地域を支える農協を評価「この存在はでかい」-山本新農相2016年8月4日
第3次安倍再改造内閣で農相に就任した山本有二衆議院議員は8月3日夜に農林水産省に初登庁し、就任会見に臨んだ。山本新農相は総合事業を地域で展開する農協について、公共的なサービスを意味する「ユニバーサルサービスとしての農協、この存在は私はでかいと思っている」と評価し、地域に果たす役割に期待した。
山本農相は農林水産業が基幹産業である高知県で生まれ育ったことを強調し「肌感覚で農山漁村と日常接している」と話した。
高知県のショウガなどで6次産業化などが進んでいる事例を紹介し「農林水産業が、創意工夫する新産業に成長する潜在能力はずいぶんとある」として、とくに輸出で「おいしい米やりんご、和牛など、競争力があるのではないか。日本人の味覚は卓越し日本食が世界中に受け入れられていることなど日本農業の輸出競争力を育て上げることができれば、相当なGDPの成長を獲得できるのではないか。夢ある農業へのきっかけづくりに携わることができればと考えている」と抱負を述べた。
安倍首相は会見で山本農相を"改革派"と期待を寄せた。これについて山本農相は「改革をしなければならないことは明白。産業として持続可能かどうかの岐路に立っていると思っている。食料がなかったら生きていけない。何万年もこの仕事が継続されており、それが衰退産業だというのは、日本自体が何か間違っている、政治が間違っている、あるいはシステムが間違っていると捉えるべきだと思う。
産業として成長するひとつのきっかけを作るのが、総理から与えられた改革派の意味ではないかと思っている」と述べ農業の成長産業化に意欲を示した。
ただ、大規模化や企業化だけでなく、ゴマ栽培を例に機能性を高めた商品開発とブランド化などで「零細農家でも大きな収益が得られるおもしろい産業だと捉えてやっていきたい」と強調した。
農協改革については改正農協法が施行されたことで政府として追加的に法制度改正を行うことはないとの認識を示したうえでつぎのように述べた。「ここで腰を落ち着けて(農協が)どういう役割かを考えた場合、ものすごく重要なことがある。
かつて郵政改革で言われたように、田舎の中山間の不採算な金融機関はなくなるよ、年金を受給する便利な郵便局がなくなるよ、というのと同じことが言え、ユニバーサルサービスとしての農協、この存在は私はでかいと思っている。これを一律に効率、効率で大手の銀行と同じように、それぐらいの支店しかつくらないという農協ができたならば、私は農協じゃないような気がする。
やはり生産農家の味方をしてくれて、かつまたそれ以外の方々にも農協のメリットを出してくれる存在は私はユニバーサルサービスにつながるし、広く一般的な農業への信頼につながっていると思っている。団体(に対して)これ以上、政府が求めていくということはそんなにないだろうと思っている」。
ユニバーサルサービスとは、誰もが等しく受益できる公共的なサービスを指す。山本農相はとくに中山間地域の地域住民全体にとって農協の事業がメリットとなっていることを評価した。
また、生産資材価格の引き下げについては「コスト低減による収益の獲得という考え方は筋だと思う。ただ、どこまでもゼロに近づくわけにはいかない。要は相場観がある」として「そこまで到達すると、それ以外に収益の道を見つけていくにはもっと別なところに問題があるのではないか」と指摘し、たとえばAI(人工知能)、IOT(モノのインターネット)、ビッグデータの活用などに「大勢の人がどうやれば参加できるか、インフラを農林水産省が率先してつくるということも含めて産業界とさらに詳しくやっていく必要がある。私としては完全に新規産業だと、IT産業を超えたIOT産業だという位置づけで進む分野があって全体を引っ張るということを期待している」など述べた。
