農業協同組合新聞 JACOM
   
この人と語る21世紀のアグリビジネス
田口俊一 全農サイロ(株)社長
たぐち しゅんいち 1945年6月神奈川県うまれ。慶応大経済学部卒。68年全購連入会、85年全中、87年全農飼料部、同東京支所次長を経て98年釧路サイロ(株)専務、2000年社長、01年全農サイロ常務、04年6月社長。
輸入穀物のサイロ保管で蓄積した
ノウハウを誇る
田口俊一 全農サイロ(株)社長
 今年6月、社長に就任したばかりだが、事業環境は、鳥インフルエンザや、記録破りの猛暑と台風続きなど、まことに多難だ。例えば猛暑で家畜の食欲が減退すれば飼料の需要も減る。輸入した飼料原料を保管し、荷役をする全農サイロの取扱量にも響いてくる。新社長は「苦戦中です」と語る。しかし、その表情は暗くない。若々しく、精力的だ。前期も前々期も会社の業績は好調で、前期の当期利益は史上最高だった。JA全農の飼料取扱量が3年続きで伸びたからだ。新社長は「なんとか前期並みに持っていきたい」と横ばいを目指す。同社は前身の神戸サイロ(株)設立からすれば36年の歴史を持つ。JA全農の出資90%で、基盤は整っている。ただ、それだけに「マンネリの気配が出ないようにしたい」と新社長は社内の士気と社員の質の一層の向上をはかる構えを見せている。

飼料原料の安定供給で畜産経営を力強く支援

◆国内随一の保管能力

田口俊一 全農サイロ(株)社長
  ――国内で消費される飼料穀物の大半が輸入依存となっている中では穀物の円滑な輸入と継続的な供給が重要です。飼料原料の物流の中で、全農の飼料・畜産事業の要ともいえる全農サイロの機能は、どの部分を担っているのですか。

 「岸壁に着いた外航船から穀物を荷揚げし、サイロに入れて保管するのが当社の機能です。メインは保管の仕事ですが、内航船に積み替える機能とか、また各支店の隣にはくみあい飼料工場が併設されているので、そことつながったコンベアで原料を搬出するまでが当社の仕事です。サイロビジネスは輸入穀物の物流システムにおいて中心的役割を果たしているといえます」

 ――全国的なネットワークを持つサイロビジネスは全農サイロだけと聞いていますが。

 「飼料工場や畜産農家により密着したサービスを提供するため全国5支店と釧路(北海道)の子会社に基地サイロを展開し、穀物輸送距離をなるべく短くしてコストを抑えています」

 ――外航船つまり本船が6ヵ所に入っているわけですね

 「そうです。各岸壁には本船用と内航船用の桟橋があり、一貫荷役のできる最新鋭の荷さばき施設が整っております。内航船は各地域の飼料工場に近い港に穀物を運んでいます」

 ――取扱品目は?

 「配合飼料の主原料であるトウモロコシとマイロが中心ですが、副原料も取り扱っています」

 ――取扱量はどうですか。

 「年間約450万トンのうち約300万トンがトウモロコシです。マイロは減り続けて32万トンとなり、大豆カスの54万トンに抜かれました。サイロ保管能力としては65万トンで国内随一の規模を誇っています」

◆当期利益は史上最高

田口俊一 全農サイロ(株)社長
――大豆はどうですか。

 「大豆は食用油用を主に取り扱っていますが、搾油メーカーはそれぞれサイロをもっていますから当社の取り扱いは少量です」

 ――トウモロコシ輸入は、ほとんどが米国からですか。

 「そうです。飼料用穀物全体の輸入先は大部分が米国です」

 ――商系の穀物も取り扱っているのですか。

 「サイロ入庫のうち2〜3割ほどが全農以外のものです。倉庫業は商法上、排他的ではいけないのです。お客の選択はできません。商社が輸入して商系の飼料工場に供給する原料なども取り扱います。例えば荷揚げを急ぐ場合もあるなど、顧客が当社のサイロを利用する事情はいろいろです」

 ――子会社の独立採算を掲げて自立的な営業展開をした時期もあったのではないですか。

 「振り返れば、そんな経過もありましたが、メインはやはり全農グループの穀物保管です。サイロが空いていたら利用していただきますが、パイが変わらないのに、その中で営業が過熱すれば料率競争になりますからね」

 ――今年3月期の業績はいかがでしたか。

 「全農の配合飼料取扱量が3年連続で伸びたため当社の事業収入も伸びました。02年3月期の136億円に比べ、03年は142億円の増収となり、今年3月期も引き続き、同水準です。当期利益は5億円で史上最高となりました。03年3月期は1億9000万円でしたから2.6倍強です。配当は4%から6%としました」

◆今期見通しは「苦戦」

――リストラ効果ですか。

対談風景
  「いえ、要員削減などはやっていませんが、事業経費の削減は徹底しました。例えば、志布志支店(鹿児島)では自家発電を導入して動力費を削減しました。契約量を超えた電力使用は、料金が割高になるため、本船接岸による荷役などで使用量が契約量ぎりぎりになると、自家発電に切り替えるというシステムにしたのです」
 「そのほか設備の修繕費節減とか、短期資金への借り換えによる支払利息圧縮とか、いろいろな面でコストダウンをはかりました」

 ――BSE発生は配合飼料の需要に響かなかったのですか。

 「国内の騒ぎが落ち着いたあと米国での発生による輸入停止が、国内の畜産に追い風となったり、豚肉の需給が増えたりするという副次的効果というか、そんなことがありましたからね」

 ――今期の見通しは?

