【緊急インタビュー:経済評論家内橋克人氏】突き進む「官邸独裁」民主主義 踏みにじり2017年6月19日
協同組合対抗軸打ち出せ
農業・農協改革を推進してきた政府の規制改革推進会議などのあり方について現場を知らない委員を引き立てる「官邸主導」の政策決定には問題ありだ、われわれはしばしば指摘してきた。しかし、経済評論家の内橋克人氏は官邸主導どころか「官邸独裁」が本質だと指摘する。しかもそれが議会制民主主義であるはずのこの国の危機の実態だという。その象徴が強行採決。安保法制、TPP協定に続き、共謀罪法案までも、と懸念が募る状況のなか本紙は緊急に、安倍政権の本質を指摘してもらため、日本社会が国際社会とズレはじめていることや、協同組合陣営がなぜ今対抗軸を打ち立てなければならないかなどを語ってもらった。案の定、インタビュー後、氏の懸念どおり与党は強行採決で共謀罪を成立させた。われわれは「官邸独裁」の危険と仕組みについてしっかり認識する必要がある。
◆首相の万能感支える 政権の狡智な仕組み
安倍政権の本質的な問題を考えるうえでは、なぜ支持率が劇的に下がらないのかという現象について掘り下げなくてはなりません。これは非常に巧みな仕組み、歴代政権のなかでもっとも狡智に長けた仕組みをつくってしまったことにあるのですが、それを国民は見抜けず、黙認してしまっているからです。
前回のインタビュー(2016年11月30日)でも指摘しましたが、第一は閣議決定のあり方です。安倍首相はまず閣議で自分の「欲望」を通すわけですが、自分が任命した閣僚の生殺与奪の権は自分にある、だから閣僚は「主」に従うのが当たり前と思い込んでいる。異様な専制的空気のもと、閣議決定が覆ることなどあり得ません。
森友学園問題では昭恵夫人が公人ではなく私人であるということまで閣議決定しています。国会で問題にされたからだとはいえ、こんなことまで閣議決定するのは前代未聞です。
そして閣議決定さえすればあとは強行採決です。多数党ですから閣議決定してしまえば、あとは強行採決というシナリオです。安倍首相の万能感はますます高まっていくわけです。しばしば最後の責任は首相の私にある、というような言い方をしますが、あれは潔さの証明ではなくて、決めるのは首相であるこの俺だ、文句あるか、という強圧的姿勢の表れです。こういう万能感。さらにこの万能感を支える上目使いの閣僚たちというシステムがある。首相が一言いえばそれに従わざるを得ず、そうでなければすぐに更迭されるか、いざというときにかばってもらえないということです。 こういうあり方を私は官邸独裁と呼んできました。このままいくと首相官邸独裁となり、これは独裁国家のひとつのあり方です。このことを以前から指摘してきましたが、そうなってしまいました。 これを国民に錯覚させるためにどう言い繕ってきたかといえば、これまでは何事につけて官僚の壁が厚かった、だから官僚国家から脱して政治主導国家に変えるべきだ、というものです。そして、それを実践しているのが内閣府であり、さらに、以前から指摘してきた内閣府に安倍政権が新設した「内閣人事局」です。 対象は600人程度のキャリア組といわれていますが、霞ヶ関の官僚の日頃の言動まで全部すくい上げて思想性を調べているということです。公式に明らかにはされてはいませんが、要するに「人を通じて組織を支配する」のが特徴です。
◆内閣府に巣喰う 第2の官僚誕生
全体像を改めて整理しておきますと、私は安倍政権の問題を3Mと呼んできました。
1つはマネーです。デフレ脱却を掲げ日銀を支配下において日銀政策委員に好みの人間を入れていき、マネーを支配下に置いた。2つめがメディアです。御用放送と御用新聞をつくるということです。
そして3つめのMが人間(マン)であり、人の心、すなわちマインドです。実際は首相官邸独裁であるのに、官僚主導を打破して政治主導にしたのだ、と話をすり替え、こうして全国民をアンダーコントロール(制御下)においた。だから、よほどのことがない限り支持率は下がらない。
小選挙区制度と合わせ、この3Mに象徴されるような政治手法で国民は全的に支配されかけている。とくに内閣人事局によって高級官僚は人格まで支配される。文科省前次官の前川氏のように正義感のある人物は例外的な存在です。
実はこのような仕組みのなかで第二の官僚が生まれていることを認識しておかなければなりません。今回の加計学園問題で動いた内閣府の審議官らは、まさにネオ官僚です。警察官僚も含め政権が内閣府に囲い込み、そこに巣喰った新しい官僚制度の担い手が力を発揮している。これが官僚国家から官邸独裁国家へと一変した仕組みです。
この仕組みのもとで次から次へと問題の法律が強行採決のかたちで通っていく。集団的自衛権を認めた安保関連法、TPP協定、原発再稼働、そして「武器輸出3原則」も「防衛装備移転3原則」に変えてしまい、それまでの武器輸出の「原則禁止」を「原則容認」へと真逆にひっくり返してしまった。
◆議会制民主主義が 独裁国家を生む!
