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【緊急提言】 TPP「大筋合意」の真相と今後の対応 食料・農業の未来のために 戦いはこれから2015年10月7日

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鈴木宣弘氏東京大学大学院教授

 多くの国民や生産者が反対していたにもかかわらず、米国アトランタで行われていたTPP交渉が10月5日に大筋合意した。大筋合意の意味とこれから日本農業を守るために、何を考え行動する必要があるのか、鈴木宣弘東京大学大学院教授に緊急提言していただいた。

◆本当に合意したのか?

鈴木 宣弘氏 東京大学大学院教授 難航した交渉は、2015年10月に、ついに「大筋合意」に達したと発表され、日本では「歴史的快挙」のように報道された。しかし、今回の大筋合意は、決裂しなかったと装うための見切り発車の「合意」の側面がある。日本の交渉関係者は、今回のアトランタ閣僚会合の前に、決着できない部分はどちらともとれる表現で、火種を残したままで、とにかく合意した形は作れると話していた。こうして難航した医薬品などの問題などは幅を持たせて「玉虫色」にした。


◆容易ではない各国議会承認

 米国議会がTPA(オバマ大統領への交渉権限付与)の承認にあたり、TPPで米国が獲得すべき条件が明記されたが、通商政策を統括する上院財政委員会のハッチ委員長(共和党)がTPP合意は「残念ながら痛ましいほど不十分だ」と表明し、このままでは議会承認が難しいことを示唆している。ハッチ氏は巨大製薬会社などから巨額の献金を受けている。
 カナダでは新政権がTPPに反対する可能性が指摘され、豪州、ニュージーランドにも不満が残っているといわれ、各国とも、このままで批准される見込みは高くないと思われる。米国からは、議会承認のための追加要求が出される可能性もある。
 このような中で、日本政府だけが前のめりに、米国の追加要求に応えつつ、批准に向けた国内手続きを急ぐのは愚かである。農業関係者なども、もう決まってしまったからと、あきらめモードに入るべきではない。


◆国益を次々差し出した日本

 医薬品の特許の保護期間の長期化を米国製薬会社が執拗に求めて難航したことに、「人の命よりも巨大企業の利益を増やすためのルールを押し付ける」TPPの本質が見事に露呈しているが、日本政府は、米国の要請に必死に対応して妥結を後押しした。
 日本の唯一の利益ともいわれた自動車については、域内での部品調達率が55%以上でないとTPPの関税撤廃の対象とならないとする厳しい原産地規則を受け入れたが、TPP域外の中国やタイなどでの部品調達が多い日本車はこの条件のクリアが難しい。また、米国の自動車関税は15年後から削減して25年後に撤廃されることになり、自動車で得られる利益は縮小した。
 一方で、当初から国会決議を反故にする農産物市場開放に応じた。しかも、1年以上前から「秘密合意」されていたのを隠して、必死で守ろうとしている「演技」を続けてきた。
 農産物だけではない。自民党公約と国会決議で守るべき国益とされた項目が、軽自動車の税金1.5倍、自由診療の拡大、全国郵便局窓口でA社の保険販売、BSE(牛海綿状脳症)やポストハーベスト農薬(防かび剤)などの食品の安全基準の緩和など、「自主的」な国内措置の名目で、すべて米国の要求に沿う形で差し出されてしまった。
 アトランタ会合で、他の国は国益をかけて米国と最後まで戦っているのに、それを「最後まで粘る国がいる」と批判し、日本だけは早々と盲目的・従属的な日米合意を済ませ、国益を次々と差出して、他国に早く決めろと言うだけだった。これは対等な独立国の交渉といえるだろうか。


