JAの活動 特集詳細

特集:第64回JA全国青年大会特集

2018.02.21 
国民の食料つくる誇りをバネに【染谷茂・柏染谷農場代表】一覧へ

・都市地域で大規模農業
・米麦、野菜を軸に地域と共生

 都心から30km余り、東京の通勤圏内で都市化が進む千葉県柏市の郊外にある(株)柏染谷農場は、作業受託76haを合わせて約160ha余りを経営する。この他、河川敷の休耕地を農地に復活させ、米麦・野菜を経営する法人と、農産物直売所および農家レストランを運営する法人の2つがあり、合わせて3つの法人を持つ。染谷茂さん(68)はこれら法人の代表として「地域を元気に明るい農業」をモットーに、経営規模の拡大と、消費者との交流事業を織り込んだ、都市農業では珍しい水田を中心とする大規模な土地利用型農業を実現している。

染谷茂代表取締役 関東平野を流れる大河、利根川の中流域に当たる千葉県の柏市北部には広大な河川敷がある。肥沃だが、洪水の時は冠水のリスクがある場所である。柏染谷農場は、この河川敷を中心に約60haの農地で水稲、麦、大豆、野菜を栽培している。今年1月、有限会社から株式会社に変えて新たなスタートを切った。
 これまでの家族経営から株式会社に転換することで企業としての信用力を高め、農地の集積・集約をさらに進めようというもので、経営理念に、(1)品質の高い食料を消費者に届けるという責任と誇りを持つ、(2)特に、人に優しい、地球に優しい米作りを目指す、(3)より多くの人に農業を理解し、応援してもらえるよう情報発信に努める-を掲げる。染谷さんが就農してからこれまで、農業・地域への思いを実現するために取り組んできたことの、いわば集大成ともいえる。

 

◆大規模機械農業に夢

(株)柏染谷農場のメンバー(写真)(株)柏染谷農場のメンバー

 

大型機械を駆使した耕起作業 染谷さんは、1.5haで米と野菜を作る農家の後継ぎに生まれ、昭和43年、高校を卒業してすぐ就農した。だが、45年から始まった米の減反は農業の将来に不安を与え46年、近くにできた工業団地に、送迎バスの運転手として就職した。しかし毎日、同じような単純な仕事に疑問を感じ、3年後、家族の反対を押し切って再度就農した。

 

(写真)大型機械を駆使した耕起作業

 当初から大型機械の導入と、規模拡大による土地利用型農業を目指した。当時、若い農業後継者にとって、機械を使って大規模経営することは理想だった。染谷さんは3条刈りのコンバインと籾摺(もみすり)機を購入し、作業受託で規模を増やした。当時、兼業化が急激に進み、水田を持て余して、誰かに作業を任せたいという農家が少なくなかった。
 染谷さんはこの時、「農家の信頼を得るため、できるだけていねいに作業するよう努めた」と言う。それで得た信頼がその後、農場の規模・事業拡大に大きく役立つことになる。
 経営規模拡大の大きな転機になったのは、利根川の河川敷の利用だ。規模拡大の農業を目指し、「最初は、北海道に行って大規模畑作をやることも考えた」と言うが、バスの運転をしながら利根川の広大な河川敷に目を付けていた。「これは畑にできるのではないか」と。利根川が増水すると冠水する調節池で、当時、だれも手をつけようとしない、葦の生い茂る荒廃地だった。
 国土庁(現在国土交通省)の利根川河川事務所に掛け合って借り受け、5人の仲間と制度資金を利用して36馬力のトラクターとロータリーを購入。開墾用のプラウもそろえ、20haに麦を播いた。規模拡大と機械化がうまく噛み合い、経営が安定すると、さらに規模拡大に挑戦した。
 利根川本堤防と第2堤防に挟まれたところに、農振法の縛りや地元の反対で建設がとん挫したゴルフ場予定地があった。30年間放置されたままの108haの土地の利用を柏市が持て余し、予定地に隣接する柏染谷農場に話が持ち込まれた。染谷さんら4人は、(有)柏みらい農場を設立してこの土地を借り受け、大型のトラクターを購入して、平成16年から農地復元の作業を始めた。平成24年にはすべての土地を耕地化し、米、小麦、ジャガイモ、大豆を作付けた。

 

