農政 シリーズ詳細

シリーズ:どうするこの国のかたち

2016.08.02 
農業は日本文化の根幹 亀井静香衆議院議員一覧へ

農協の使命は日本の大地守ること
TPPが日本農業を壊す
聞き手:田代洋一 横浜国大名誉教授

 TPP反対、消費税反対そして脱原発を主張する亀井静香衆議院議員は、農業こそ日本文化の根幹だと考えている。今回の参議院選挙結果から農協のあり方まで、忌憚なく語ってもらった。聞き手は田代洋一横浜国大・大妻女子大名誉教授にお願いした。

◆野党共闘がこれからの流れに

 田代 参議院議員選挙結果についてどのようにご覧になっていますか。

亀井静香衆議院議員 亀井 投票するときに「政策を支持する」は15%に過ぎない。それでも与党が勝ったのは、福島、新潟と事前調査で自民党が負けるといわれていた所に、安倍総理が自ら赴いて物凄い戦いをやったからです。普通は総理は勝ちそうなところしか行かないのに、それをあえて行った。その姿が国民の胸を撃ち、本来なら敗ける選挙を勝った。
 だから、自民党が強かったわけではなく、安倍晋三の独り相撲に野党は敗けたわけです。

 田代 野党が敗けたんで、自民党が勝ったとは必ずしも言えない...。

 亀井 政策が支持されていないですからね。
 今後、経済をどうするか? 地方は大変な状況に相変わらずある。農業人口は専業なら2%以下でしょう。しかし、農業は地域を支えているんですよ。それ以外の仕事もあるけれど、すべて農業あってのことです。

 田代 確かに東北甲信越では安倍さんの努力にもかかわらず、市民・野党共闘が成功した。その東の勢いが西の方におよんでいくのかどうか...。

 亀井 これで市民・野党共闘が選挙を勝つためには極めて大事だということがよく分かった。1人区で厳しいところでもだいぶ票をとっていますから...。野党共闘が今後の流れになりますよ。

 田代 次の衆議院議員選挙は今年の暮れという話もありますね。

 亀井 いや、任期いっぱい近くまでいくね。政権党の自民党が怖くてよう解散しない...。安倍総理(第一次)が引いた後、福田も麻生も解散しなかった。怖くてできなかった...同じ状況がいまも続いている。なぜ安倍総理が同時選挙をやらなかったのか。危ないと思ったからです。


◆小選挙区制で議会民主主義が衰退

 田代 自民・公明は35%の絶対得票率(対有権者比)で、60%の議席を取っています。これには小選挙区制のマジックがあると思いますが、小選挙区制についてはどうお考えですか?

 亀井 日本は小選挙区制になじむはずがない。

 田代 なぜですか。

 亀井 小選挙区制は中選挙区制と違い候補者が1人だから、同じ自民党候補であっても、この人は良い、この人は悪いという選択ができない。だから出てくるのは、二世、三世で金太郎飴みたいになる。野党も同じことが起きていて、連合とか大組織をバックにした人たちが当選する。
 国民の各界各層のいろいろな意見を反映した議会の構成にならなくなってしまった。選ばれた議員は、サラリーマン的になり、幹部の機嫌だけをとっていればいいポストがもらえる。そうして、小選挙区制は議会制民主主義を衰退させた。

 田代 日本の風土に合った選挙制度としては...。

 亀井 3人区、4人区という中選挙区制ですね。
 人口比でどうのという話より、地域を代表していることを加味した選挙制度でないとだめです。人口比例だけが民主主義だということになれば地域はおかしくなる。


