市町村とJAが主体 地域から農地流動化2015年6月3日
農地バンク制度設計上の弱点露呈
谷口信和・東京農業大学教授に聞く
26年度の実績をどう評価するか、東京農業大学の谷口信和教授に聞いた。
「機構」には農地の借り手の希望が殺到し、23万haという調査結果も出た。ところが、初年度実績では出し手は農地を「機構」には出そうとしなかったことが判明した。それはなぜか。農水省は出し手の意識の問題で、出し渋っているのだとみる。しかし、制度設計そのものの弱点が早くも露呈したのだと思う。
これまで都道府県の農業公社がそれなりの実績を上げてきたのは農地の売買である。つまり、農地所有権の集約は市町村ではなく都道府県レベルの役割だったといえる。一方、賃貸借を通じた流動化は市町村が担ってきた。そういう分業関係にあり、さらに市町村段階では農協が実質的にほとんどの農地集積に関わってきたところが多い。「機構」の評価のためには、農地流動化をめぐるこうした基本的な枠組みをふまえる必要がある。
◆地域内で流動化
農地の売買とは、所有権の永久的放棄だから相手は誰でもよいという側面があり、近くの人に売る必然性はないから県という自分から遠いレベルの機関が役割を果たすことは十分に考えられる。
一方、賃貸借とは、いつか農地を使うか処分するかもしれないから、売りはしないが農業的利用を、と貸し出すことだ。ただし、所有者の高齢化を考えると近い将来の相続発生の可能性や、そう多くはないが転用への期待もまだあることなどから、必要なときの自由な契約解消が期待されている。そのために賃貸期間の長期化に対する抵抗感があり、事情が分かっている人に貸したいということなる。そこで農協が頼られることになる。
県も市町村も信頼できる公的機関ではないかと考えられるかもしれないが、それは行政側の一方的な見方である。とくに国や県といった行政は農民からすれば遠い存在の「お上」、土地を召し上げられた歴史があるという意識も残っている。
これに対し農協がなぜ信頼されるかといえば、自分が組合員だから。つまり、1票の権利を持った組合員がつくる自主的な組織が農地流動化を担うのは、現場の実情に即した手法だといえる。
こういう枠組みをふまえて「機構」を考えると、所有権ではなく利用権の集約をそもそも県レベルできるのかということになる。実際、今回公表された調査結果では市町村の6割が機構の業務を「丸投げされている」と答えている。ということはこの仕事自体を、県レベルではなく市町村レベルで実施すること、つまり、農地と人と農協という組織が一体になっているレベルで農地を流動化させることが適しているといえるのではないか。
◆期待されるJA
もちろん機構発足によって26年度に農地が大きく動いたことは間違いない。ただ、3.1万haという実績は期待とくらべると少ないといわざるを得ない。おそらく27年度には増えるのではないかと思う。というのも、初年度は借り手の公募が先行したため、出し手は農地が誰に貸付けられることになるのかを見ていた。そう考えると2年目には流動化が進むかもしれない。
実績をみると都道府県の間での差が極めて大きい。目標達成度は北海道76%、青森92%とかなり高い地域や、さらに徳島は178%と超過達成している地域もある。これは現場の不安、不満に丁寧に応えて、制度の内容を解きほぐして紹介していったような地域ではやはり進んだとみていい。そのうえで大事な点は転貸先の面積の96.8%が地域内の農業者だったこと。
そもそも機構は地域外の企業などに貸せという強い圧力を規制改革会議や経済界などから受けて借り手を公募したわけだが、実際には借り手は地域内の農業者だった。つまり、農地の出し手はやはり安心して貸せるかどうかを見ているということだ。
解決すべき問題は機構と「人・農地プラン」との関係が揺れ動いていること。プランで地域の担い手とされた農業者に集積しようということになっているにも関わらず、機構は借り手を公募するというちぐはぐなことをしていては信頼されなくなってしまう。そうではなく、そもそも地域内、あるいは隣接地域内に担い手が存在する場合はそこに優先的に集積され、担い手がいない場合には積極的に地域外の担い手の力も活用するといった基本的な枠組みを決めるべきではないか。こうすれば出し手も安心し、納得する。
やはり、地域から農地流動化を進めるには、末端の影響力が強くなるように業務の相当部分を市町村、JAの現場に下ろしていくべき。また、農地流動化といっても、特定の人に農地を張り付けるという狭いやり方ではなくて、地域農業をどのようにマネージしていくか、そのなかで担い手にどう参画してもらうか、まさにJAグループの地域営農ビジョン運動も大事な取り組みだという視点も忘れてはならない。
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