農政:時論的随想 ―21世紀の農政にもの申す
(92)年初からの難問にどう立ち向かうか 農協改革とTPP2015年1月14日
・農協法改正案、早急に公表を
・TPP交渉は?政権公約守れ
第47回衆議院選挙は、昨年12月14日投開票され、自民党単独で衆議院の過半を占める291議席、連立政権を組む公明党と合わせると326議席を政権与党が占める結果となった。326という議席数は、衆議院の3分の2を超え、参議院で否決された法案も衆議院で再議決成立させることができる議席数であり、政権与党の圧倒的勝利を意味する議席数ではある。
“国民からすれば大義名分はない。「長期政権狙い選挙」としかみえない”(14.12.2付日本農業新聞所収の政治評論家森田実氏の発言)選挙だったが、この結果に安倍総理は大満足なのだろう。選挙日翌日の記者会見では“アベノミクスをさらに前進させよという声を国民から頂いた…農業、医療、エネルギーといった分野で大胆な規制改革を断行し、成長戦略を力強く進めていく”と“力を込め”て語ったという(“”は14.12.16付日本農業新聞)。
が、この議席の数だけで“さらに前進させようという声を国民から頂いた”と言えるのだろうか。総理にここで考えてほしいことは、この選挙が52.7%という戦後最低の投票率だったということである。52.7%の投票率のもとでの自民党の選挙区得票率が48%だったということは、有権者4人のうち1人しか自民党支持者はいなかったということを意味する。比例区得票率33.1%は6人のうち1人だということを意味する。“国民から頂いた”というにはほど遠いと言わなければならない。
唐突な解散・衆院選挙で、選挙戦を闘う準備不足の野党の虚をついて「長期政権狙い」は成功させたとはいえ、総理には戦後最低の投票率だったことにもっと責任を感じ、“国民から頂いた”などと軽々に言ってほしくないと思うのだが、戦後最低の投票率だったことについて、何の言及も総理からはなかった。
◆農協法改正案、早急に公表を
安倍総理が“大胆な規制改革を断行し、成長戦略を進めていく”と語ったのと同じ日、“規制改革会議の岡素之議長も…通常国会での農協法改正の議論に向け、中央会の農協法上への位置づけ廃止を強く求めていく考えを強調した”ことを日本農業新聞が報道していた。そして12月24日に発足した第3次安倍内閣で再任された西川農水相に総理は“重点的に農協改革を進めるよう指示した”という(12.27付日本農業新聞)。
自民党が今回の選挙で選挙公約として発表した「政権公約」では、“農協改革(中央会制度など)等については、今年6月に与党が取りまとめた「農協・農業委員会等に関する改革の推進について」に基づき、議論を深め、着実に推進”と記されていた。この文章は“発表の数時間前”に「農協改革(中央会改革)等」となっていたのを「農協改革(中央会制度など)等」に変え、「議論を深め」の文章を追加したのだという(14.11.26付日本農業新聞)。“穏健な着地点を探る農林議員と規制改革派の綱引き”の結果だった。が、自民党圧勝となった選挙後は折角の“綱引き”も無駄になった感がある。「農協改革」が新年早々に農業・農村が直面する難問になる。
「中央会の農協法上への位置づけ廃止」論は、信用・共済の分離・経済事業への専門化論、地域組合から職能組合への変質論と結びついている。それは、1980年ICAモスクワ大会でのレイドロウ報告以降、高い国際的評価が定着しているといってよい総合農協の解体変質要求論といってよい。
そういう農協改革の方向を、これまで農協を農政の滲透機構としてきた農水省もとろうとしているやに見えるが、そんなことでいいのか。農水省はもう成案を得ているという農協法改正案を早く公表し、全中の自己改革案と比較検討出来るようにすべきことを要求したい。
◆TPP交渉は? 政権公約守れ
もうひとつの難問がTPPである。「政権公約」には、TPPについて“わが党や国会の決議を踏まえ国益にかなう最善の道を追求”と書かれていた。
が、この“わが党や国会の決議”を踏まえて実際の交渉が行われているのかどうか、TPP交渉については秘密主義が国際的約束になっているとして明らかにされていない。国会決議では「重要品目は除外または再協議の対象」となっている筈だが、日豪EPA交渉ではすでに破られている。“牛肉、プロセス・チーズなどの無関税枠の設定は、やはり…国会決議に反すると言わざるを得ない”(14.4.20付農業協同組合新聞所収、鈴木宣弘稿)ことが行われているからである。
14.4.18付全国農業新聞は、自民党農林水産委員会委員長が、“「決議はぎりぎり守られたと発言…。『除外または再協議』というのは農家の皆さんの再生産を担保するという意味であろう」…と述べ、法制化も視野に入れた国内対策が重要になるとの考えを示した”と伝えていた。明らかな誤魔化しである。アメリカの大統領選を睨んでのスケジュール感から3月までの妥結がいわれているTPPでは、こんな誤魔化し論を許してはならない。
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