◆日本らしい自由貿易の確立を

 田代 日本の農業についてはどうお考えですか。

 亀井 日本という国は瑞穂の国です。天皇陛下が自らの手で田植えをされるように、日本の文化そのものが農耕文化なんです。大都会でビルに囲まれて生まれ育ってきている人たちも、農耕文化の中での生活なんです。それが、どんどん細っていった場合は、日本が日本でなくなっていく。いまそうなってきている。
 専業農家が僅かになってきたから、農業はどうでもいいとは、日本の場合はならない。狩猟民族とか、商売人、モノの売り買いだけで成立っている国もあるけれど、日本は土地を耕して作物を育てて、精進していくなかで、日本人の生活習慣も文化もできあがってきた。それがなくなるということは、日本が日本ではなくなることです。
 とくにTPPをやられたら、もう日本は完璧になくなります。

 田代 TPPには反対されていますね。

 亀井 自民党はTPPに反対だった。民進党も反対だった。それが、あっという間に推進になった。米国のおっしゃるとおりにTPPに賛成しなければいかん。早くバスに乗らないと損をすると急いで乗ってみたら、米国の民主党も共和党もTPP反対とか見直しといって、米国にもっと有利な条件に変えないと嫌だという。日本にとってはバカみたいな話です。誰が考えても米国がリーダーシップをとってきたのに、もう一度見直すというのだから、立ち止まらなければいけない。
 米国のおっしゃる通りに貿易をやり、それに合わせた農業政策をやりますという流れになっているが、こんなことはやっちゃいかんのです。
 自由貿易は当然だが、自由貿易のあり方について、日本も独立国家なんだから、日本の文化・伝統を守ってくれる農耕民族としての魂につながっていく話だから、それをちゃんと維持できるような貿易をもう一度しっかりやらなければいけない。

 田代 この秋に、TPPについて国会で批准に走る可能性は...。

 亀井 いまの日本は独立国家ではなく、米国のおっしゃる通りにやろうということになっています。大統領選挙が終わらないと米国もTPPについては決められません。米国が決めないのに日本だけがやるということは、あり得ないと思います。


◆「ハトを守るタカ」それとも「カメ」

 田代 消費税反対、TPP反対そして脱原発と、政策を拝見する限り、左の政治家かなとも思えますが、右・左でははかれない存在ですね。

 亀井 私はかつて細川政権を倒した時に、社会党の最左翼と手を結んだので、「亀井は何だ」といわれましたが、面倒なので「ハトを守るタカだ」といった。

 田代 「ハトを守るタカ」は言いえて妙ですが、一体どっちですか。

 亀井 私はタカほど強くないから、やはりカメなんですよ。

 田代 弱いモノの味方ということですね。

 亀井 強い弱いというよりも、みんなで仲良く幸せになっていこうということだと思う。日本人の心はみんなで助け合っていくことなんです。
 いま世界は、めちゃめちゃです。民族、宗教、いろいろなものが敵対しあってバラバラです。EUもイギリスが離脱する。アメリカも民主党はサンダースとクリントンの両極端に分かれた。共和党もトランプが出て候補者になった。


◆地域で農業をし生活できる農政を

 田代 日本でも農業について同じようなことがいえますね。

 亀井 商社などが農地を買って農業経営するというバカみたいなことをいう。そんなことをしたら日本の本来の農村が続くわけがない。株式会社が田んぼを経営して食料だけ確保すればいいというものではない。農業は日本の文化なんです。農村の文化を守らなければいけない。株式会社の人たちでその地域の夏祭りや秋祭りがやれますか?
 農業はお百姓さんがいてみんなで共同しあってやり、その上でその地域でちゃんと生活できるようにするのが農政です。肥料代も出ないような米価にして、減反しないで自由に作っていいなどとバカなことをいう。それではちゃんとした農政をやっているとはいえない。
 減反しないと米が余るという。総理が世界中回って何億ドル寄付するというが、何も円やドルではなく、米をあげればいい。米はいらないという国は困っていないんだから援助することはない。世界中に食料が足りないところはたくさんあるんだから...。そういう米消費向上もあるし、飼料用米をもっときちんとやっていくとか、やり方はいくつもある。
 要は、その地域に百姓をやる人が住んで、ちゃんと生活できるようにするにはどうしたらいいのかという、根っこのことを考えないで、食料生産だけ確保すればいい、それが農政だという。

