【オリンピック報道と民主主義の危機(上)】まるで全体主義国家にいるようだ2016年10月30日
岡阿彌靖正元JA全農専務理事
オリンピック報道については、批判的な意見が散見される。作家の中島京子氏は「気がつくと『戦争っぽさ』に囲まれている、2016年8月でもあった。…沖縄基地問題が紛糾している夏だというだけでなくて…オリンピックの報道が、やたらと『戦争っぽ』かった。NHKで解説委員が、オリンピック開催のメリットの最初に「国威発揚」が挙げられると紹介していたのは衝撃だった。…『日本がやりました』『日本が勝ちました』と言うけれども、勝ったのは伊調馨とかベイカー茉秋とか個人だろう。オリンピックは戦争じゃないんだから。」と述べ、ドナルド・キーン氏も「どのテレビも似たような映像で伝えるのは、日本人の活躍だった。まるで全体主義国家にいるような気分になった。…メディアがこの時とばかり『日本にメダル』と叫ぶことに違和感がある。…メディアが率先して民族主義に陥っているかのようだ。」と述べている。
日本選手のメダルばかりにスポットを当てて報道すれば、視聴率は稼げるかもしれないが、どの局も似たり寄ったりになった。
こうして、一方向に偏った報道は、国民の視野を狭くする。これは報道の自由の自殺行為だ。広い視野を持った国民を育成してこそ、マスコミの報道の自由も確保される。その意味で、オリンピックは各国のトップアスリートも報道することによりスポーツの世界レベルを紹介し、他国も尊敬に値することを示す絶好のチャンスであった。
日本選手の活躍ばかりの報道は、スポーツといえども国民が国粋主義や排外主義に傾く傾向を醸成する。「美しい日本」を唱える政権の高支持率も、このような報道に依存している。
* * *
オリンピック精神はもともと、インターナショナルなものだ。ポリス間の戦争が続いた古代ギリシアでは「汝らは戦争を止め、喜びの年の祭典でともに友情を培え」というデルフォイ神殿の信託でオリンピックが再開されたといわれている。ナショナリズムの熱狂から覚めて、個人に立ち返り頭を冷やせということだろう。しかし国家はこれをナショナリズムの高揚に利用したがる。例えば、ロシアはドーピングをかいくぐってまで、メダル獲得を国家的に追及したし、中国の人民日報も「国家のために栄誉を勝ち取るのが五輪の主旋律だ」と総括している。
偏狭なナショナリズムは戦争の引き金になる。マスコミに対する支配を強めている日本の右派政権が、ロシアや中国と同じように、ナショナリズムの高揚にオリンピックを利用することのないよう、心してかからねばならない。
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