 「現在、苦戦中です。鳥インフルエンザで飼養頭羽数が減少し、また猛暑で家畜の餌を食べる量が減ったりして、当社の事業も計画進度より遅れています。なんとか前期並みの横ばいを維持したいとがんばっているところです」

 ――事業環境の変化をどう見ておられますか。

 「食の安全安心でトレーサビリティが求められるなど、要するに細かいハンドリング(取り扱い)が必要になりました。当社としても品質保証の国際規格である「ISO9000シリーズ」の認証を5支店すべてが取得したりして、安全安心に努力しています」

◆内外無差別の対策を

 「例えば、配合飼料の副原料である魚粉は、B飼料と言って牛に与えてはいけません。このため一度でもB飼料を積んだ船やトラックが牛用のA飼料を運ぶ場合には徹底的な清掃や、その証明書を求められます。当社はB飼料を扱っていませんが、もし扱うとなると細かいハンドリングのコストが大変です」

 ――物流面と合わせて、飼料工場のほうも大変だと思います。

 「牛の飼料は法律で豚・鶏・養魚用と分別して製造しなければならなくなったので、牛の飼料専門の製造工場建設が各地で進んでいます。1工場で数十億円の投資ですが、価格には転嫁できません。輸入品との競争がありますからね」

 ――その点で、米国産牛肉の輸入再開は大問題です。

 「国内のBSE対策だけが厳しく、海外には緩いというダブルスタンダードはやめてほしいと思います。それでなくても飼料原料を大量に輸入しているのですから」

 ――ところで、米国から輸入する納豆用大豆などに遺伝子組み換え作物は混じっていないのですか。

◆品質などの劣化防ぐ

 「人間の食用にする納豆用大豆や特別に選別された非遺伝子組換用トウモロコシは、全農が米国での生産段階から厳密に分けて契約栽培させています。出荷時の証明書も必要としています。それから集荷、船積みと物流経路もすべて分別されています。当社のサイロではアイデンティティ・プリザーブ(IP)ハンドリングという分別保管をしており、非遺伝子組み換え作物であることの証明書が出せるようになっています」

 ――サイロ以外の事業はやっていないのですか。

 「コンテナ事業もしています。これは牧草が中心ですが、少ロットで、いろいろな原料がコンテナで入ってきています」

 ――サイロ事業も含めて輸入先は米国以外にはどこですか。

 「カナダ、アルゼンチン、豪州、中国、インドネシアなどです」

 ――最後に、御社のサイロの特徴を挙げて下さい。

 「高精度の計量器による入出庫管理、品質劣化防止のためのクーラーシステム、貨物の粉化防止のための最小限の貨物移動などに、設立以来36年の当社のノウハウを十分に発揮しているといえます。品質や形状を劣化させずに、荷主の求める時間に、必要なだけの分量を届けることが当社の基本です」


 全農サイロ(株)(東京・神田淡路町)▽設立1975年(前身の神戸サイロ(株)設立は68年)▽資本金13億円▽株主構成はJA全農が90%、あと東洋埠頭など▽従業員約200人▽事業内容は、倉庫業、埠頭業、港湾運送業、貨物運送取扱業、通関業、海上・陸上運送業ほか▽支店は、茨城(鹿島)、新潟(聖籠)、愛知(知多)、兵庫(神戸)、鹿児島(志布志)▽営業所1、事業所4、駐在事務所1。

インタビューを終えて
 田口社長の生家は、神奈川県川崎市の農家。8人兄弟の末っ子。お父さんは農協の役員などをされていた。昭和43年慶応経済を出て旧全購連に入会したのも家庭環境の影響からか。管理部門が長く、現業へ出たのは40歳を過ぎていた。情報システム部では輸入原料の原価計算のシステムづくりを担当して頭角を現した。その時のシステムは、IT技術が進歩した現在でも全農で使われているという。
 全農東京支所次長から専務として出向・転籍した「釧路サイロ(株)」が引越しを伴う始めての転勤、単身赴任だった。力があり経営を立て直した経験が、さらに大きな会社の責任者への下地となっている。歴代エサ部のベテランが勤めてきた全農サイロ(株)のトップの責務は一層の気配りが必要になるが、田口社長は冷静沈着だから心配は無用。
 北海道では釣り、スキー、山登り、ゴルフなどアウトドアはなんでも楽しんだという。神奈川県戸塚の自宅に夫人と慶応大に通う娘さんの3人家族。(坂田)

(2004.9.24)

社団法人 農協協会
 
〒102-0071 東京都千代田区富士見1-7-5 共済ビル Tel. 03-3261-0051 Fax. 03-3261-9778 info@jacom.or.jp
Copyright ( C ) 2000-2004 Nokyokyokai All Rights Reserved. 当サイト上のすべてのコンテンツの無断転載を禁じます。