物をしようにも農協の直売所か小さな雑貨店があればいい方だというのが現状です。
 そうした地域に民間企業は投資しません。なぜなら、彼らとっては投資に対してどれだけ回収できるかが全てですから、そうした地域は荒廃に任せて、住んでいる人は都会に来いと言っているのと実質的には変わらないといえます。にもかかわらず政策に目を向けると「農業は成長産業」とか「美しい水田風景を残す」とか、きれいな言葉があふれています。
 しかし「成長産業」といいながら、日本の農業をどういう姿にしていくのかという、グランドデザインがありません。まず、グランドデザインを描き、その実現のために、全農や全国の農協がどういう役割を果たすのか、国は何をするのかを、具体的に示さなければならないと思いますが、この間の議論にはそうしたことが見えませんでした。
 日本の棚田を含めた美田を守ってきたのは、昔からその地域で暮らしてきた小規模な兼業農家です。米だけでは暮しに必要な収入が確保できないから、地元の企業などに勤めて農業以外の収入を得て、美田を守ってきています。
 そして「美田を守る」ためには、毎年毎年、田を起し作物を作り続けることです。それが水の流れを守り、地域の暮しや文化となってきているわけです。つまり、農業とは農産物を生産するだけではなく、そこに生きている社会や文化と密接不可分につながっているものなのです。
 そのことで地方がしっかりとすることができ、それが日本の力強さの根源だったのです。ところがいまは、一部の都会だけで考える構図になってしまっています。
 かつて日本の製造業は、一つひとつの部品を全部国内で作ってそれを組み立てて輸出していました。しかしいまは地方にあった電子部品などの工場がなくなり、海外から部品を輸入して、それを組み立てて「日本製」として輸出しています。これでは輸出している企業だけが潤いますが、日本全体に与える影響はほとんどないに等しいといえます。そのために、そうした工場で農業外収入を得ていた兼業農家は疲弊してきています。
 そのうえで「成長産業」という美辞麗句の下で、一部の生産者の成功事例もって、大多数の農家を潰すような構造が押し進められようとしていますし、非常に足腰の弱い社会に向かっているように見えます。
 国の安全保障とは、けして軍事力だけを指すものではありません。食料とエネルギーが揃わなければ、国の自立性を疑われます。そういう意味でも、自分たちの食料は、国内でしっかり作っていくことです。

 ――民間企業の参入や大規模化することや輸出することで「成長産業」にといっているように思えますが...

 農産物の輸出をみていると、高級食材を中国やアジアの富裕層に売っています。特定の商品だけが輸出で強くなっても、地域の農業や経済の発展にはなりません。それぞれの地域で、いろいろなものができ、お互いが依存する関係ができることで地域が発展し、日本の国の力強さが生まれるといえます。
 また、日本農業は規模が小さいから生産性が悪い、生産性が悪いから赤字になる。そんなのに任せられないから、集合して大規模化しろ、企業が参入して効率化して生産性を上げろといいます。
 大規模化して株式会社化することも、参入する企業も株式会社ですから、投資をした以上はどれだけ回収して利益を上げられるかが最大の関心です。そのために給料で働く人たちが増えますが、儲からなければ企業は撤退しますから、その瞬間に地域から人がいなくなり、寂れ、文化もなくなっていきます。

 ――地域の経済や文化の核となるのは農業であり、それを支えると同時に、よりよい食をということで産直事業をされているわけですね。

 私たちの産直は、単なるモノのやり取りではありません。利用することで社会に貢献する、つまり、おいしくて安全な食べ物を扱っているだけではなく、その商品を利用することで、その商品をつくっている地域社会が発展することにつながるようにと考えています。この場合の「発展」とはGDPでという意味ではありません。
 例えば沖縄の恩納村とは、モズクを食べてその資金でサンゴを植付けています。毎年1000本のサンゴを植付け、いまではその数は8300本になっています。この海では魚が増えていますし、サンゴが育って産卵する姿をみると感激します。そしてなによりも、若い漁業従事者が増えています。この若い人たちが、未来に展望をもって恩納村でしっかり仕事をしています。
 昔は、そういう社会が日本中にいっぱいあったから、日本は豊かな国だったのです。そういう構造をもう一度、それぞれの地域でつくっていく必要があります。例えば、米や野菜を作ることが、その社会にとって何を実現しているのかを、経済以前の価値もしっかりと認識して、地域で協同でやっていくことだと思います。
 これは東北のある養鶏生産者の事例ですが、鶏ふんは昔は肥料にしていましたが、いまは余ってしまうので多くを産業廃棄物として処理してきました。そこでバイオマス発電にして、その電気をパルシステムが買っています。初めは苦労したようですが、彼らが考えたのは、魅力ある地域にするためには、肉だけ作っていればいいのかということです。電気を作って都会に売ることで、都会と新たなつながりができるし、生産することは必ず地域や周辺に影響をおよぼすから、安全でおいしいモノをつくっているから「文句をいうな」ではなく、そのことで地域をどう発展させるのかを考えた結果が電力事業でした。
 これは一人の生産者が考えてできるものではありません。この養鶏によるバイオマス発電も、地域で反対する人がいました。それをなぜそうすることがいいのかを伝える。このバイオマス発電の電気は、都会の人が使いますから、利用料金は都会からこの地域に入ってくるわけです。
 それが地域にとってどれだけプラスになるのか説明して、地域の意思をまとめる役割は今後、農協が積極的に担っていく必要があるのではないでしょうか。

 ――それは地域の人たちとも必要ですね。

 農協はこれまでに、経済的な理由からガソリンスタンドや店舗を閉鎖してきています。これは経済的合理性からの判断だと思いますが、これからは、どうしたら残せるかを、それを利用する地域の人たちと一緒に考えることが大事ではないでしょうか。農協だけで考えると、損益が...となってしまいますから...。
 残すためには、農協としてはここまではやりますが、地域の人たちにはこういうことをやってくださいとか、これは我慢してくださいと説明し、地域の人たちにも存続するための責任の一端を担ってもらうことです。
 場合によっては、地域の人が交替で店に出てもいいとか、営業時間は毎日でなくても大丈夫とか、互いに意思を探りながら、時間はかかってもコミュニケーションをとっていく。そして互いに納得して存続させていくというように、一緒に考えていくことが、協同組合の原点だと思います。

 ――そうすることで、農協が地域にとってもなくてはならない存在になる...。

 一つの事業で利益が取れるかどうかという狭い意味での経営的判断ではなく、協同組合は助け合いの精神ですから、何のために農協があるのか、地域にとってどういう存在価値があるのか、一つひとつ考えて判断をしていくことです。
 そして、農協と組合員あるいは地域の人が、一対一ではなく、農協と組合員や地域の人たち全体と話し合う場をつくり、地域の意識をまとめ上げていく。それが協同組合の、農協の存在価値です。
 私たち協同組合は、利益を求める企業やいまの政府とは、そもそもどういう社会を創るかという思想や世界観が異なります。助け合いという協同組合精神で、農協も漁協も生協もその他の協同組合も互いに手を取り合い助け合いながら、よりよい社会を創っていきたいと考えています。

 ――ありがとうございました。

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