農業協同組合新聞 JACOM
   
この人と語る21世紀のアグリビジネス
新しい施肥法踏まえて高度化成の今後考える
日本の農産物にもっと高い評価を
チッソ旭肥料(株) 柴田勝社長
インタビュアー 坂田正通 本紙論説委員
柴田勝社長
 食と農について「日本の農産物はもっと高い評価を受けてもよいのではないか。価格が上がれば農家の手取りを増やすことが大切です。ひいては、それが肥料産業にも影響してくる」と指摘する。先々を考えると、肥料の再生産に投資できるといった環境にしないと「肥料の進歩がない」と説く。また「肥料の値段はぎりぎりのところまできている。さらに工夫をする努力はもちろん必要だが、やすいからといって海外から買うというのはまずいと思う」とも語った。効率的な施肥法も力説したが、「手っとり早い効率化はやめてしまうことだ。しかし、それでは何も残らなくなる。そこは生産現場やJAなどと、よく話し合って、ともに考え、解決していくことが大事だ」と提起した。そこには開発部門も担当してきた技術的な思想があった。

◆肥料の節約考えて

 ――化学肥料の今後をどうお考えですか。

 「地力の衰えとか、いろんなことがあって、たい肥に戻ってきていると思いますが、それと高度化成肥料を組み合わせ、また新しい施肥法を踏まえて、ものを考えていく時代に入っていくと思います。すべてを有機農業の方向へといったふうには考えないほうがよいと思います」

 ――チッソ旭の製品の現状に即してご説明下さい。

 「まず肥料の3要素を粒状に固め、施肥労力が節約できる複合燐加安と硫加燐安がありますが、我が社の主力は硝酸系の燐硝安加里です。畑作物は硝酸態窒素を好んで吸収するため、硝安は優れた窒素成分です」

 ――しかし硝酸を多く含んだ植物は窒素過多ではないかなどといわれますが。

 「それは施肥量との関係もあるでしょうが、根に近い局所にやれば施肥量を節約できるし、結果として低硝酸の野菜ができます」

 ――それでは肥料メーカーのマイナスになるのでは?

 「そこを乗り越えるのが多分メーカーの21世紀の課題です。今は局所施肥法の方向へどんどん進んでいますから。水田なら側条、畑なら直下、いずれにしても肥料の量を節約できます。しかし、それができる製品には技術が織り込まれていますからそれなりの値段で評価していただくことになると思います」

 ――製品のラインナップには緩効性のものもありますね。

 「土壌の中の微生物によって徐々に分解するCDU化成などがあります。一方、まきむらを防ぐために粒を泡状にしたあさひポーラス肥料、その他一式の高度化成の商品群をそろえています。また家庭園芸の庭木用には、棒状に固めて打ち込むグリーンパイルというのもあります」

◆実感できる省力化

 ――肥料粒を被覆したコーティング肥料も注目されますね。

柴田勝社長

しばた・まさる 昭和18年京都府生まれ。昭和43年旭化成工業(株)入社、60年チッソ旭肥料(株)東京支店長、平成元年技術部長、4年旭化成工業(株)肥料開発グループ長、8年チッソ旭肥料(株)常務取締役・委嘱技術部長、10年代表取締役副社長・委嘱技術部長、14年代表取締役社長。

 「作物の生育期間に合わせて肥料の有効期間をコントロールした肥料です。被覆した中身によって燐硝安加里のロング、ハイコントロールと、尿素のLPコート、マイスターがあり、肥効期間ごとに7タイプに分かれ、その中から選択できます」

 ――農家の反応は?

 「追肥しなくてもよいという省力化を実感していただいております。昔は夏の水田作業なんか大変でしたからね。コーティング肥料なら基肥に入れておけば、あとの作業を省けるから、高齢化にも対応しています」
 「雨が降っても肥料が流出しないことは、有効利用率の点でも地下水問題でも大事ですからコーティング肥料を使う判断基準は随分広がっています」

 ――異常気象については?

 「昨年の場合、LPコートを使ったところはコメ不作の影響が軽微だったように聞いています。土の中の温度に応じて養分を供給するからです。この温度なら、このタイプという製品のシュミレーションに沿ってコーティング肥料を選べば、よほどの異常気象でない限りは大丈夫です。また根に近く施肥すれば、有効利用率が高く、最終的に収量にも響いてきます」

 ――吸収率が高ければ、施肥量が少なくてすむわけですね。

 「そうです。高度化成を300万トン以上も供給した時代に戻ることがまずないとすれば、今後の新商品開発のポイントは、コーティング肥料のような機能の付加が、その一つだと思います。しかし、その先はまだ、よく見えてきません」

