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特集:農業協同組合に生きる―明日への挑戦―

2017.07.21 
【協同組合だからこそできるJA全農の事業】目指すは農家の生産性向上と所得増大一覧へ

 規制改革推進会議農業WGや自民党農林関連部会などが「農協改革」を声高に唱え、農協法改正と全中の一般社団法人化などを進め、さらに攻撃をエスカレートさせてJA全農は「株式会社化」することが当然だという論調を大手マスメディアを使って広げている。その主張には、弱者が助け合い社会で生きていくための組織「協同組合」について、何も理解していない、あるいは理解することをあえて拒否するという悪意さえ感じる。そこで協同組合組織・JA全農だからこそできる事業を改めて考えてみた。

全農グループの飼料原料の海外ネットワーク(2017年7月現在)

【図】全農グループの飼料原料の海外ネットワーク(2017年7月現在)
※クリックすると大きな図が表示されます。

◆力を合わせて負け組をつくらない

 まず初めに、株式会社と協同組合は何が違うのかを整理するために表1を見て欲しい。大事なことは「目的」の違いだ。協同組合は「組合員の生産と生活を守り向上させる」ことにあり、「非営利」組織だ。「営利=利潤追求」する株式会社とは、まったく違う性格の組織なのだ。

協同組合と株式会社の違い


 そして、この表1でもっとも大事なのは、表下段の「特徴」だ。便宜的に「特徴」としてあるが、実際は「思想」の違いだ。「今だけ、金だけ、自分だけ」は鈴木宣弘東京大学教授の言葉だが、この言葉ほど、TPPを強引に推し進めようとする新自由主義者を的確に表現した言葉ない。
 この対極にある思想が、目先だけではなく将来を見通して組合員の利益になると思えば取組んでいく協同組合だ。経済的な利益にはつながらないことでも、組合員のくらしに役立つならば取り組む。自分たちだけの幸せを求めるのではなく、農業者がともにくらす地域の人たちを含めて考えていく。それを端的に表現すれば「長期的、多面的、利他的」ということになる。
 そして「他者を蹴落として勝ち組をめざす」のではなく、「力を合わせて負け組をつくらない」のが株式会社とは異なる協同組合の根本的思想だ。
 さらに組織形態としての絶対的相違点がある。それは、協同組合は「絶対に買収できない」という点で、株式会社化しろという主張は、実質的には他社に買収されろ、と言っているに等しい。
 また、法的に認められている事業方式もある。力の弱い小さな農業者が協同することで、生産資材のロットを大きくして資材の価格交渉をし、生産コストを抑制してきた(共同購入)。生産された農産物も個人では量が少なく販売しづらかったり、価格交渉に負けたりするので、地域の農産物を一つにまとめて販売し収入を平等に分配してきた(共同販売・共同計算)。だから農協は独禁法の適用除外とされてきたのだ。
 こうした農家の協同の力が、第二次世界大戦敗戦後の食料難の時代に食料を増産し、1億を超える国民が餓えることなく、日本経済の成長を支えてきた原動力なのだ。
 今日の日本国があるのは、農協という総合事業を行う協同組合があるからだということを「今だけ、金だけ、自分だけ」の人たちも含めて、再確認する必要がある。
 この思想はいまもJA全農に脈々と受け継がれ、実践されている。その最近の具体例を紹介する。

◆求めるのは利潤でなく組合員メリット

 リーマンショック前の2008年、世界的に肥料原料価格が高騰。この影響で国内の肥料価格が上昇する。この時全農は価格高騰による影響を抑制するためと、適正な施肥で生産コストを低減するために、全国9か所に「広域土壌分析センター」を設置。ほ場の土壌分析を行い、そのデータに基づいた適正な施肥を行う、地道で手間暇のかかる技術提案をしてきている。併せてPK(りん酸、加里)成分を抑えた低コスト肥料「PKセーブ」シリーズの取扱いを開始するが、いまだに全農の肥料事業は当時より3割ほど減少したままだ。このように「手間暇をかけて、売上げと収益を減らす」という株式会社では考えられない事業を展開してきている。それは「組合員のメリットを最優先してきた」からだ。
 もう一つ、畜産関係の事例を紹介する。
 JA全農には、耕種部門中心の研究機関、営農・技術センター(神奈川県平塚市)、畜産関係研究機関として、飼料畜産中央研究所(茨城県つくば市)、ET研究所(北海道河東郡上士幌町)そして家畜衛生研究所(千葉県佐倉市)がある。
 今回紹介する家畜衛生研究所(家衛研)は、昭和53年(1978年)から40年、畜産生産者のために家畜疾病予防のための衛生検査・指導クリニック事業を、大きな経費を負担して提供し続けている。
 現在1600戸の契約生産者に年間50万件を超える検査を実施。さらに全農職員である専任獣医13名が年間2000回を超える生産者訪問・指導を実施している。この家衛研の事業は「治療より予防」を重視する考え方に基づいて実施され、農家の生産性を向上させ所得の増大を目標にしている。それは全農の事業品目である「動物薬の販売は減っても、農家の所得向上を優先する」もので、これも株式会社では絶対にできない事業だ。
 記者が得た情報では、この事業は有料だが、生産者が負担しているのは検査実費部分で、全農獣医師の指導人件費などは含まれておらず、それらは組合員サービスとして提供されている、ということだ。

