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農政:ドイツの再生エネルギー

【ドイツの再生エネルギー】ドイツ・バイエルン州にみる  愛媛大学教授・村田 武2013年2月14日

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・スペイン資本に太陽光を売り渡すのか
・ライファイゼン・エネルギー・グロスバール村協同組合の設立
・41戸の農家が参加するバイオガス発電事業
・村協同組合の直轄事業としての地域暖房システム事業
・大きくエネルギー転換したグロスバール村

 いま、ドイツの農村では、太陽光やバイオマスなどエネルギー資源を村外の大企業に売り渡すのはもったいないと、市民出資・ライファイゼンバンク融資型のコミュニティ(農村自治体)所有による太陽光発電や風力発電、さらにバイオマス熱供給やバイオガス発電を行う協同組合づくりが進んでいる。昨年12月に、バイエルン州最北部フランケン地方レーン・グラプフェルト郡のバイエルン州農業者同盟支部の案内で、再生可能エネルギーによる電力自給率475%というグロスバール村を訪ねた。1996年以来3期目の村長職(1期6年・選挙・無報酬)にあって、意欲的な村政を行っているJ・デーマー村長(58歳)に話を聞いた。

「エネルギー資源を村外の大企業に売り渡すのはもったいない」

村の資源を活かすライファイゼン・エネルギー協同組合


◆スペイン資本に太陽光を売り渡すのか

村田武教授 グロスバール村は250戸、950人が住むバイエルン州北部フランケン地方の典型的な集村型集落である。1995年には125戸あった農家は現在では14戸にまで減っている。総土地面積1600haのうち農地が1300haを占める。エネルギー生産に関しては、戦前1921年に、カトリックの司祭をリーダーとする風力発電組合が設立された歴史がある。
 この村の最初の再生可能エネルギー事業は村営の太陽光発電事業である。2005年と07年の2次にわたって合計1800kWの計画で、離農者からの借地による用地8haにソーラーパネルを並べた太陽光発電設備をつくった。初期投資額760万ユーロ(1ユーロ110円とすると約8億3600万円)のうちの100万ユーロは村民100人が1株2千ユーロ(約22万円)の出資で、残りはライファイゼンバンクなどからの借り入れでまかなった。電力は35セント/kWh(20年間保証)でドイツ最大手電力会社エーオン社に売却されている。
 当初、スペイン資本の企業がメガソーラー適地としてこの村に目をつけた。しかし、なぜスペイン資本なのか、ということになり、デーマー村長の呼びかけに応えて自分たちで投資することになったという。


◆ライファイゼン・エネルギー・グロスバール村協同組合の設立

 2009年11月に、設立組合員40名(出資金1人100ユーロ、合計4千ユーロ)でライファイゼン・エネルギー・グロスバール村協同組合(以下では、村エネルギー組合)が設立された。12年には組合員は154名、つまり村民の6割が参加し、出資金総額は62万ユーロになっている。
 村にエネルギー協同組合をつくろうという村民の合意を後押ししたのが、郡レベルで再生可能エネルギーを推進しようと立ち上げられたコンサルタント会社「アグロクラフト社」である。
グロスバール村 「アグロクラフト社」は農業者同盟郡支部と郡マシーネンリンクが50%ずつ出資して2006年に設立された。大電力会社や大企業にレーン・グラプフェルト郡のエネルギー資源を売り渡すのではなく、村の再生可能エネルギー資源をフルに活用して、「100%再生可能エネルギー地域」づくりをめざそうとした。 ライファイゼンが19世紀に、「村のお金は村に!」をスローガンに農村信用組合を組織したことに学び、すべての村民が参加できるエネルギー協同組合を立ち上げて再生可能エネルギー資源を自分たちで開発することで、地域経済循環を実現しようという同社の提案に、デーマー村長がいち早く応え、村民を説得したのである。
 村エネルギー協同組合は、09年には村営サッカー場観客席太陽光発電事業(125kW)、10年には村倉庫太陽光発電事業(15kW)、11年にはバイオガス発電事業に取り組んだ。

村営サッカー場観客席太陽光発電事業

(写真)
上:グロスバール村
下:村営サッカー場観客席太陽光発電事業

 