安倍首相の万能感が典型的に表れたのが国家戦略特区です。農業でいえば養父市(兵庫県)に企業による農地取得を認めました。会議のメンバーは首相をはじめ閣僚は全部で4人、民間議員が5人と非常に少人数です。それまでの「構造改革特区」を大仰な「国家戦略特区」へと変身させ、安倍首相を中心としたごく少人数で決定、そこでの成果を全国に普遍化しようということです。この国家戦略特区のもつ意味は、ある地域にモデルを立ち上げ、それをやがて全国化する、日本のルールにするというものです。これも閣議決定の横滑りのようなもの。加計問題もここから生まれてきました。
しかし、こうなると、これまで国の行動や資本などに対してかけていた抑制という政治機能が全部取り去られてしまう。規制改革推進会議は今度は漁業と林業の改革も議論するということですが、そこでも資本の参入、公共の企業化が狙いでしょう。
このようなやり方は必ず政治の劣化を招きます。議会制民主主義の日本ですから、いかに首相の権限が強くても首相に法律や政策の最終的な決定権はありません。しかし、以上のような政治手法を駆使すれば、議会制民主主義のもとで大統領制以上の絶対的強権を「我が物」とすることも不可能ではない。まったく新しい専横型独裁政治が民主制のもとで生まれてしまった。このことに気がつかなければいけません。これでは、議会制民主主義を標榜しつつ最後は常に強行採決が牙をむく。
◆国際社会も警告 日本社会危ない
こうした日本のあり様に対して、各国の表現の自由などをチェックする国連特別報告者であるデイビッド・ケイ氏や、共謀罪法案の問題点を指摘したジョセフ・ケナタッチ氏らが日本政府に鋭い警告を発しています。
国連特別報告者とは国連人権理事会から任命された専門家です。しかし、日本政府は特別報告者の報告に強い抗議を浴びせたり、批判したり、しています。たしかに法的拘束力はありませんが国際社会が日本の問題として共有するものです。しかも、ケナタッチ氏が調査をしているのは、北朝鮮やシリア、イランです。そこに日本も加わった、つまり、日本は北朝鮮やシリアと同じようにみなされているということです。
今、安倍政権が多数を背景に繰り返している強行採決は世界の民主主義国のなかで極めて異例です。欧米のメディアも日本に厳しい見方をしていますが、国内ではなかなか報道されません。国民は危機感をもつことができず支持率は高止まりする。
◆閉じ込められる国民 協同組合が対抗軸を
これはジョン・ダワーの著書『敗北を抱きしめて』でも触れられていることですが、朝鮮戦争の際、自衛隊の前身である警察予備隊は7万5000人でしたが、米国は35万人に増やすよう要求しました。そしてダレスが訪日する。当時の首相は吉田茂でしたが、吉田は日本が朝鮮戦争に巻き込まれては大変なことになると考え、ダレスを驚かせるために野党の社会党と手を組んで大規模な国民的デモをやった。平和を守れ、と。ダレスはそれを見せつけられて日本に協力させるのは難しいと結論づけて帰国した。
今の政治はこういう歴史をすべて切り捨てて、それ以前の日本に戻していく。しかも議会制民主主義のもとで独裁が可能になるという制度ができあがってしまった。要するに国民一人一人が発言して政府、政治を監視するという社会ではなく、逆に権力が国民を縛るというかたちに変えていこうという流れです。その本質を欧米諸国は見抜いています。
この認識ギャップが日本と国際社会との間で次第に深まりつつある。繰り返しますが、官僚主導から政治主導へという言葉にすり替えているだけであって本質は官邸独裁です。この非常に危険な密室に私たちは閉じ込められつつあるということです。
ですから、協同組合が「対抗軸」を打ち出すことが重要です。それは前回も指摘しましたが、社会的経済をしっかり築き上げていくということです。社会的経済とは何か。逆説的ですが、まさに加計問題や森友問題にみられる、いわゆる公共を企業化して特定利益に奉仕をするという政策に対して経済の側面から待ったをかけていくことが大事になっているということです。社会的経済の考え方をもっともっと広め、特定の企業、集団のための利益ではなくて日本全体のための着実な改革と発展、それは単に経済成長を追う社会ではない姿につなげて切り換えていく、大事な時期に来ているということを自覚しなければならないと思います。
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