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役重真喜子氏

21世紀に向けて 食料・農業・農村に新しい風を


農村に暮らす人々のキラキラした個性を伝えたい


都市との“協同”で新たな風を
岩手県東和町いきいきまちづくり推進室長
役重真喜子氏

(やくしげ・まきこ) 昭和42年茨城県生まれ。東京大学法学部卒業後、農林水産省入省。平成5年農水省を退職し、東和町役場職員に。現在、同町いきいきまちづくり推進室室長。夫、義母、長男の4人暮らし。

ヨメより先に牛がきた  農水省に入省後の研修先で牛に魅せられ岩手県東和町役場の職員として移り住んだ役重真喜子さん。その体験を綴ったのが、『 ヨメより先に牛がきた (家の光協会)だが、役重さんは「自分の経験より、農村に暮らす人たちの姿をいきいきと描き都会の人に知ってもらいたかった」と執筆の動機を語る。
 周囲の個性豊かな人々を登場させながら今も農村に残る人と人との助け合いの大切さに著書自身が気づいていく姿と、一方で都会と変わらない問題を抱えつつある現状も描いている。「理想の農村像を都市が求め農村がそれを提供するという形ではなく同じ問題で悩み、知恵を出し合い協同で取り組んでいくパートナーシップが必要」という役重さんを東和町に訪ねた。

◆ ◆ ◆
農家女性のイメージ −生き生きとして元気でたくましい

−−著書では、個性豊かな人たち、とくに元気な女性が何人も登場していますね。最初はどんな印象を持ちましたか。

 役重 農家の女性は、東京でイメージしていたより元気でたくましかったです。もっと夫の後ろについて(笑)、というような女性かと思っていました。みんな夢や希望をもって勉強しているし、自分が農家の嫁になってもやっていけると思ったのは、生き生きとした彼女たちと知り合えたからです。モデルが目の前にいるわけですから。

 なによりも小さい町ですからネットワークが作りやすいし、また、そういうネットワークをつくるパワーがあるんですね。たとえば、朝、だれかと何か思いついたとすると、農家の女性たちはお昼には家に戻りますから、昼休みに手分けして連絡をして、夜には公民館にみんなで集まって話し合いができる。そういう機動性を発揮することができるわけです。これが東京だったらそうはいかないでしょうし、おもしろいところだなと思いました。


農業って何だろう −値段とはいえないような農産物価格

−−その一方で古くからの農村の人間関係の絆の強さへの反発と同時にあこがれも率直に描かれています。

 役重 人と人との結びつきの大切さはこちらに来て初めて実感しました。ただ、いい面もあるんですが、たとえば、近所の家での不幸があると私も3日間仕事を休んでお手伝いしたこともあるんです。
 人の一生が終わることですから、それだけみんなで集まって送ることの大切さは分かりますが、一方で住んでいる人が減っているわけですから昔と同じことをしていれば一人にかかる負担は大きくなります。とくに女性に負担がかかるわけですね。

 それを単純に楽になるようにすればいいというのではなく、若い世代もお年寄りからきちんとそうした習慣の意味を聞いて納得しながら、しかも現状に合わせて合理的にしていくということもこれからは必要だと思います。

−−農村も変わっていかなければならないということですね。

 役重 ただ、それも古いことを見直すだけではないと思うんです。たとえば、農家も子どもたちにコンビニで買ってきた食事やお菓子を食べさせるなんてことも広がりました。
 でも、日本の農業を大事にしようというなら、そういう生活実態を見つめ、それを見直すことも必要でしょう。農地を持っていなくてちょっとでもいいものを食べたいと思っている都市の生活者の方からすれば、農業を大事にしていないのは農村のほうではないかと言いたいのですから。

 農業はたしかに大変で、農産物価格は値段とはいえないような価格になっていますし、農業を産業としてみたら馬鹿げた話になっていると思います。しかし、農業を大事にするというのは、それでお金を稼げるからということ以前に、農地を受け継いでいるんだという気持ちからだと思います。自分の農地ということではなくて負託されているという意識があるからでしょう。
 だから、まずそこから獲れたものを自分たちが感謝しながらおいしくいただく。そうした土台があってはじめて都市の人にも農業を大切にしてくださいと初めて言えるのかなと思いますね。

 知り合いのおばあちゃんが嘆いていましたが、最近のお嫁さんは、畑から菜っぱを獲ってきて、ちゃんと選別して洗って、まな板に乗せておいても、それを使わないというんです(笑)。これはごく一部の話かも知れませんが。
 もちろんすべての食べ物を家で作るのは無理ですから、昔は近所でお互いに作ったものを融通し合っていたと思います。牛を飼っている農家から牛乳を分けてもらうなんてことも少し前まではあったんです。

 その意味では農産物を作って食べていくというのは、一世帯で完結するものではないと思いますね。物理的に言っても経済的に言っても。けれども、そういう家どうしの結びつきは、手間暇かかりますし心遣いも必要になりますから、サラリーマン化しているなかではなかなか難しくなっているのだと思います。


