食品流通 クローズアップ詳細

2014.08.29 
【福島米 原発事故との闘い】風評被害を払拭 全袋検査 海外でも評価一覧へ

・震災後初の米輸出
・予定数量2日で完売
・99.99%が基準値未満
・浜通コシ契約率15%
・県産使用給食に助成

 JA全農はこのほど福島県産の米をシンガポールで販売した。震災後に福島県で生産された米としては初めての輸出・販売だ。JA全農は今回は「輸出・販売促進の風穴を開ける」ことが目的で、今後は震災前に販売実績のあった香港、台湾などにも福島産を初めとする米販売の促進を通じて生産者と地域農業の復興を支援していく。ただし、米の全袋検査という世界でも例のない取り組みによって安全性を確認しているにもかかわらず、国内で震災前の取引が回復していない例も多いという。改めて福島県の農業復興に向けたこれまでの取り組みと課題を考えてみた。

8月22日からシンガポールの明治屋で販売された福島県産コシヒカリ(写真提供:JA全農)

(写真)
8月22日からシンガポールの明治屋で販売された福島県産コシヒカリ(写真提供:JA全農)


 

「安全性」の理解
復興への課題

◆震災後初の米輸出

 今回の福島県産コシヒカリ(25年産)の輸出先はシンガポール。明治屋シンガポールで8月22日から5kg袋で販売した。
 福島県は原発事故前は香港や台湾などに年間100tほどの米を輸出しており、JA全農も30tほどの輸出実績をあげていた。しかし、原発事故で各国が日本の農林水産物の輸入規制を強化するなかで福島産の米も輸出できなくなっていた。
 その後、国によっては輸入規制の解除・緩和が行われるようになり、今年6月初めシンガポールは日本政府との間で農産物の輸入停止を緩和することに合意した。米については輸出・販売しようとするなら、これまではシンガポールでの全ロット検査が義務づけられており、コストや手間を考えると実質的に輸出できない状態だった。しかし、日本では米に限らず多くの食品からの放射性物質の検出数値は極めて低いことなどを評価し、シンガポールとして6月からは現地でのサンプル検査を行えば輸入を認める規制緩和を決定した。
 これを受け、明治屋シンガポールで毎月1回開催しているJA全農フェアでの福島県産米販売を提案し、今回の販売が実現した。明治屋シンガポールでのJA全農フェアは2011年6月から始まった。日本の旬の農産物を販売してほしいという要望に応え、全国各地の農産物の輸出拡大も視野に始めたものだが、原発事故後からのこの取り組みは日本の農産物の安全性をアピールする機会にもなっていた。こうした継続的な取り組みによって海外の販売先と信頼関係を築いていたことも今回の輸出再開につながったともいえる。

 

◆予定数量2日で完売

 販売したのはJAすかがわ岩瀬の生産者組合による特別栽培米。全農パールライスが精米・商品化していることから今回のフェアでの販売を提案したという。店頭では福島県産米の「安心・安全」をPRするため玄米段階での全袋検査や、農地の除染と吸収抑制対策など、生産から流通までの安全確保策についてパネルやDVDで説明した。JA全農職員も販売促進のために店頭で安全性をPR、フェアは8月22日から3日間実施されたが、福島産米は翌23日の夕方に予定の約60袋(計300kg)全量を販売することができた。
 シンガポールでの福島産米の販売は現地でもメディアの関心が高く、報道で今回の販売を知った人もいたという。JA全農の輸出推進課によると現地の消費者にはまだ敬遠する人もいたことは事実だが、一方では全袋検査など安全確保策に理解を示す人も多く、今後の販売予定などを尋ねる人もいたという。
 今回は震災後に作付けされた米として初めての輸出再開を実現した。輸出拡大に「風穴を開ける」(輸出推進課)ことが目的で、今後は香港、台湾などの再開にもつなげていくとともに、米だけでなく福島県産の青果物の販売促進も課題としている。海外での販売拡大も契機にして復興支援をしていく考えだ。

 