◆営農対策の強化を

 ――CDUという製品の説明をもう少しお願いします。

 「これは化学合成の緩効性肥料です。多様な有機質肥料の効き目をもう少しケミカルに見た製品といえるでしよう」

 ――肥料販売を通じて日本農業をどう見ておられますか。

 「コメ不作、BSE、鳥インフルエンザと続きましたが、ひょっとしたら食べ物が手に入らなくなるかも知れないといった気持ちを、とくに若い人たちは忘れているのではないか。食べ残しも多い。これでは自給率を上げるのは難しいと思います。石油も肥料も輸入しているのだから、食料だって輸入は当然という乱暴な話になりかねません」

 ――そういった中で、がんばっている農家も多いのです。

 「そうですね。昨日もある専門農協の話を聞きましたが、そこでは活力ある農家と、どのように仕事をしていくかを真剣に考え、議論していました」
 
 ――農協離れ対策ですが。

 「全体として、合併で弱まった組合員との結びつきを強める新たな仕組みをぜひ考えていただきたい。でないと私どもの事業の意味もなくなってきます」
 「今の農協支所は合併前の1農協として、それぞれに文化がありました。今はもっと大きな文化をつくろうとしていますが、それには大きな力が必要です」
 「合併で増えた組合員の営農相談にきちんと応じ、とくに技術的なことが話し合える体制を充実させてほしいと思います」

◆技術評価の仕組み

柴田勝社長

 「最近は試験場や普及所の人手が減って、肥料試験もままならないような状況です。技術を評価する仕組みが少しずつ崩れて来ているように思います。農協の場合も試験の結果、1県でOKとなっても、産地間競争があるため隣県ではダメといったことがあります。もっと技術を普遍化する手法を取り入れていただければと思います」

 ――話題は変わりますが、中国との肥料輸出入について、どうお考えですか。

 「今は安い高度化成が輸入されていますが、大きな農業国だから将来は日本からの輸出も展望できます。中国農業に役立つ肥料の開発を考えておくべきですね。コーティング肥料などはその1つだと思います」

 ――昔話になりますが、社長は農村現場をよく回られたと記憶しています。

 「現場の対応は結局、OKかノーかのどちらかです。ノーの場合はその理由を自分で理解できればいいな、さらに、それを相手にお返しできればもっといいな、というようなつもりでやってきました」

◆土中の成分を戻す

 ――チッソ旭の成り立ちを少しご説明下さい。

 「戦後、財閥解体を受けて日本窒素肥料(株)が、新日本窒素肥料(株)(昭和40年にチッソ(株)と改称)と旭化成工業(株)と積水化学(株)に分かれ、さらに昭和44年にチッソと旭化成の肥料事業を統合して販売会社チッソ旭の設立となりました」

 ――硝酸系の肥料を始めたきっかけは何だったんですか。

 「旭化成の技術の総帥が、肥料を考える時に、燐鉱石の中の成分を全部土に戻してやりたいと、そういう化成肥料をつくろうということでスタートしました。その技術的な思想は土に入っているものをもう一度土に戻す、カルシウム分を戻してやるという考え方です」
 「つけ加えますと、試験をする時におコメを対象に選ぶか野菜を選ぶかで肥料効果は全く違うわけですね。恐らく硝酸系に向かったのは、対象がコメじゃなくて野菜だったんだろうと思います。畑の作物は例外なく硝酸を吸いますから。中にはアンモニアを好んで吸うというのもありますが、それでも多分硝酸が少しはなくてはいけないだろうと思います」

 チッソ旭肥料株式会社(東京都文京区後楽1)
▽チッソ鰍ニ旭化成工業鰍ェ生産する化学肥料の販売業務を統合して昭和44年に設立
▽資本金1億2500万円
▽売上高約170億円(平成14年度)
▽従業員約90人▽支店7、営業所2
▽生産施設はチッソ水俣、九州化学工業戸畑、旭化成ケミカルズ富士肥料、旭化成ケミカルズ薬品(延岡)の4工場。

インタビューを終えて  
 柴田社長は、肥料販売の若い担当者の頃から存じ上げている。植物栄養学を学んだ理論家で、当時からこのままでは日本農業、農協運動は行き詰まるという技術系ビジネスマンだった。親会社・旭化成工業(株)からの出向ながら今の会社に来て25年も経つ。天下りではなく、実績を積み上げた結果の社長職だろう。
 しかし、肥料を取り巻く環境はますます厳しい。高度化成肥料の販売はピークの34万トンから、昨年は14万トンに減少しているという。下り坂に経営を預る柴田さんの辛さが思いやられる。メーカーは、コスト削減の努力は続けるが肥料価格はこれ以上下げられない、再生産不可能ですと業界を代表して苦渋を述べる。
 自宅は肥料工場のある静岡県富士市。東京文京区の本社へは金帰月来の単身赴任を長年続けた。亭主元気で留守が良い。男一人女二人のお子さんは成人したが孫は未だ。日本の少子高齢化現象の家庭環境と苦笑する。 (坂田)

(2004.3.3)

 


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