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検証JAの営農指導
   21世紀を本当に「農」の世紀とするために


◆「JA離れ」を生む営農指導の弱体化

 JAの合併が進み、奈良県のような県単一JAをはじめ市町村の枠を超えた大型で広域にわたるJAが次々と誕生している。組合員戸数5000戸以上の大型JAは、全JAの12.5%だが、全組合員数の44%、貯金残高の43%、貸出金残高の41%、経常利益の43%を占めている(「JAファクトブック2000」)。

 JAの合併が進むにつれて、経営安定化のために、経営のウェイトが収益性の高い信用・共済事業に傾き、農業協同組合が本来拠ってたつ農家組合員の農業生産・販売へ支援を行う営農指導事業が弱体化し「組合員のニーズに応えられなくなっている」。あるいは、「JAが大型化して知らない職員、知らない組合員が増え、農家組合員が信頼し、相談できるような職員が身近にいなくなり」、専業農家を中心に「JA離れ」が進んできていると「合併の逆効果現象」を指摘されることが多くなってきた。

 その原因としてあげられているものをまとめてみると、@生産法人や専業農家のニーズに応えるだけの力量がJAにない、A業務が多岐にわたり、営農指導専任体制がとられていない、B効果的・効率的な営農事業体制が不整備ということになるだろう。

 昨年10月に(社)農協協会が実施した大規模農家・生産法人を対象とした意識調査で、「JAの営農相談・営農指導を受けているか」という問いに「栽培指導を受けていない」約52%、「営農相談を受けていない」約71%と回答している。また、情報の入手先として、「業者・メーカー」との回答が「生産資材の新商品・新資材情報」約82%、「新技術情報」約70%、「マーケティング情報」約57%と圧倒的に多く、「JAの営農指導員」という回答は「新商品・新資材」で25%、「新技術」で約19%、「マーケティング情報」では約13%となっており、専業農家や生産法人とJAの関係・密度があまり濃くないという結果が出ている。

事業
年度
営農
指導員 数
1JA平均 未設置
組合比率
農業改良
普及員数
正組合員
戸数
1指導員当り
農家戸数
55 18,661 4.2 17.7 9,552 5,088 272.7
60 19,001 4.5 14.1 9,115 4,968 261.5
2 18,938 5.3 11.8 8,790 4,859 256.6
5 17,880 6.2 11.3 8,670 4,780 267.3
6 17,704 6.6 11.7 9,009 4,750 268.3
7 17,242 7.0 11.2 8,862 4,729 274.3
8 17,280 7.4 11.7 8,747 4,716 272.9
9 16,869 8.0 11.6 8,634 4,677 277.3
10         4,647  

◆真摯に農家と向き合う「JAの顔」

 その反面で、専業農家も含めてしっかりとJAに結集している事例も数多くある。そうした元気のあるJAを訪ねると、組合長はじめトップの考え方が明確で、農家組合員と一番接する機会の多い営農指導員を「JAの顔」と位置付け、組合員のよき相談相手となっている。そうしたJAでは農家組合員からも「うちの営農指導はしっかりしているよ」と、JAを信頼する声が返ってくる。

 JA営農指導員を中心に約100名の営農関係者の手記をまとめた「現場からの営農指導論−農家とともに地域農業の再生を−」(JA全農営農・技術センター営農企画室、平成11年1月刊)を読むと、全国的な組織や交流研鑽の場もなく、実践を踏まえた営農指導論も少ないなかで、手探りで農家組合員と真摯に向き合っている営農指導員の姿が浮かび上がってくる。

 こうした現場の努力がどう活かされるのかは、「JAによって格差がありますよ。営農指導はすぐ利益にはならないから、JAのトップがどう考えるか」だと全青協(全国農協青年組織協議会)のある役員はいう。そして「農家の経営を考えれば、生産と販売は車の両輪のようなものですから、そこにJAがどう関わってくれるかで、JAへの信頼も変わります」。それは「兼業農家だって、農業所得が必要ですから同じ気持ち」だという。

◆「農家にいかに儲けてもらうか」

 いままでの営農指導は「栽培技術指導」に重点をおいたたものと考えられていたのではないだろうか。ところが、最近は専業農家や生産法人など農家の技術レベルが高くなり、「彼らのニーズに応えるだけの力量がない」といわれるようになり、栽培技術指導に重点をおいた営農指導員の数は減少してきている(図1、2参照)。

