ドローンで省力化・効率化をめざす 茨城県の実証事例に学ぶ2017年8月31日
農業経営の大規模化の促進が、国などから盛んに言われ、高齢化した生産者のリタイアもあり、集落営農組織や生産法人化による規模拡大が進んできている。大規模化に伴って省力化・効率化などによるトータルコストの低減がこれからの課題となってきている。
そのために、IT技術の活用やロボット農機などへの注目が高まっているが、その一つにドローンの利活用がある。多くの産地で本格的な利活用に向けた実証が行われているが、茨城県では県央農林事務所が中心となり60数名の会員によるドローン農業利活用研究会を立ち上げ、実践的な取組みを進めている。そこで県央農林事務所の大塚毅経営・普及部門長に取材した。
◆60名で研究会を立ち上げる
大塚部門長は個人的にもドローンに興味を持ち、操縦資格を取得しているが、「どうやったら農業で活用できるのか」と考えてきた。しかし、メーカーの情報や個人でドローンで楽しんでいる情報はネットなどに多くあるけれど、実際に農業の現場で役立つ情報が少ないと思い、実務に役立つ話を聞き、実際に試すための場として「ドローン農業利活用研究会」(会長は川崎洋氏)を立ち上げた。現在の会員は約60名で、生産者・行政・企業関係者がそれぞれ3分の1という構成になっている。
同研究会では年2回、専門家を招いてセミナーを開催するとともに、さまざまな実証試験にも取り組んでいる。
大塚さんたちは、「作物の生育状況を上から撮影したらどうか」と考え、いろいろな作物を定期的に撮影し、その生育状況の変化を追跡している。「こうした映像を基に行動を起こそうと思っていますが、まだ始めたばかりなので活用にまではいたっていません」というが、取組まれている内容は、非常に興味深いものがあるので、いくつか紹介していく。
◆上空からの映像情報でほ場を分析
(写真1):小美玉市手堤の水稲の空撮写真(7月)
流し込み施肥をした3日後の写真で、水口付近の葉色が濃いことがわかる
まず、水稲での取組みから見ていくことにする。
一つはヤンマーアグリジャパンが開発している「可変施肥」だ。ドローンに赤外線カメラを搭載し、ほ場を上空から撮影すると可視光では見えない土壌の状況が分かり、追肥がどの程度必要かどうかを判断することができる。そのデータに基づいて追肥することで、無駄な施肥をしなくて済むというものだ。
また追肥の方法に、水口に肥料を置き流し込む「流し込み施肥」があるが、ほ場全体にうまく広がっているのかどうかは、上から見れば一目瞭然なので、そうした撮影も実施し、問題があれば改善方法を検討することにしているという(写真1)。
これは茨城ではないが、大塚さんによれば佐賀県では大豆についてドローンで撮影して害虫の発生状況を把握。害虫が発生しているところにピンポイントで農薬散布する実証試験が行われているという。こうしたドローンの映像とGISとが連携した有効活用も非常に興味があるとも。
農業に注目するソフト会社が参入してきており、撮影された映像をネットを介してクラウドサービスに送ると、分析された結果が返されてくるので、それを見て施肥や農薬散布をするという事例がこれからは多くなると大塚さんは見ている。ただ、「まだ試行錯誤しているのが現状」なので、本格的に利活用できるようになるにはもう少し時間がかかりそうだとも。
◆生育状況を把握し適期に収穫
(写真2):日立市下深萩町のりんご園の上空写真
(上)7月撮影。りんご園の枝の混み具合の判断ができ、冬の剪定作業に活用できる。
(下)4月撮影。新芽が動く前の様子で、枝の配置がよくわかる。剪定前と剪定後で撮影をすると、剪定作業の結果が判断できるので、剪定の指導などに活用できると思われる。
果樹のリンゴでもドローンの特性を活かした実証試験を行っている。リンゴの剪定について技術指導もするのだが、地上から樹を見上げてでは分かりにくい部分がある。これを「上からの映像で見せて、こんなに違うんだよと示して、剪定に活かしてもらいたい」と考え、剪定が終わった直後からドローンを飛ばして撮影し、どう生育していくのか経過をみている(写真2)。
野菜では、茨城町を中心に業務用キャベツの大産地になっているが、1戸当たりの栽培面積が10haとか20haと大規模化し、しかも分散しているので、ほ場ごとの生育状況を把握するのは大変な作業になる。しかも業務用キャベツは出荷時期が重要なので、的確な生育状況を早く知り、適期に収穫・出荷するための判断をするために、ドローンを使えないかと生産者と相談し、今年、これから定植するものから撮影することにした。「どうなるかは分からない」というが、データが蓄積されていけば間違いなく有効な方法になるのではないかと思える。
業務用キャベツだけではなく、水稲も含めて規模が拡大すると、ほ場が分散しているので、どう管理し、どう効率的に省力化して農作業をするのかが大きな課題になることは間違いない。人が地上から見るだけではわからないものが、ドローンで上空から観察することで、きめ細かなところまで目が届き、管理しやすくなると大塚さんたちは考え、ドローンの有効な活用方法の開発に取り組んでいる。
◆ラジヘリとの棲み分けで有効活用
ドローンが登場した当初は、農薬散布にという期待が大きかった。しかし、「広いほ場では効率的にもラジヘリには敵わない」。だが、民家の近くでラジヘリでは騒音問題があるようなところや、中山間地の狭いほ場では小回りが利くドローンが有利なので、「徐々に棲み分けていく」ことになるのではないとみている。
これからドローンが農業の現場で有効に活用されるためには、こうした地道で実証的な蓄積が非常に大事だといえる。おそらく同じような取組みが全国の生産現場で行われているはずなので、そうした経験がもっと交流して、よりよい活用法が確立されることが大事ではないかと思う。
そのために、私たち「JAcom」と農業協同組合新聞がお役にたてればと思いますので、情報のご提供をお待ちしております。
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