農政:時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す
(77)政府は情報公開に努めるべき2013年9月6日
・むなしい共同声明
・日本の立場、明らかにせよ
・「聖域」も対象になりかねず
8月30日、ブルネイで9日間に渡って開催されていたTPP交渉会合がその日程を終え、TPP交渉参加国交渉官の「TPPブルネイ交渉会合共同声明」が発表された。その一節に、次のような文章があった。
◆むなしい共同声明
“…交渉官は、物品、サービス、投資、金融サービス、一時的入国、政府調達の市場に対して、相互にアクセスさせるパッケージを進展させた。全体及び2国間の議論は、多くの課題に対して創造的かつ現実的な解決策を作り出し、残る作業を更に絞り込むことに成功した。”
どんな“創造的かつ現実的な解決策”が“多くの課題に対して…作り出”されたのだろうか。それにふれていてこそ「共同声明」と言えるし、われわれが是非とも知りたいのはその点だが、具体的なことは何も書かれていない。
この点にかかわるが、8・31付「朝日新聞」が「ブルネイ会合で大きく前進したのは2分野」と題して次のような表を掲げていた。“多くの課題に対して創造的かつ現実的な解決策を作りだし”てはおらず、“大きく前進したのは2分野”にとどまるという整理である。これでは、どう見ても“多くの課題に対して創造的かつ現実的な解決策を作り出し”たとは言えそうにない。このギャップはどこから生じたのだろう。
◆日本の立場、明らかにせよ
交渉経過内容について、日本政府からの説明は無い。TPP交渉参加に当たり「秘密保持契約」――サインしたというその文書は国会にも提出されていないし、その内容さえ“言えない”と日本政府は言っている――とやらを結んでいるからと、我が国の交渉関係者は口を閉じているらしい。「しかし22日から続くブルネイの交渉会合では、日本政府の説明からすると“ルール違反”とも受け取れるようなことが相次いでいる」という(8・30付日本農業新聞)。たとえば“米国のワイゼル首席交渉官は…たばこ規制の新提案について「われわれの立場を明らかにした方がいいという判断で公表した」などと日本からの参加者に語った”し、“また別の国の首席交渉官によると「自国の提案は言ってもいい。それに対する他国の発言は明かしてはいけない」と言う”そうだ(同紙)。
守秘義務の判断はそれぞれに違うのである。日本政府はもっと自分の“立場を明らかにした方がいいという判断”で情報公開に努めるべきであろう。
◆「聖域」も対象になりかねず
問題はなんと言っても農林水産物分野の重要5品目(米、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物)や食の安全安心の基準、ISD条項など6項目の「聖域」確保を必須条件としている自民党や衆参農林水産委員会の決議がどうなりそうか、である。
9・1付「日本農業新聞」によると“関税などを扱う市場アクセス(参入)分野をめぐり、日本は今回のブルネイ会合で、チリとペルーを除く9カ国と個別に協議。また6カ国と、一定期間内に関税を撤廃する品目の割合(自由化率)を80%台にとどめたと見られる提案(オファー)を交換したが、各国が日本に示したオファーはより高水準のものだった”という。
鶴岡公二首席交渉官は記者会見の場では“「常識的には自由化の度合いを相手の要求に応えて上げていくということになる」とも述べ、一定期間内に関税撤廃する品目割合(自由化率)の引上げを検討する考えを示した。…日本が過去に結んだ経済連携協定(EPA)などの自由化率は84.4?88.4%で、全9018品目のうち約940品目は関税を撤廃したことがない。各国の要求がこうした水準を越え、日本がそれに対応しようと水準を上げれば、衆参の農林水産委員会の決議で「聖域」とした農林水産分野の重要5品目などに議論が及ぶおそれもある”(9・1付日本農業新聞)。
940品目の内農林水産品が834品目を占める。自由化率引上げやむなしとする交渉方針では「聖域」に“議論が及ぶ”ことは間違いないとしていいだろう。こんな秘密交渉を許してはならないのではないか。
重要な記事
最新の記事
-
地域複合農業戦略に挑む(2)JA秋田中央会会長 小松忠彦氏【未来視座 JAトップインタビュー】2024年4月19日
-
農基法改正案が衆院を通過 賛成多数で可決2024年4月19日
-
【注意報】さとうきびにメイチュウ類 伊是名島で発生多発のおそれ 沖縄県2024年4月19日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:JA水戸 那珂川低温倉庫(茨城県) 温湿度・穀温 適正化徹底2024年4月19日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ対策を万全に 農業倉庫基金理事長 長瀬仁人氏2024年4月19日
-
食農教育補助教材を市内小学校へ贈呈 JA鶴岡とJA庄内たがわ2024年4月19日
-
【浅野純次・読書の楽しみ】第97回2024年4月19日
-
(380)震災時は5歳【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年4月19日
-
【JA人事】JA道北なよろ(北海道)村上清組合長を再任(4月12日)2024年4月19日
-
地拵え作業を遠隔操作「ラジコン式地拵機」レンタル開始 アクティオ2024年4月19日
-
協同組合のアイデンティティ 再確認 日本文化厚生連24年度事業計画2024年4月19日
-
料理酒「CS-4T」に含まれる成分が代替肉など食品の不快臭を改善 特許取得 白鶴酒造2024年4月19日
-
やきいもの聖地・らぽっぽファームで「GWやきいも工場祭2024」開催2024年4月19日
-
『ニッポンエール』グミシリーズから「広島県産世羅なしグミ」新発売 JA全農2024年4月19日
-
「パルシステムでんき」新規受付を再開 市場の影響を受けにくい再エネ調達力を強化2024年4月19日
-
養分欠乏下で高い生産性 陸稲品種 マダガスカルで「Mavitrika」開発 国際農研2024年4月19日
-
福島県産ブランド豚「麓山高原豚」使用『喜多方ラーメンバーガー』新発売 JAタウン2024年4月19日
-
微生物農業資材を用いた大阪産の減肥料栽培で共同研究開始 ナガセケムテックス2024年4月19日
-
栃木県真岡市産バナナ「とちおとこ」使用「バターのいとこ」那須エリア限定で新発売2024年4月19日
-
大阪泉州特産「水なす」農家直送で提供開始「北海道海鮮にほんいち」2024年4月19日