◆協同組合間、資本系列に捉われない提携

 協同組合の全農だからできる事業に「協同組合間提携」に基づいた事業がある。
 その一つに、あまり知られていないが他の協同組合からの出資を受け入れ、施設の共同利用などを行っている事業がある。出資しているのは、生協のコープふくしま、双葉生協、コープこうべ、コープ山口、漁協の粟島浦漁協、三重外湾漁協、森林組合の京都市森組だ。
 そして協同組合間提携としてもっとも力を発揮しているのが、海外の協同組合との数々の提携だ(ページ上の図参照)。


 全農の海外での代表的な事業として、飼料用トウモロコシ約1500万tを米国で調達している穀物船積会社・全農グレイン(ZGC)や穀物集荷会社・CGBが知られている。詳細はすでに紹介されているので省くが、ZGCはもともとは米国の有力な農協連合会やその子会社(FEC)と全農が飼料用トウモロコシの取引きをしていたが、米国の農協グループの経営が悪化・破綻したので、全農と農林中金が共同出資して設立したものだ。このビジネスモデルは、ハーバート・ビジネス・スクール(HBS)のアグリビジネス講座でのディスカッション用のケースとして1980年に採用されている。そしてCGBは、全農と伊藤忠商事とが共同して買収した会社だ。
 このZGCとCGBを保有して機能強化したことで、生活クラブ生協とのIPハンドリングが構築された。これも紹介済みなので詳細は省くが、農薬のポストハーベストフリーから始まり、いまでは非遺伝子組換えトウモロコシの分別(生産から搬送、日本国内での飼料生産まで)にまで発展している。IPハンドリングという手間暇とコストのかかるシステム構築は、効率性のみを重視する商社などにはできない。協同組合だからできた事業だ。
 飼料用穀物として重要なものにマイロがあるが、全農はアルゼンチンの農協連合会(ACA)と長期にわたって取引きし、2014年には提携50周年の記念式典を行った。現在は、ACAとZGCの合弁会社を香港に保有し、三国間販売でも提携している。
 さらにカナダの農協とは、飼料用麦類と副産物(GSP、穀物類のフルイ下)の、そして豪州の農協(CBH)とは飼料穀物であるえん麦やルーピン(キバナハウチワマメ=茎葉飼料穀物)の優先的取引きを行っている。とくにルーピンでは独占的契約を結んでおり、これとGSPを混ぜた飼料は一部地域の酪農家には欠かせないものとなっている。
 豪州のオーストラリア小麦庁(AWB)との合弁会社AZLも設立したが、AWBがカーギルに買収されたため、AWBが所有していたAZLの株式を米国最大(世界第2位)の農協CHCに保有してもらいCZLとなっている。
 そのほか東豪州(シドニー)のグレインコープとZGCが合弁でカナダに穀物集荷会社を設立。さらに、東南アジアのタイでは、農協連合会と合弁で農薬事業を行うTJCケミカルを設立した。
 こうした海外の協同組合との提携は、全農が協同組合だからできる事業であり、そのことで農家組合員の生産と所得向上に大きく貢献してきたことを忘れてはならない。
 協同組合間提携だけではなく、民間企業からも「資本系列に捉われない協同組合という公平な組織体質である」と評価され、表2のように特定なところに偏らず、日本を代表する資本系列と合弁会社を設立している。それは、彼らにとって排他的な商取引の限界を補完する意味合いがあるのではないだろうか。
 全農は、大手企業や海外農協との合弁会社の設立を加速してきており2010年代に入り既に7社を設立している動きも見逃せない。

大手企業との合併事業等


◆何のため、誰のための「株式会社化」か?

 いま、全農を株式会社にという動きがある。だが海外では農協を株式会社化することで、農協のシェアを圧倒的に落とした事例もある。例えばカナダでは、穀物集荷販売輸送を担っていた農協を株式会社化したところ、独禁法が適用され施設を売却せざるをえなくなり、さらには欧州資本の資源メジャーに買収され、たった10年でバンクーバー港の穀物積出シェアが80%から35%に低下している。
 何のために、誰のために株式会社にする必要があるのか。少なくとも農家組合員のためではないことだけは確かだ。
 世界的な米国の某穀物メジャーが、全農が株式会社になったら真剣にM&Aを仕掛けてくるだろう。そうして「農家組合員の生産と所得向上」のために弱い人たちが力を合わせて頑張っている力を削いで「自分たちのために、今だけ、金だけ」を目指す! それが真の狙いなのだ。だから日本の農家は、絶対に自分たちの「協同組合である全農」を潰してはいけないのだ。

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