図1図2

 いまは、農畜産物を「作ればいい」とか、「国が面倒をみてくれる」という時代は終わり、主食であるコメも含めて、実需と結びついた生産・販売をしなければ農家経営が成り立たない時代になっている。
 そうした時代に求められる営農指導は、「『農家にいかに儲けてもらうか』であり、そのための生産、経営指導が組合員から期待されている仕事」であり「各地域の特性に応じた生産技術を活かした指導販売体制を確立することが、組合員の要望に対応する」ことだといえる。もう少し具体的にいえば「JA独自ブランドの販売は、独自販売がよいか、卸等の流通ルートを利用するのか。そのコストはいくらか。メリット、デメリットはどこにあるのか。まず何からできるのか」などを考え提案し、営農集団はもちろん担い手農家と一緒に検討し、一緒に実践していくことだ。

 そして農家組合員も「私たちが農協にもっとも期待しているのは、営農指導であり、作ったものの有利販売であり、資材の低価格購入である。営農指導員は専門職として生きた知識を身につけ、農家と一体となって高い価値ある商品づくりに、その情熱を燃やし続けてほしい」とエールを送っている(以上は前記・全農営・技センター刊の冊子から)。
 つまり、今日の「営農指導は、生産・販売一貫体制のもとではじめて機能するものであり、経営指導をベースとして、技術の紹介、販売・出荷指導、生産の組織化指導までを包含して担当」することが求められている(JA全中「合併JAの組織・事業運営指針第3版」)。

◆技術指導中心から、販売戦略にもとづく生産誘導へ

 第22回JA全国大会の議案もこの点を重視し、「食料・農業・農村の21世紀を切り拓くJAグループの取組み方向」で、「農業の持つ力を最大限発揮するためには、地域で農業振興の取組みを強化することが必要であり、JAは地域農業振興の核としての役割を発揮」し、「地域農業戦略づくり」に取組む。その「実践にあたり、地域農業のマネジメント機能を発揮しうる拠点として、JAの営農センターを強化」するとしている。

 そして「JAの営農指導に期待される役割は、技術指導中心から、販売戦略にもとづく生産誘導へ転換する必要があり、生産振興と販売企画機能を有する専門職の育成と資質の向上」をはかるとしている。
 JA全中の馬場利彦営農企画課長は、これからの営農指導は2つの機能が求められているという。1つは、ここまでにも触れてきたように「消費者・取引先ニーズを生産現場に結びつけ、生産者を組織化する」ことだ。つまり「マーケティングできる営農指導で、JAの販売力を強化する」機能だ。

 もう1つは、農業委員会や行政と連携して農地を集積し、「将来にわたって農地の受け手となり、地域農業を支える担い手の育成と支援」という機能だ。そのために「JAが中心となって認定農業者の育成・支援と組織化」に取組むというものだ。これは、JAの収益に結びつかない仕事だが、「『農』の世紀づくり」を担うJAにとっては欠くことのできない仕事でもある。

◆消費者・実需者ニーズを生産現場に

 こうみてくると、「作ったから売る」ではなく「売れる農畜産物を作る」へ、トップも含めてJAが意識改革できるかどうかが、最大のポイントになっているといえよう。
 売れるものを作るためには、まず消費者・実需者のニーズを的確につかむための、情報を収集しなければならない。そのためにはIT(情報技術)、特にインターネットの活用による情報収集がこれからは有効だ。インターネットについては、ホームページ(HP)を設置して特産品を販売することなどと考えられがちだが、当面はHPの開設を考えず、パソコンをインターネットに接続して必要な情報を収集するために利用することの方が大事だ。

 そしてその情報を確認し、より正確なものとするために、消費地や実需者を訪れ、自分たちの目や耳でそして肌など生の情報を集めることも忘れてはならない。
 そうした情報をもとに、どんな品目・銘柄を、どのような生産(栽培)方法で、どれくらい生産し、どのような方法で、誰に売るのかを考え、農家組合員に提案し、組織化し、農家に儲けてもらえば、組合員のJAへの信頼は高まるのではないだろうか。

◆「農」をベースにJAの総合力発揮を

 「農家が儲かる」ためには、生産物が適正な価格で売れることはもちろんだが、生産コストが安く収まることも重要だ。JAの生産資材事業が採算割れをしてはいけないが、赤字にならなければいいのではないだろうか。営農指導員は農家にもっとも身近な「JAの顔」だ。この顔が本当にいい仕事をすれば、必ず農家組合員に信頼される。その信頼が生産販売事業や、購買事業だけではなく、信用・共済事業へ、あるいは生活関連諸事業にも、必ず良い影響を与える。そのことでJAの収益が確保される。それこそ農業をベースにした総合JAの力の発揮だといえないだろうか。JAの「トップは経営の難しさに耐えて、この哲学を貫き通してもらいたい」(前出冊子)。

 「農」の世紀づくり、「共生」の世紀づくりが、これからのJAグループの基本課題だと、JA全国大会議案書は訴えている。この議案の組織討議がはじまるが、ぜひ農業協同組合のこれからのために営農指導のあり方について、真剣に討議をし、それを実践することで農家組合員から真に信頼されるJAを築いてほしいと思う。



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