女性たちが燃えて −女性議会の設立で切実な願い実現へ

−−そうした今の農村の生活を少しでも見直していこうという動きが最初にお話いただいた元気な女性たちなどからは、出てきているのでしょうか

 役重 私が担当しているいきいきまちづくり推進室は、女性政策が中心なんですが、今、女性議会をやろうという話し合いを進めているところです。
 この2月からいろいろな団体に声をかけて集まった女性で実行委員会を立ち上げて、環境部会、教育部会、農業部会などに分かれて勉強してきています。その話し合いのなかで出てくることが、さっき話した地域の仕事の大変さであるとか子育てのことなどですね。

 最終的にはその女性たち30人を議員という形にして、通常の町議会のように町長以下、役場の課長たちまで出席してもらって質問に対して答弁するという議会を考えています。
 その議会をイベント的なもので終わらせないようみんなが燃えていて、普段の男性中心の議会や社会では見えてこない暮らしや子育ての問題などを訴え町政の答えを引き出そうとしています。

 具体的には、子育て支援センターのようなものをつくってほしいという要求が出そうです。
 都会でも子育て支援センターがありますが、私たちが考えているのは、子どもを預けてお母さんが楽をするというだけじゃなくて、そこにいけば地域のおじいちゃん、おばあちゃんと知り合え子育ての知恵を教えてくれるといった場所を考えているんです。
 本当は支援センターなどなくても、少し前までは農村全体が子育て支援センターみたいなものだったわけです。地域を歩けば大人がいて悪さをすれば怒ってくれる。そういう機能が薄れつつあります。

 支援センターといっても小学校の空き教室でもいいし公民館でも利用すればいいわけです。農村には、人と人の支え合い、助け合いが当然のように空気のようにあったのだろうと思いますが意識的にコミュニケーションも図れるような場を設定していく工夫が必要な時代になったんじゃないかと思います。


農業への痛烈な批判も −農の大切さを消費者にきちんと発信を

−−全国紙などでも農業、農村について問題提起されいますが、どんな反響がありますか

 役重 もちろん共感の声が多いんですが、なかには都市部の方、中小企業などで苦労されてきた方からは、痛烈なご批判を頂くこともあるんですよ。農業、農家は甘えている、自分で何一つ考えず国のせいにしている、われわれ中小企業は政府のお金など一円も仰いだことはない、と。よくある批判で事実とは違うという反論もできます。
 しかし、そういう指摘に反論できない面もあると思うんです。それをきちんと自己反省し、こういう点はやはり間違っていたと国民に対してきちんとそれを発信することが必要ではないかと最近は思っています。

 とくに農協がそれを発信していかないと、いくら米を消費しよう、農業を大事にしよう、といっても、それで振り向く人もいるでしょうけど、ますます反発を招いてしまうこともあるのではないでしょうか。
 自ら反省して変わっていかなきゃいけない、それを農村の内部で言っているだけじゃなくて、消費者や都会の人たちに発信していかなくてはならないと私も考えています。
 私自身は核家族で育ちましたから3世代同居というのは最初は抵抗がありましたし、子どもが生まれたときも子育てに口は出してほしくないという気持ちもありました。

 それで子どもが4か月のときに私が病気で入院するんですが、その原因のひとつは自分の赤ん坊なんだから全部自分でやるんだとガチガチに肩に力が入りすぎてたこともあったなと反省しているんです。
 こうやって3年間、義母も私も病気をするなど修羅場をくぐってきてみると、子育ては一人じゃできないですし、おばあちゃんがいてよかったな、3世代同居とはこういうことだったんだなと感謝しています。今は、人の力を借りることが自然にできるようにならなければ生きていけないのだろうと思っています。

 だから、変わり目だといわれる今という時代がとても大事だと思います。私の義母ぐらいの世代の人は当然のように地域の助け合いのなかで人生を歩いてきて、そのことをまだ受け継げる時代ですよね。受け継ごうと思えば。でも、背中を向けてそっぽを向いてしまえば途切れてしまう。ただ、頑固な習慣というのではなくてやはり若い世代がその意味を理解して時代にあったように合理化するところは合理化しても、その気持ちを受け継いでいくことが大切だろうと思います。


農村も動き始めた −都会の若いお母さんとも手を組めるはず

 たとえば、こういう話でも、都会も農村も同じような悩みを抱えているわけでしょうし、それを解決しようと農村も動き始めているいうことを都会の若い人にも知ってもらいたいですよね。それが分かってもらえれば都会の若いお母さんとも手を組めるはずです。
 私が本で書きたかったことも、ただスローガン的に農業、農村を大切にしようと訴えるのではなくて、都会と同じような視線で物事に悩んだりしている人が個性を発揮しながら農村に暮らしていますよ、そしてそういう人たちが米や野菜を作っているんですよ、ということなんです。

−−ありがとうございました。           


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