◆99.99%が基準値未満

福島米は全袋検査されている 今回の輸出再開を「福島産米の販売促進につなげたい」との期待は大きい。しかし、それは風評被害に苦しみ同県産米が販売不振にあることも背景にある。輸出・販売したJAすかがわ岩瀬の特別栽培米は震災前は関西の量販店とも取引があったが、安全性が確認されているにもかかわらず現在、取引の再開はないという。
 改めて原発事故以降の福島県の農業復興に向けたこれまでの取り組みをまとめておきたい。
 JA福島中央会のまとめによると、原発事故による作付け制限は23年産では1万1700ha(避難指示区域)で、作付け自粛の1600hasと合わせて1万3300haに達した。
 それが25年産では作付け制限は帰還困難区域の6000haまで減少した。しかし、作付け自粛農地は4100haと23年産よりも増えている。これは農地の除染が遅れているので、生産者が自粛したためだ。
 26年産では作付け制限はさらに減って2100haとなり、居住制限区域などで除染後農地の保全管理や市町村の管理のもとで試験栽培や、作付け再開に向けた実証栽培なども実施することになっている。
 24年産からは、県内で生産された米は全袋検査して出荷している。県内生産量は36万t。そのすべてについて202台の機器を導入して検査を実施。このうちJAグループは131台を導入している。
 25年産米については今年3月末までに1095万袋の検査が終了。基準値(100ベクレル/kg)を超過したのは28袋。全体の「0.0003%」で、99.99%が測定下限値未満になっている。
 検査は米だけではなく、園芸品目でも全戸・全品目検査(自主検査)に取り組んでいる。県内JAにはNaIシンチレーションを119台、ゲルマニウム半導体検出器2台などが導入されている。25年度のモニタリング検査では野菜の97%、果実の70%が「検出せず」の結果で、基準値を超えた例はなかった。出荷制限品目は現在、一部地域の大豆、野生の山菜、タケノコ・キノコ類などに限られている。
 また、農地の除染は牧草地や樹園地など含めた農地合計で2万3690haを計画。25年末時点で83.7%で実施された。セシウム吸収抑制対策も実施しており、25年産米でもカリの追加施用を実施している。JA全農福島の集計では25年産水稲作付け面積6万8000haに対して成分総量約6000tのカリを施用した。これは慣行のカリ施用のほぼ2倍にあたるという。

(写真)
福島米は全袋検査されている

 

◆浜通コシ契約率15%

 このような安全な農産物の生産と流通体制を確立しているにもかかわらず、福島県農産物の価格下落は回復していない。 たとえば、25年産米の6月の全銘柄平均相対取引価格は、24年産米にくらべて87.9%と下落しているが、福島中通りコシヒカリは82%と全国平均よりさらに下落幅が大きい。23年産、24年産米もこの傾向は年間を通じて続き、全国平均価格を下回って推移した。
 桃、キュウリ、ブロッコリーといった園芸品目でも福島県産は、福島産以外品よりも価格が下回る傾向があるが、それでも福島が出荷の中心地となる時期には全国平均並みに価格が回復するケースもみられるようになっている。牛肉もようやく震災前の水準まで価格は回復してきたが、全国平均よりは低い。
 こうしたなか、産地の努力で安全は確保されていても、米については「福島産は棚から外されている」(全農福島県本部)のが現状だ。
 農水省は毎月公表している「米に関するマンスリーレポート」では6月末の福島県産米の契約比率は61%、販売比率は49%となっている。浜通りコシヒカリに限ってみると契約比率15%、販売比率9%という厳しい状況になっている。
 震災前と変わらず取引を続けている実需者もいるが、量販店を中心に取引が戻っていない。
 「卸業者や量販店のバイヤーの間では福島の米は安全が確認されたものしか流通していないことは理解されている。しかし、店頭に並べて消費者に理解してもらえるのか、と敬遠されるのが実態のようだ」とJAグループ福島の関係者は話す。安全は確認されているのに、店頭で扱うと消費者から説明が求められる、それなら他産地にも米はある……、という心理が働いているのでは、という。
 福島県では放射性物質の検査現場を消費者に見学してもらうなどの取り組みを行っているが、「まさに風評被害対策は地道に続けていくしかない」とJA福島中央会も話す。今後は消費者に抵抗なく福島県産米を食べてもらえるようなPR資材も改めて検討したいという。こうした状況があるだけに今回のシンガポール輸出・販売が追い風になればという思いは産地に強い。

原発事故の影響による作付け制限(水田)

 農産物の輸出の再開

◆県産使用給食に助成

 一方で地産地消の回復も課題だ。とくに学校給食への県産農産物の利用回復に向けて県も助成事業などで支援している。県産農産物への信頼が損なわれたままでは子どもたちの望ましい食生活や農業への理解も形成されないとの危機感からで、健康教育課では昨年度から「いただきます福島産事業」を始めた。主菜、副菜の2分1以上の品目に県産農産物を使用した場合の食材費をすべて補助する。ただし、条件は親も含めて県産農産物を使用した学校給食の試食会などを開いて食育活動も行うこと。その活動費も助成対象となる。
 「安全が確保されているにもかかわらずまだ地元産へのアレルギーを持つ親もいることは確かです。しかし、生産者への感謝の気持ち、伝統食、郷土愛といったものを子どもたちに教える機会を失ってしまったままではいけない。そんな思いからぜひ小中学校に活用してほしい、と呼びかけています」と担当者は話す。親を対象にした安全検査の現場見学会を企画してもバス代金などを助成の対象にしている。昨年度は59校がこの事業を利用した。今年度は昨年以上の実績となる見込みだという。
 福島県の農産物は、これまでの努力で安全性が確認されたものしか流通していないことを改めて認識する必要がある。同時に地域の復興と次世代を育むには農と食がやはり核になることも示している。

 

県内市町村除染地域における除染実施状況(平成25年12月末現在)

 

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