 田代 広島県庄原という中山間地のご出身ですが、中山間地政策についてはどうお考えですか。


◆中山間地に兼業農家が働く場を

 亀井 これは兼業で行くしかない。庄内平野とは違う。私の郷里の隣人の80歳近い婦人は、朝の3時に起きて車を運転して庄原まで仕事に行き、それでどうにか食いつないでいますという。兼業農家といえばそうだけど、惨めすぎますよ。そういう地域に国がもっと金を出し、働くところをつくらなければいけない。中小零細企業の工場でいいんです。中山間地に工場を出す人には思い切って補助金を出し、税金をまける。そうすれば百姓をしながら勤めて暮らしていける。これしかない。
 そうしないと、年寄りが医者がいないから心細くなり、嫁にいびられるのを覚悟して、みんな都会に行ってしまう。
 山深い農村でも人は生きているんですから、医療もちゃんとやってあげて、その人たちの生活を、年寄りも大事にして守っていかないといけない。

 田代 最後に農協については...。


◆農家のために頑張るそれが農協の原点

 亀井 いまの農協の幹部は権力におもね、すり寄っています。そんなものを農協は捨てなさい。そうではなくて、自分たちで立つという強い意思をもつことです。そういう農協もたくさんあります。
 農協が農家のために一所懸命がんばってくれているという姿を見せないといけないのに、その姿が見えていないのではないですか。最近は、TPPに賛成みたいなことをいっているが、農家からすると、反対していたころとTPPの中身は変っていないのに変わったのではないかと思えてくる。そういうことをやっていて、農協はいつまで続くのか...。
 いまは農家と農協が切り離されている。だから、農協の幹部連中が権力とつながり自民党自民党といっても、一般の農家は自民党に入れなくなっている。参院選の新潟や山形などで、その典型的な状況が生まれています。
 農協は農業就業人口が少なくなろうとも、日本の大地を守らなならんのです。もっとそのことを大事にしていくということです。
 それができるのは、農協しかないんだから、もっとしっかりする努力をしなければならないということです。

 田代 農協も原点に戻れということですね。
 貴重なご意見をありがとうございました。


【インタビューを終えて】
 大物政治家ということで恐る恐るうかがったが、ご本人曰く「自分はハトを守るタカ」。自民党の中枢を歩き、村山連立政権を創る離れ業をやり、郵政民営化選挙で離党し国民新党を創り、現在は無所属で活躍しておられる。郵政民営化・TPP・原発再稼働・自衛隊海外派遣等への反対、消費税凍結などの主張をうかがうと、信念一筋の道といえる。憲法改正についても「今はその時ではない」とおっしゃる。
 広島県庄原市の4反農家のお生まれで、地域と農業への愛着がほとばしる。通された部屋には、花の絵や、幼い頃の思い出を描いた描きかけの油絵が所狭しと並べられていた。日本の最大の不幸の一つは、こういう懐の深い「保守」本来の政治家が希少になってしまったことだ。
 大いに喝を入れられたインタビューだった。(田代)

【略歴】
(かめい・しずか)
1936年(昭和11年)広島県庄原市生まれ。60年東京大学経済学部卒業、別府化学工業(現・住友精化)入社。62年警察庁入庁、警備局理事官、長官官房調査官などを歴任。79年衆議院選挙に出馬して当選、以後、現在まで13期連続当選。94年運輸大臣(村山内閣)、建設大臣(橋本内閣)、2009年国務大臣金融・郵政改革担当、また、1999年自民党政務調査会長など自民党の役職を歴任。2005年自民党を離党し国民新党結成し代表代行、09年代表就任。12年国民新党を離党しみどりの風入党、14年同党が解散し無所属に。15年地域活性化協議会(通称・根っこの会)を発足。

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