◆地域と共存の農業を

小学生の米づくり体験 当時、東京の秋葉原と茨城県のつくば市をつなぐ鉄道・つくばエキスプレスの工事が進んでおり、自宅近くにも新駅ができるなど、染谷さんの住む船戸地区も宅地化が進んでいた。それまで染谷さんは、住宅地中心の街づくりでなく、市民農園や米作りの体験農園をつくるなど、農業と共存できる地域づくりをどう進めるか、地域の人たちと話し合いを重ねていた。
 その考えから、柏みらい農場は、(1)市民のふれあいの場、憩いの場として親しまれる農場、(2)低農薬栽培を取り入れ市民に安心して食される農産物の生産と学校、福祉施設等への食材の提供-を運営理念に掲げた。米62ha、ジャガイモ2ha、小麦11ha、大豆5haのほか、飼料用米の栽培も行い、ラジコンヘリの利用や、GPS田植機の導入など近代的な農業とともに、消費者による「米クラブ」の活動や、小学生の米づくり体験など、幅広い生産者と消費者の交流事業を始めた。

(写真)小学生の米づくり体験

 

◆直売所・農家食堂も

直売所に隣接する農家レストラン さらに平成16年には農産物直売所「かしわで」をオープンさせた。運営は、農業者14人、それにJAいちかわが出資した(株)アグリプラスがあたる。経営の理念に「地元で生産した農産物を地元で消費する"地産地消"の事業展開を図り、消費者に農業に対する理解を深めてもらうとともに、都市のなかで共生できる農業を目指す」とうたっている。
 当時、中国産のネギが大量に出回ったころで、ネギ産地の柏市の農家は大きな打撃を受けていた。話し合いを重ねるなかで、新鮮な柏の野菜があることを知ってもらおうということになった。染谷さんは「もうけるためではない。必要だからやろうということだった」と言う。実際、開店して3年間はほとんど無給で、4年目から何とか利益が上がるようになったと思ったら、23年の東京電力福島原発事故による放射能の風評被害の直撃を受け、柿、栗、柑橘、シイタケ、タケノコなどが出せなくなり、ほかの農産物も敬遠され、売り上げが大きくダウンした。
 この時は放射能が吸収されない栽培方法を研究するなど、苦労して安全性をアピールし、信頼を回復。現在は柏市を中心に千葉県及び近隣の約230人の生産者による新鮮な農産物が人気で、午前中に売り切れてしまうものもある。取り扱い品目は100~120におよぶ。来店者は開店から3年後には延べ100万人に達し、21年は200万人、23年は300万人に達した。「かしわで」はJR柏駅から北西へ、車で10分ほどのところにあり、隣接して、地元の農作物を使った農家レストラン「さんち家」を28年6月につくった。

(写真)直売所に隣接する農家レストラン

 
 「かしわで」の名称には、「柏で新鮮な産物を選んで、食卓にのせてもらいたい」と願う生産者の気持と、「柏で採れたての食材をリーズナブルに揃えたい」という消費者の気持ちを、両の手のひらになぞえた。染谷さんとその仲間たちが、これまで取り組んできたことが、「かしわで」に結実している。
 このように染谷さんは、調節池における水田営農から始まり、借地と作業受託を中心に規模拡大を進め、現在、水稲79haと作業受託76haを中心に小麦、大豆、ジャガイモの栽培へと規模拡大してきた。その間、(株)柏染谷農場、(有)柏みらい農場、(有)アグリプラスと、3つの法人を立ち上げた。

 

◆強い危機感が動機に

(株)柏染谷農場のメンバー その動機には、染谷さんの日本の農業の将来に対する強い危機感がある。特に米への思い入れがあり、「いま主食の米が余っている。だが、なぜ米が今まで日本の主食であったか考えて欲しい」と訴える。5月に田植え、梅雨で水が供給される。小麦は刈り取りが梅雨にぶつかる。「どちらがこの国に合うか。答えは明らかだ」と言うわけだ。
 まだまだ国民の米離れ、農家の農業離れが続くものと予想する。「日本の国の食料、農業をどうするか。農家だけの問題ではない。消費者自身が自分たちの食料を心配しなければならない時代がくるのではないか」と心配する。
 そうならないためにも、農業者は「儲かるか否かではなく、国の食料を作っているのだということに誇りを持ってほしい」と思っている。また若い世代に対しては、「今が良ければというのではなく、今やれることをやっておくことだ。そうでないと、後で後悔することになる。"ゆで蛙"現象にならないようにしてほしい」。常に新しいことにチャレンジしてきた染谷さんの次世代へのメッセージだ。

 

(関連記事)
第64回JA全国青年大会特集
に関する記事は左のリンクよりご覧ください。

第39回 都市農業を支え、発展させる農産物直売所という拠点を作ろう ―柏市(千葉県)の農産物直売所「かしわで」の活動と実践に学ぶ―(17.12.17)

一覧はこちら


このページの先頭へ

このページの先頭へ