栽培技術 シリーズ詳細

シリーズ:AIと農業

2017.06.28 
次世代農業へ挑戦を【梶谷 通稔氏】一覧へ

カギは情報「見える化」

 AIやロボットを活用した次世代の農業を実現するスタートラインは「情報の見える化=データ化」だと梶谷通稔氏は強調する。今回は情報をデータ化することで従来とは異なる展開をしている事例を紹介しながら、この問題を考えていく。

◆農業でも「スマイル曲線」実現

【図】スマイル曲線【図】スマイル曲線

 まず図を見て欲しい。これは加工業の例だが、もっともコスト(経営資源や人件費)のかかっていた加工・製造部門を、AIやロボットなどの機械化で省力化・効率化を実現し、その経営資源を付加価値の高い「研究・開発」や「販売・マーケティング」にまわすことで、大きなビジネスにつなげ、成功しているある企業の例だ。上と下の曲線が笑っている口元にみえることから「スマイル曲線」と呼ばれ、これが国際潮流となっている。
 同じことが農業でも実現できると梶谷氏はいう。この図の加工組立は、農作物栽培なら「生産(栽培)工程」だ。ここを播種機や収穫機、そしていま開発中の自走トラクターなどのロボット機器で機械化、あるいは自動化することにより省力化・効率化ができる。GPSの精度が現在の誤差10mからたったの6cmになるという、この春に打ち上げられた日本の人工衛星「みちびき」が実用化されれば、3D化(立体的)されたその映像とともに、トラクターなどの無人自動運転も実用化の日は近い。さらにドローンを使って撮影された3D画像の利用は、すでに土木工事の現場で実用化されており、農業現場で即活用もできるようになる。
 多くの労働力を集中的に必要とする播種・定植や収穫期などで、労働力が最小限に縮減され、しかも効率的・省力的に農作業が行えるようになれば、その余力を販売やマーケティングに、さらにマーケティング情報を基に新たな品目や加工品などの開発に知恵を使えることから、新しい世界が開けてくるというのが梶谷氏が描くこれからの農業の姿だ。

◆経験や勘から科学的データによる経営に ――JA浜中町

 そうした新しい農業のあり方を実現するために必要なことは「あらゆる情報の見える化」であり、「見える化」とは「情報のデータ化」だという。「情報のデータ化」とは具体的にどういうことかという問いに、梶谷氏は即座に北海道の酪農先進地として知られるJA浜中町の名を上げた。
 同JAは、生産した牛乳を余すことなくきちんと販売するには、組合員が品質問題にしっかり取り組むことが大事だと考え、経験や勘で行っていた酪農を「科学的なデータに基づく経営に変える」必要があると、1981年(昭和56)に「酪農技術センター」を開設。生乳の分析・検査だけではなく、乳牛が食べる良質な牧草づくりに不可欠な健康な土壌の醸成維持のための「土壌分析」や、栄養満点な牧草づくりのための「飼料分析」を定期的に行い、これらの分析データに基づいて研究を積み重ね、乳牛にとって理想的な牧草を育てるための土壌改良を行ってきている。
 そして蓄積したデータで独自の酪農情報システムを開発し、国内初の牛乳トレーサビリティを実現した。
 米国・ハーゲンダッツ社の技術者は、浜中町の生乳を使用していたタカナシの工場をみて「米国並みに牧場の段階から管理された牛乳はこれ以外にない」と断言。迷うことなく日本で販売する「ハーゲンダッツアイスクリーム」の原料にJA浜中町を選んだ。情報をすべてデータ化=「見える化」していたことが成功の大きな要因だ(関連記事はこちらから。JA浜中町のHPはこちらから)。
 農村の人口減、後継者問題、TPP攻勢の中で、浜中町では都会からの受け入れ、転入希望家族に対する研修制度など、その機能も充実していて組合員は効率よく働いている。

◆JA職員や組合員の負担をなくす――JAふくしま未来

JAふくしま未来の屋外センサー 耕種部門でも生産・販売管理のデータ化が進んでいるところは多い。とくに複数の施設をもつ大規模な施設栽培では、ハウス内の温湿度や二酸化炭素濃度、養液や潅水などの管理データをセンサーで感知・収集して無線やネットなどを利用して送り、そのデータに基づいて自動的に制御されている。
 梶谷氏が知る生産法人の代表は「少し前までは所詮、経験と勘が命でITは使えないと思っていたが、いまではデータを使って判断できるようになり、ITはなくてはならないツールになった」と話す。
 全国でも有数な果樹・野菜産地である福島県のJAふくしま未来では、これまで霜対策のために人が行ってきた温度等の観測を、今年4月、NTT東日本が開発した自動的に観測するシステムに切り替え導入した。
 果樹の開花期となる4月からは「霜」による重大な被害が発生する可能性の高い時期なので「半世紀くらい前」から農家組合員やJA職員約60名が、ポイントとなる56ほ場で夜8時から夜明けの4時半までの間、1時間ごとに温度観測を行なっていた。そして凍霜害が発生する危険温度に達する前に、果樹園地内で燃焼剤を燃やして空気を対流させて温度を上げてきていたが、その人的な負担が大きな課題となり、JAではこれに変わる自動化の仕組みをいろいろと検討。その結果、電池など電源不要で、さらにモバイル回線費用も不要というコストパフォーマンスに優れたNTT東日本の開発したシステムを導入。観測は15分ごとに終日自動的に実施され、データはNTT東日本のオンラインストレージサービス「フレッツ・あずけ~る」に自動収集され、そのデータによりスマホやPCなどを通じてほ場環境が"見える化"され、JA職員や組合員の負担をまったくなくすことに成功した。このデータは同JAのホームページで公開され確認もできる。
 現在は、果樹の防霜対策として導入されているが、通年で観測できるので米や野菜類の積算温度の観測にも使える。また、二酸化炭素濃度の観測センサーを搭載すればハウスなどでの栽培管理にも十分に応用できる。菅野孝志JAふくしま未来組合長は「農産物すべてに活かせるので汎用的に拡大し、これからの地域農業のいろいろな面で活用できるように取り組みを強化していきたい」と考えている(関連記事はこちらから)。

◆「高値の花」も 組織で使えば

開花期のリンゴの花 この他にも、水田の水位を自動的に観測しその推移を調整するシステムや自走式農業機械開発の取り組みなどが進んでいる。それは次の機会に紹介するが、新しいシステムや農機を導入するにはコストがかかると敬遠する人は多いのではないだろうか。とくに家族で営農している生産者にとっては、「高値(峰)の花」といえる。だが、JA浜中町やJAふくしま未来はJAとして取り組んでいる。このように個人ではなくJAや生産部会、集落の仲間と共同で取り組むことで、集団として効率化・省力化ができ、開発や販売・マーケティングに力を入れることもできるのではないだろうか。
 次回は話題の「ビッグデータ」の農業での活用を考えてみたい。
(写真上から)JAふくしま未来の屋外センサー、開花期のリンゴの花

(関連記事)
「眼」を持ち進化するAIの世界【梶谷 通稔 氏】 (17.06.09)

【JA革命】第1回JA浜中町 とんがって、光って、北の星 (14.06.06)

果樹の霜害防ぐ最新の自動観測装置を導入 ――スマート農業で生産者の負担を軽減 JAふくしま未来 (17.04.26)

一覧はこちら

このページの先頭へ

このページの先頭へ