流通:食は医力
【シリーズ・食は医力】第79回 キンピラゴボウはなぜすごい2015年12月11日
野菜は葉か実か根をいただくわけですが、冬は根菜の季節です。温室のない昔は路地ものばかりでしたから、当然、根菜の出番でした。
◆陽性野菜が体あたため
先日、某所で長野のリンゴと山芋を売っていたので、大きな山芋を買い求めました。かなり高価でしたが、自然薯(じねんじょ)並みの粘り気にはびっくり。冬向きの陽性野菜で良い買い物でした。
冬は体を温める食物がいいことは当然ですが、根菜類はその典型的な野菜です。風呂吹き大根、ニンジンの入ったクリームシチュー、きんぴらごぼう、どれも冬向きの料理と言えるでしょう。
食物を陰陽で見る方法は40年くらい前にマクロビオティックを勉強する中で知ったことで、以来、食養の基本として大事にしています。
陽性は体を温め、人を活動的にし、陰性は体を冷やし、人を静的にします。そういうわけで寒い冬は陽性の食物を多めにとって体を温かく保つのが、免疫力を保ち、カゼを引かぬコツだと考えて食生活を送ってきたのは今のところ正解でした。
◆冬のおかずは加熱と根菜
野菜の陰陽を見分ける手掛かりの一つに茎や根の形状があります。茎がどんどん上に伸びていくものは陰性、根が下にどんどん伸びていくものは陽性だというのです。
ほかに、色や形状、産地、水分、季節の違いなどもあるので一概に言えませんが、根菜類は一般的に陽性です。
大根が陰陽の中間にあるほかは、長ネギ、ミョウガ、タマネギ、レンコン、ゴボウ、山芋、ニンジンなどはみな陽性です。特に地中深く入り込む自然薯は最も陽性度の高い根菜とされています。
さらに、日に干すことで陽性度は増すとされるので、切り干し大根、切り干しニンジンはお勧めです。また熱を加えることでも陽性度は増します。冬は鍋がいいと言われるのも陽性の度合いと関係があります。
切り干しの大根とニンジンをぐつぐつ煮ることで陽性度の掛け算が成立します。地味だけれど私の大好きな陽性おかずはそんなわけで意外に簡単です。
◆ゴボウに強壮効果
ゴボウですぐ連想するのがキンピラゴボウです。キンピラは金平と書くのですが、鎌倉時代、坂田金時の息子で剛勇無双と言われた坂田金平に由来するのだとか。ちなみに親の金時の幼少時はというと、足柄山で熊と相撲を取って育ったというあの金太郎です。つまりキンピラゴボウは力を象徴した食物ということになります。
江戸時代にはゴボウは強壮効果があるといわれ、中国でも強壮などの効能から薬用とされて薬膳料理にはしばしば登場してきます。
そういえばドリンク剤には、アルギニン(強壮効果)、リグニン(腎機能強化)がうたわれていますが、これらはゴボウにも含まれています。あんな繊維だらけのような根菜に豪腕な面があるとは意外ですね。
◆江戸時代から健康手助け
ところが世界広しといえどもゴボウを栽培し、常食しているのは日本くらいのものです。おかげで先の大戦中、オーストラリア人の捕虜に木の根(つまりゴボウ)を食べさせたといって捕虜虐待の罪に問われた日本人将校がいました。
理不尽な話ですが、食文化の違いは得てして大きな誤解につながってしまう例と言えるでしょう。でもその捕虜がゴボウを気に入ってよく食べていれば元気もりもりになって日豪友好につながっていたかもしれません。
ともあれ、ゴボウをよく食べたおかげで、江戸時代この方、日本人の健康は保たれてきた一面があるのだろうと思いますが、最近の若い人は敬遠がちなようで、残念なことです。
なお、ゴボウは油との相性がいいので、てんぷらやキンピラゴボウがおいしく感じられるのです。日本を訪れる観光客にも味わってもらってゴボウが世界に輸出される日が来る、などというのは初夢としてはささやかすぎるでしょうかね。
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