農薬 シリーズ詳細

シリーズ:時の人話題の組織

2016.02.29 
【時の人 話題の組織】谷 和功(三井化学アグロ株式会社代表取締役社長)絶えず革新による成長を追求一覧へ

研究開発は農薬会社の「生命線」

 世界の農薬業界はグローバル企業の合併や買収などの話題が注目されているが、省力化や効率化を実現して日本の農業を支えてきたのは、多くの日本の企業だ。長年にわたって優れた農薬を開発してきている三井化学アグロ(株)の谷和功社長に、新剤開発にあたっての考え方や農業について聞いた。

◆農業伸張に大きく貢献

谷 和功 三井化学アグロ株式会社代表取締役社長 三井化学アグロ(株)は、農業化学品で輝かしい実績をあげてきた三井化学(株)の農業化学品事業と三共アグロ(株)が統合して2009年に設立された会社だ。
 土壌殺菌、殺虫剤として卓効を示し、長く使われてきたクロルピクリンを日本で最初の有機合成農薬として1921年(大正10年)に製造・販売したのは、当時の三共(株)であり、30年(昭和5年)には、三井化学(株)もクロルピクリンの製造・販売を始める。
 その後も多くの農薬を開発し、戦後の日本農業の伸長に大きく貢献していく。71年(昭和46年)に水稲用殺菌剤「タチガレン」、75年(昭和50年)には粉立ちを抑えるDL粉剤をを上市、その技術を他社にも開放し、農家の悩みであった農薬散布の粉立ち軽減に貢献した。82年(昭和57年)上市の水田一発除草剤「クサカリン」の登場は水稲農家の作業時間と労力を大幅に短縮することを可能にした。さらに94年(平成6年)には日本初のジャンボ剤を上市し、「田んぼに入らなくても防除作業ができたら」という農家のニーズに応えるなど、その業績を数え上げたらきりがない。
 世界の農薬業界でも日本企業の研究開発力は高く評価されているが、谷社長は、日本企業は「世界のグローバル・マルチ企業と比べると規模の面で大きな差があり、常に性能に優れた原体・製剤を開発していかないと生き残っていけない」ので、「研究開発力の強化が生命線だと思っている」と、研究開発の重要性を強調する。


◆農業は地域密着型産業

 三井化学グループの企業理念は「地球環境との調和の中で、材料・物質の革新と創出を通して、高品質の製品とサービスを顧客に提供し、もっと広く社会に貢献する」。そしてそこから生まれる企業像は「絶えず革新による成長を追求し、グローバルに存在感のある化学企業グループ」だ。
 そして化学産業である三井化学グループが貢献すべき社会課題として、「環境と調和した共生社会」「健康・安心な長寿社会」「地域と調和した産業基盤」を実現することだとしている。
 このなかで、谷社長は三井化学アグロとして「健康・安心な長寿社会の実現」のために「食料は健康の根源だから、安全で安心な食料を作ることへ貢献することが重要」であり、「地域と調和した産業基盤」ということでは、「農業は地域密着型の産業」だから「地域のみなさんと一緒に農業発展のために、貢献していきたい」と考えている。
 「環境と調和した共生社会」ということでは「われわれ農薬業界は環境負荷が小さく、人や動物に害を与えない農薬を開発していますし、これからもその方向は変わりません」という。


◆自然破壊を抑えている農薬

 谷社長は、京都大学大学院(工業化学)を79年(昭和54年)に卒業後、三井東圧化学(株)(後に三井石油化学と合併し三井化学)に入社し、製造現場や事業分野で「もの作り」について長年取り組んできている。 それは農薬についても同様だ。「もし農薬がなかったら、食料生産はいまの半分、あるいは3分の1に激減する」と言い切る。
 いま世界の人口は70億人強といわれているが、この人口を支えるために15億haの農地で農産物を生産している。だが、農薬を使わないとその2.5倍にあたる40億haの農地が必要となるからだ。さらに人口が90億~100億人になり、農薬を使わずに食料を確保しようとすれば、世界の森林・草地をほとんどを農地にしなければ間に合わなくなる。
 だが「農薬を使えばそれを大幅に少なくすることができる」。それは「自然破壊を抑えているという意味で、農薬が社会に貢献している」ことでもある。
 そのための開発コンセプトは、と聞くと「農家の皆さんの役に立つもの、農産物や食品を消費者に安全に、安心してかつ品質がよく美味しく食べていただける。そうしたことに役立つ高性能で環境負荷がより小さな農薬を開発する」ことだとの答えが返ってきた。


◆美味しくて品質の高い作物を

 最近の農薬はピンポイントで菌や虫に効果があるものが要求されており、研究開発が非常に難しくなってきている。このため、研究開発の人員強化を進めている。同社の人員は関係会社を含めて600名ほどだがその約3分の1が農薬登録業務などを含めて研究開発部門だという。新剤を開発するためには「成功体験から得られるノウハウを次の成功に繋げるよう、蓄積していくいこと」が重要としている。
 そうしたなかで、2001年~14年の14年間に殺虫剤のジノテフラン、レビメクチン、殺菌剤のペンチオラド、シメコナゾールが開発されてきた。今後は20年頃までに開発・上市する「新規5原体」に注力しており、そのトップとして殺菌剤のトルプロカルプが今年上市される。農薬は研究開発から上市まで10年以上の時間がかかるので、「新規5原体」に次ぐ次世代原体についても検討が始まっている。


◆日本人の食生活に適したものを

 新規原体・製剤の開発は自社製品の後継製品や抵抗性を持った虫や菌に対する新規作用機の探索などいくつもの視点から行われることになる。だが、谷社長は「原点は品質の良い農産物を作ることを手助けできる農薬を提供する」ことだと強調する。
 「食料は最初は餓えをしのぐためのものだったが、次第に経済が成長すると日本や欧米のように美味しいものを求めるようになる。それを買えるだけの経済的余力ができるとその次には健康を求めるようになる。日本の農業は、そうしたニーズに応えてきめの細かい農業で日本人の食生活にあった農産物を供給してきているし、日本でしか作れないものがたくさんある。日本の農業は弱いといわれるが、日本の食生活に合った品質のよい作物をリーズナブルな価格で生産できれば勝ち残れる」
 そして、美味しいものはさまざまに品種改良されてきているので「作物・植物としては弱くなりますから、それを助ける農薬はどうしても必要になります」とも。


◆現場の声に応え役立ちたい

 そして最後に、「いま日本農業はTPPなどの影響もあり、競争力を強化するために生産コストの抑制がいわれているが、農薬など生産資材の使用量を減らすことは、品質の劣化や収量を減少させる可能性があり、逆効果になる」。
 そうならないように「農家のみなさんと一緒になって収量と品質をしっかり上げていくため、少量でもよく効いて、使い勝手の良い農薬を現場からの声をよくお聞きして提供することで、お役に立ちたいと考えておりますので、よろしくお願いします」というメッセージをいただいた。
(写真)谷 和功 三井化学アグロ株式会社代表取締役社長
(たに かずのり)1955年大阪生まれ。1979年京都大学大学院修士課程修了後、三井東圧化学(株)入社。2010年三井化学(株)ヘルスケア材料事業部長、12年執行役員機能化学品事業部長、14年常務執行役員、15年三井化学アグロ(株)代表取締役社長

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