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シリーズ:【時の人 話題の組織】

2015.08.07 
【時の人 話題の組織】大多和巖・(株)農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)代表取締役社長 6次化支援ファンド活用 所得増、生産拡大を一覧へ

・6次化事業体63件に手応え
・ハラール認証和食の輸出も
・カット野菜を産地リレーで
・5年で黒字に最後は自社化
・製造技術などノウハウ共有

 農林漁業者と2次・3次事業者が連携し6次産業化をめざす事業体を支援しようと国と民間の共同出資で平成25年に農林漁業成長化支援機構(A-FIVE)が設立された。同機構からの出資でJAグループは事業体に出資するためのサブファンド「JAファンド」を立ち上げ具体的な案件への出資も実現した。10月のJA全国大会の最重点テーマは「農業者の所得増大」と「農業生産の拡大」で、そのために6次産業化の拡大も目標に掲げる。今回はA―FIVEのこれまでの実績をふまえ、農業者やJAにとってのこのファンド事業の意義などを大多和巖社長に聞いた。

◆6次化事業体63件に手応え

――農林漁業成長産業化支援機構(以下、機構)のスタートから約2年半。これまでの実績をお聞かせください。

大多和巖社長 われわれの機構による出資スキームは、まず地域金融機関などが中心になって6次産業化を支援しようというサブファンドを設立してもらい、そこに機構から国等の資金を出資するというものです。そのサブファンドから農業者とパートナー企業が連携して立ち上げる事業体に出資して支援する、という仕組みです。
 サブファンドは全国のほとんどの都府県で地方銀行が中心となって立ち上げました。現在、メガバンクやJAグループを母体とした広域ファンドも含め53のサブファンドが立ち上がっています。
 このサブファンドが出資した6次産業化事業体は63件あります。国等の出資金約300億円に対して、これまで機構が出資した金額は約20億円で1件あたり6000万円~7000万円(サブファンドベース)です。全体としてまだ規模が小さいのではないかという意見も聞きます。しかし、この出資スキームは、補助金とは異なり、事業を軌道に乗せて収益を上げてもらい、最終的には自社株買い等により出資金を国等に返してもらうものです。ですから当然、きちんと事業の組み立てができているかが重要で、そこをいい加減にすればせっかくできたこの仕組みも不良債権の山になってしまうし、農林漁業者の出資も損なわれてしまいます。そのようなことがないよう、きちんと審査しているわけです。
 現在まで63案件というのが多いか少ないかという議論はありますが、われわれはそれなりに手応えを感じています。この事業の大きな目的のひとつが地域に雇用を生み出すことですが、63件の事業開始時点でも新規雇用が1300人ほど各地に生まれる計画です。さらにエグジットといわれる投資の回収時期、7年から10年後ですが、その時点では4000人近くの雇用になる見込みです。地方創生にも関わることであり、この方向は間違っていないと考えています。


◆ハラール認証和食の輸出も

――具体的な事例をお聞かせいただけますか。

 JAファンドが出資した案件は9件ありますが、そのうちのひとつが石川県産米のブランド化推進プロジェクトです。北陸新幹線の開業もにらんで石川県のJAグループが関わって6次化事業体として(株)米心石川を立ち上げ、県産米を使った業務用寿司飯、寿司加工品の開発、販売などの事業を展開しているほか、エキナカなどでの弁当直売店舗の新規出店など販路拡大も実現しています。
 沖縄県を拠点にハラール認証を取得して和食を東南アジアへの輸出しようという(株)食のかけはしカンパニーも注目されます。これは沖縄の物流ハブ機能に着目した静岡と三重の農業者が中心になって立ち上げを考えた事業体ですが、沖縄のJAグループも関わっています。ハラール認証施設から東南アジアのイスラムの人たちに和食を輸出することが目的ですが、その前に国内にもイスラム圏からどんどん観光客が来ているのに県内にはきちんとハラール対応をした食材を提供する事業者がいません。それならまず県内外の小売・外食、観光施設向けにきちんとハラール対応した沖縄の農産物を提供する事業も進めていってはどうかと話が広がっています。


◆カット野菜を産地リレーで

――産地のJAや2次・3次事業者との連携の広がりが見られると?

 案件として多いのは、カット野菜事業で、この分野はまだまだ伸びると思います。この中には産地リレー体制を構築しようという案件もあります。たとえば、長野県の青果会社がカット野菜事業部門を分社化し、そこに県内の農業者やJAなどが出資した(株)フレッシュベジ加工です。安定して周年供給するために産地リレー体制をつくろうということですから、九州のJAも出資者に入っていますし、北海道の農家も参加しています。まさに農協の産地間リレーをこのような6次化事業体に関わることで実現しようとしています。
 ほかにも、カットりんごを青森県の(株)ヒロサキが事業化していますが、JAつがる弘前の約80名のりんご生産者が出資し、パートナー企業は地元の運送会社です。


◆5年で黒字に最後は自社化

――補助金や融資と、ファンドの違いがなかなか理解できないという人もいますが。

 新しく事業をおこそうというときには、やはり資金調達が必要です。ただ、融資であれば担保をどうするかが問題になり、補助金であれば使途が厳しく決められています。
 それに対してこのファンドの特徴として、資金使途は、予め作成してもらう事業計画の中で、施設整備、運転資金など自由です。出資期間は最長15年間ですが、われわれは最初の5年間で黒字化をと言っています。そして次の5年間で内部留保を積み上げてもらい、最後の出口で出資金を返してもらうわけです。いわば出世払いのイメージです。こうした末永いおつきあいができるのは、われわれのファンドの特徴だと思っています。
 しかも、出口の方法としていちばん考えてもらいたいかたちは自社株買い。つまり、自分たちで積み上げた利益でサブファンドが出資した分を買い戻してもらい、100%自分たちの会社にするということです。
 もちろんそうなるには最初の5年間が非常に苦しいですから、われわれもサブファンドとともに経営相談に乗ります。これがハンズオン支援といっているのもので、補助金や融資と比べて手厚いサポートが可能です。


◆製造技術などノウハウ共有

――農林漁業者やJAにとってA-FIVEのファンドを活用することのメリットをお聞かせ下さい。

 この仕組みで6次産業化事業体が機構から出資を受けるには、農林漁業者が多くの議決権を持っているなど主導権を握っていることを必要としています。これによって事業体は出資者である農林漁業者が作っている農林水産物を仕入れる際、買い叩きなど農林漁業者が不利な取引きにならないようにすることができます。機構としても、仕入れ価格が適正か、農林漁業者の所得向上につながっているかいった点も審査しています。当事者同士でやるとどうしても加工・販売してもらえるなら安く提供してもいいか......ということになってしまいがちですが、これもわれわれの機構が関わっているメリットだと思います。
 また、このスキームは6次化事業をいわば"外出し"するという方式であることにもメリットがあると言えます。農林漁業者やJAが全部自前で6次化に取り組むとリスクを全部負い、万が一の場合にはJAの経営にも影響が出てしまいます。この方式はそうではなくて最大リスクは出資分までですから、思い切ったことができる。JAでも別会社化して出資するかたちをとれば、リスクを限定しながら機動的な事業展開を担わせることもできると思います。
 JAの事業改革の取り組みにこの仕組みの活用も考えて、目に見えるかたちでの自己改革の発信につなげていけるのではないかと思っています。

大多和巖(おおたわ・いわお)
昭和17年生まれ。京大卒。昭和41年農林中央金庫入庫。平成14年代表理事副理事長、17年(株)農林中金総合研究所代表取締役社長。25年2月から現職。

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