また、自民党の小泉進次郎農林部会長についての評価を問われ「彼は若くて時代の掴みがいい。だから人気がある。主張していることは大枠において間違いがないと好感を持って捉えている」としながらも、「農林中金に対して非常に懐疑的な意識で臨んでいるので、一度、よく話を聞いて、どの部分がどう懐疑的ななのか、ぜひお聞かせいただきたいと思っている」と述べた。山本農相はかつての金融危機の際、農林中金が果たした役割を評価しているとの認識を示した。
そのほかの発言要旨は次のとおり。
【指定生乳生産者団体制度】
多くの声を生産者、乳業者から聞きながら検討していくことは大事だと思っている。この機能はほかに代わり得るという想定がなかなか難しい。私は今のところ存続を基本に考えていくことが大事と思っている。
【農地中間管理機構】
一般的には必要だ。しかし、地域地域でいろいろな問題が起きている。不整形地で水がないなどの問題でIターン者が移住した例も。土地改良が進んでいるところと差がある。構造改善事業が入ってブラッシュアップできる中間管理機構としてやり変えないと、使いものにならない農地もあるというのが感想だ。
【TPP】
恐怖感のほうが先に立っている。たとえば自分が作っているニラが、どこからか来たもの(と並んで)半額になってしまうというイメージがある。これを絶対来ないぞ、とは言えないので、この恐怖感をどう取り除くか。
恐怖感を取るためヘッジする政策は工夫次第であり得ると思う。検討させていただきたい。価格安定政策のようなことはどうしても考えなくてはならないのだろう。
【農産物貿易と食料自給率】
貿易と自給率は両立しえてしかるべきだと考えている。(食料自給率)100(%)をめざす意味はあまりない。自由貿易でお互いに地域の特性を活かしながらウイン・ウインの関係、交換していくことのメリットはある。
保護主義や閉塞感ではなく、改革開放のなかでわれわれが勝ち取り得る安定というものはあり得るのではないかという意味で自給率は評価として大事だ。それがゼロになることの危険性は感じながら、それを安定的な推移で持ちこたえていくことは大事だろうと思う。
努力して効率化している農家が敗北していくような自由貿易主義はあり得ない気がする。丁寧な生産や品種改良によって消費者が求めるものを作れば必ず価格がついてくる。輸入品がそんなに優れたものだとは思っていない。それを考えると、自由貿易に対して懸念もあるし、期待もあり、両方があるのではないか。
TPPはどうしてもだめだという判断はかなり思い込んでいる節もある。むしろ自分で農業をやっている方はおおらかに構えて、自分が作っているトマトはそんな易々とほかに負けないぞというプライドを持っている。そういう人を見ると全部が反対しているとは思えない。
【米政策】
米が自由競争、市場原理というものに委ねられるということは否めない事実。しかし、これだけに任せていていいのかという歴史的な認識や、米に対する愛情深い農家の方々のことを考える。昔は貨幣と同じ値打ちで、まさしくGDPの指標になった。そんな米を一刀両断に全部マーケットメカニズムでということに対しては多少躊躇がある。
ただ、たとえば高知の早場米でも例年金賞をとる米づくりの方々をみると努力次第だと思う。
直接支払い制度で何を作っても同じだというのと、マーケットメカニズムで高い米はいくらでも高くなるというところに創意工夫があり得るとするならば、創意工夫をしている人が多いのではないかと思う。
【TPPの国会審議】
不安ばかりです。それは自分が交渉していないから。ただ、国会決議に基づいて合意できていると評価している。野党から厳しい質問されるわけだが、野党が知っていることは私も知り得るのではないかと思っている。
国際的な合意をして放ったらかしではどうしようもない。承認に向けて全力をあげていきたい。
(やまもと・ゆうじ)
昭和27年5月生まれ。昭和52年早大法卒。60年高知県議会議員。平成2年衆議院議員当選。18年第1次安倍内閣で内閣府特命担当大臣(金融)、再チャレンジ担当大臣。24年衆議院予算委員長。当選9回。
(写真)就任後農水省に入る山本農相、就任後農水省で記者会見する山本農相
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