◆41戸の農家が参加するバイオガス発電事業

 アグロクラフト社と村エネルギー協同組合の音頭で2011年11月には、バイオガス発電事業のための「アグロクラフト・グロスバール村社」が設立された。郡都バート・ノイシュタットに本部を置く「アグロクラフト社」の支社ではなく独立した会社組織である。初期投資額は370万ユーロ(約4億円)で、コジェネレーターによる発電は725kWの規模である。年間発電量は約600万kWhで、エーオン社に1kWh23セントで売却されるので、売上高は138万ユーロ(約1億5000万円)となる。 村内の14農家に加えて、村外半径8km圏内の27農家、合計41戸が参加している。1株2200ユーロ(約24万円)の出資で総額250株・55万ユーロ(約6000万円)になった。参加の要件は、出資1株に対してトウモロコシ1ha生産量(35?40トン)のバイオガス施設への供給義務を負うことである。農家にはトウモロコシ1トン当たり35ユーロが支払われる。2人が施設管理に雇用され、これら経費を差し引いても、55万ユーロの出資金には10%強の配当になりそうだという。
グロスバール村のバイオガス施設 農家が個別にバイオガス発電施設をもつのではなく協同バイオガス発電事業に参加するという方式であるために、トウモロコシの栽培面積合計250haは、村内だけでなく半径8kmのエリアで農地面積の10%以下に抑えられている。それがトウモロコシ―冬大麦―小麦の3年輪作が維持される結果につながっている。肥沃度維持のためには、緑肥としての冬ナタネの栽培に加えて、メタンガス発生後の消化液が液肥として撒布される。
 液肥は、参加経営にその出資高に応じて戻す。液肥1立方mの肥料分は、窒素4.4kg、リン酸1.2kg、カリ3.9kgである。これによって、液肥撒布量は9800立方mあるので、化学肥料について窒素肥料160トン、リン酸肥料26トン、カリ肥料96トンを節約でき、その撒布のためにダンプカーを走らせる必要もない。
 こうして、この村のバイオガス発電事業では、過剰なトウモロコシ作付けや、トウモロコシの長距離輸送といった問題の発生が抑えられている。

(写真)
グロスバール村のバイオガス施設


◆村協同組合の直轄事業としての地域暖房システム事業

 バイオガス発電のコジェネレーターで生み出される余熱を利用しての温水(90℃以上)を村内に供給する事業が、村エネルギー協同組合の事業として10年から12年にかけて立ち上げられた。
 トウモロコシを原料とするバイオガス発電事業は農家の事業である。その収益は農家への配当原資であり、出資者=エネルギー原料供給義務者は農業者に限定される。したがってその運営は農業者の協同体(ゲマインシャフト)としての「アグロクラフト・グロスバール村社」がふさわしい。
 ところが、その余熱利用の地域暖房システム事業は、村民が広く利益を受けるところから、村民すべてに開放された協同組合事業として立ち上げるという組織上の工夫がなされている。バイオガス発電事業で原料のトウモロコシを供給する農家への配当に見合う利益を村民にも保証することで、村内にねたみを生まれさせない配慮だという。
 温水供給をしているのは121件で、この中には自動車部品工場も含まれる。この地域暖房システムに参加した村民は、暖房設備が古くなって更新期を迎えているなかで、このシステムの方が配管を接続する経費が安く、通常の暖房施設の1万5500ユーロに対して5500ユーロでできるというところにあったようだ。各家に総延長6kmの配管が延びている。90?95℃の温水が供給され、65℃で戻ってくる。温水を台所や風呂で使うのではなく、暖房用に熱だけを取り出して使う方式である。発電と組織的に切り離すことで、村民に対して安定かつ低価格の温水供給が可能である。灯油価格75セント/1リットル相当の9セント/ kWhという価格に10年間固定している。
 今後の灯油価格の上昇に対して、温水供給を受ける村民には確実に有利である。


◆大きくエネルギー転換したグロスバール村

 こうしてグロスバール村では、05年以降、大きなエネルギー転換が進むことになった。11年までの再生可能エネルギー生産施設への投資額は、(1)村民太陽光発電事業760万ユーロ、(2)村営サッカー場観客席太陽光発電事業49万ユーロ、(3)村倉庫太陽光発電事業5万ユーロ、(4)バイオガス発電事業370万ユーロ、(5)バイオガス発電施設屋根利用太陽光発電事業19万ユーロ、(6)地域暖房システム事業300万ユーロなど、合計1503万ユーロに達する。これらで11年には760万kWhの電力が生産されており、これは村内電力消費量160万kWhの475%、熱エネルギー生産では288万kWh、村内熱エネルギー消費量320万kWhの90%の自給率である。本村が「100%再生可能エネルギー地域」づくり運動の先進例のひとつとされるゆえんである。
 なお、アグロクラフト社専務のM・ディーステル氏によれば、「グロスバール村およびその周辺地域には経済全体に多面的な効果として年間350万ユーロ相当の追加的価値がもたらされている。既存の就業機会の安定性が増し、さらに増加の可能性があり、若い世代に彼らの故郷の村に将来性のあることを感じさせることができる」という。
 若い世代の農村流出を防ぐための再生可能エネルギー資源を活かした村づくりでもあるというのは思わぬ発見であった。

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