◆虚しい国会決議 減少する国内生産

 今回のTPP合意による農林水産物の生産減少額は3000億円弱になると政府は見込んでいるが、過少と思われる。輸入牛肉価格は2割程度下落し、乳雄牛肉はもちろん、和牛肉も価格差は残るが、価格水準は平行的に下がるだろう。豚肉は4割程度の価格下落が見込まれる。
 牛肉・豚肉ともに生産コストを市場価格が下回った場合の赤字の8割を政府と農家との拠出金から補填する仕組みがあるが、農家の拠出割合を軽減しつつ、補填額は増やす必要が生じるのに、関税収入が1000億円近く減少するため、財源がない。
 コメと酪農は輸入枠の設定だが、それが在庫に回ると、我々の試算では、コメ在庫1万トンの増加につき41円/60kgのコメ価格低下、バター在庫10%の増加につき2.6%のバター価格低下につながる。さらには、ナチュラルチーズの関税(29.8%)の撤廃で国産チーズ向け生乳60万トンが行き場を失う可能性がある。政府は抜本的対策を採らない方針だが、コメも酪農も市場価格が生産コストを下回ったときの差額補填システムがないまま、生産縮小を避けられそうにない。
 このほか、小麦の関税に相当する徴収額も400億円減り、国内麦振興策の財源が厳しくなる。
 これらの「重要品目」以外は、大半の品目が関税撤廃される。中でも、果汁の関税撤廃の影響は大きい。小麦粉、米菓、ハム・ソーセージなどの加工品、砂糖やバターなどを使用した調製品などの輸入増も、国産原料農産物に大きな影響があるだろう。
 政府は、全面的関税撤廃の場合の3兆円の推定被害額に比べて1/10程度の損失に縮小したし、国会決議を守ったと言えるだけの「再生産可能な」国内対策も準備したと言うが、生産減少総額の見込みも過少であり、現在準備されている国内対策で、それが十分に打ち消せるとは到底思われない。「重要品目」の除外という国会決議はどう見ても守られたとは言えない。


◆「再生産可能」な方法を徹底して求める

 TPP交渉決着以前の時点で、TPP不安の蓄積も影響して、農村現場の疲弊は進んでいるが、日本では、欧米のような直接支払いによる農業所得のセーフティネットの形成について、コメや酪農に象徴されるように、抜本的な対策は必要ないとの姿勢が崩されていない。過去5年の平均で収入変動をならすだけでは、最低限確保されるべき所得が確保できる保証がなく、生産者は将来見通しを持って、投資計画を立てることができない。このままでは、国民への基礎食料の供給がままならない事態が起こりうる。
 現在検討中の収入保険は、過去5年の平均米価が9000円なら9000円を補填基準収入の算定に使うので、所得の下支えとは別物である。米国の仕組みを参考にしたと言うが、米国が、不足払い(PLC)または収入補償(ARC)の選択による生産コスト水準を補償した上で、各農家の選択で加入する収入保険が準備されているのに対して、我が国では、コストに見合う収入補償なしで収入保険のみが残されるのが決定的な違いであり、米国型の収入保険だけでよいとする議論は極めてミスリーディングなのである。
 ウルグアイラウンド決着時の6兆100億円のような無駄な政治的「つかみ金」は繰り返してはならない。食料は安全保障の要である。国民が自らの基礎食料の確保のために、国内農家が農業所得に最低限の目安を持って投資計画が立てられるように、どういう場合にどれだけの政策的補填が発動されるかが予見可能なシステムを農家保護政策でなく、国家安全保障政策として、今こそ確立すべきである。
 関係者が目先の条件闘争に安易に陥ると、我が国の食料・農業の未来を崩壊させてしまう。国会決議の「再生産可能」の実現方法の提示を徹底的に求める必要がある。


◆覚悟新たに暮らしの未来切り開く

 日本が、ここまでして大筋合意を装いたかったのはなぜだろうか。
 アベノミクスの成果が思わしくないのを覆い隠すため、TPP合意発表で明るい未来があるかのように見せかけようとした側面もあろう。しかし、自身の政治的地位を少しでも長く維持するために、国民を犠牲にして米国の意向に沿おうとする行為をこれ以上容認するわけにはいかない。
 国民生活と食料・農業を守るためにTPPに反対してきた者として、大筋合意という事態に至ったことは残念であり、深くお詫びしたい。
 しかし、戦いはこれからである。我々自身が強い気持ちを持って、我々の暮らしの未来を切り開いていく覚悟を新たにしたい。

<略歴> すずき・のぶひろ 1958年三重県生まれ。1982年東京大学農学部卒業。農林水産省、九州大学教授を経て、2006年より現職。専門は農業経済学。

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