農政:緊急特集:「小泉進次郎が挑む農政改革」批判
【森田実の政治評論】小泉進次郎の農政改革論の背景を考える2016年2月22日
森田実(政治評論家・東日本国際大学客員教授)
経済雑誌の『エコノミスト』2月2日号と『週刊ダイヤモンド』2月6日号が自民党農林部会長・小泉進次郎氏のインタビューを掲載しました。
『エコノミスト』の見出しは「農業がヤバい」「農林中金はいらない・農業の“護送船団”を改革する」です。こんな見出しをつけるとは、『エコノミスト』編集部も小泉進次郎氏もどうかしているのではないかと心配になるほど不真面目な乱れた言説です。
◆幼稚で歪んだ小泉農業改革論
『週刊ダイヤモンド』の見出しは「小泉進次郎が挑む『農政改革』3つの公約」、「(1)まずは政治からチェンジ 補助金漬け農政とは決別する」、「(2)"儲かる農業"実現のために農協改革の手綱を緩めない」、「(3)生産者起点から消費者起点へ世界で稼ぐ体制を構築する」です。どうかしています。幼稚すぎるほど幼稚な論理です。小泉進次郎氏はこう発言しています。
「農業では当たり前のことができていないから、やればどんどん生産性が上がるはず。農業の成長産業化--儲かる農業への転換は必ずできます」
「農業では当たり前のことができていない」との小泉発言は間違っているだけでなく、あまりにも無知です。そして傲慢です。「当たり前のことをしていない」のは政治の方です。農業者は政治の貧困に抗して。当たり前のことをしています。小泉進次郎氏のものの見方は歪んでいるのではないでしょうか。反省すべきです。
「儲かる農業への転換」発言には、愚かで救い難いものを感じます。郵政民営化に向かって暴走した11年前の小泉純一郎首相と農業破壊に向かって暴走し始めた息子の進次郎氏の姿が重なります。
◆眞野弘氏の警告を聴くべし
最近、『眞野弘伝・土地改良の悦び』(野宮田功著)を読みました。眞野弘氏は2013年まで北海道土地改良事業団体連合会の会長をつとめた土地改良事業の功労者です。本書のなかに眞野氏の次の言葉が引用されています。
『政府は「国益」に沿ってTPP交渉を進めるようだけど、守るべきは「国益」じゃなくて「国力」ではないか。食糧生産は国家存立の基礎であり、農業や農村社会が国家の礎となって文化を築いてきた。経済優先で国益を考えるなら、重要五農産物を守るなんて言わず、外国から安い農産物を輸入したほうが国益になる。農業・農村の持つ多面的機能も国力なんだ』(192頁参照)
同感です。新自由主義・市場原理主義にもとづく農業改革は、日本の「国力」を破壊する邪悪な行為だと私は思っています。眞野氏の言うとおり、農業、農村の持つ多面的機能は、市場原理では測れないのです。
◆農業の本質は自然と人類社会の共生
『大事典ナビックス』は「農業」を次のように定義しています。
「農作物の栽培や家畜の飼育を通じて、人類の生存に必要な食糧と工業原料の一部を生産する産業活動」
『広辞苑』など各種の『国語辞典』もほぼ同じ定義をしています。ただ私は、農業の役割は「人類の生存を支える産業活動」にとどまるものではなく、自然と人類社会の永遠の共存、共生をはかる人類の最も重要で基本的な活動だと思っています。農業は人類史のなかの一時的現象である「資本主義」に従属すべきものではありません。逆に資本主義が農業に従属すべきです。いわんや、資本主義の特殊な(あえていえば異常な)一形態である新自由主義・市場原理主義に従属させてはならないのです。農業を新自由主義・市場原理主義の支配下におこうとする試みは、大きな過ちです。日本国民は政治のこの過ちに気付かなければならない時です。
◆従米主義では日本の農業は守れない
小泉純一郎(元首相)・小泉進次郎の親子には、極端な従米主義のDNAがしみついている、と私は思っています。
30年ほど前、横須賀市に講演に行った時のことを思い出します。横須賀駅で私を迎えてくれたのは当時の横須賀経済界の大御所のような経営者でした。彼は私を超大型ベンツに乗せるや、運転手に「基地へ」と指示しました。米軍基地のゲートをフリーパスで通り抜けたベンツが着いたのは山の上の「米軍太平洋司令官」の住居でした。私に向かって「横須賀に来たらまずこの方に挨拶しなければなりません」と、命令口調で告げました。隣は「米軍日本総司令官」の住居でした。この二人の米軍の司令官が横須賀の真の支配者なのです。 小泉純一郎・進次郎は先々代、先代の時代から横須賀の政治家です。従米主義がしみついた政治一家です。小泉進次郎氏のような従米政治家を自民党の農林部会長に任命した安倍首相ら自民党指導部の感覚はどうかしています。小泉進次郎氏を人気者に仕立てているマスコミの無責任も問われるべきです。いま必要なのは国民の自立心にもとづく健全なる批判精神の発揮です。
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