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 検証・時の話題

WTO農業交渉とJAグループ

「日本提案」の実現に向けた運動が重要に

 今年3月から開始されたWTO農業交渉では、年末までに加盟国が交渉提案を示すことになっている。JAグループは、ミニマム・アクセス米の大幅な縮減の実現などわが国の提案に対する主張を11月21日に決め、主張が反映されるよう働きかけてきたが、30日には政府・与党とのWTO農林水産問題3者会議が開かれ12月初めには正式に日本提案が決定される見込みだ。提案の策定以降は、WTO交渉でその実現をめざすことがわが国の最大の課題となるが、JAグループとしても国内外での理解と支持を得る運動が重要として、JA全中は来年以降、統一キャンペーンに取り組むなどの方針を決めている。

IT活用で理解と支持広める 

 ウルグアイ・ラウンド(UR)農業交渉合意後の平成6年と10年をくらべると、農産物輸入額は2割増加、一方、国内農業生産額は1割減少した。
 JAグループは、このようにUR農業交渉は、わが国農業に甚大な影響をもたらしたとして、次期農業交渉は、農産物貿易の自由化そのものを目的とするのではなく、世界各国で多様に営まれている農業が「共存し、共生していけること」を目的とするべきであると主張している。
 とくに食料自給率が著しく低いわが国のような食料純輸入国の抱える問題が十分に改善されるため、国境措置や国内支持について「特別な配慮がなされるべき」であることを強く訴えている。
 12月初めに予定される「日本提案」策定後も、JAグループはこうした基本的な姿勢に基づき、国内外での理解と支持を得る取り組みを継続、強化する方針だ。

 運動の基本は@日本提案に対する組織内外の理解を深める統一したキャンペーン運動の展開、A全国と都道府県段階で組織されている「食料・農林漁業・環境フォーラム」を中心とした連携強化、B海外の農業団体との連携の継続、としている。
 このうち国内運動は、「3つの共生運動」や「地産地消の取り組み」、「自給率向上運動」などと連動させて、日本提案の解説冊子、リーフレットなどを作成、JA関連施設(直売所、給油所など)やイベントなどでの配布を行う。また、新聞などへの意見広告の掲載やJAグループ各段階で行う事業広報のCMなどに統一メッセージを掲載することも予定している。

 同時にJAグループが消費者向けに作成しているコミュニティ紙などでも、WTO農業交渉に関する情報提供を定期的に実施していくことにしている。  そのほか△インターネットを活用した情報提供の強化、△マスコミ関係者を含む各界のオピニオンリーダーに対するEメールによる情報発信、△「1JA1懸垂幕の掲示」運動、△消費者団体、経済団体との意見交換の場の設定、などにも力を入れる方針だ。

海外農業団体と連携強化  来春から代表団派遣 

 海外農業団体との連携強化については、昨年末に米国シアトルで開催されたWTO閣僚会議への対応と同様、交渉の重要な局面では政府の交渉を支援するためJAグループ代表団を派遣する方針を改めて決めた。

 また、来年3月以降は、WTO交渉の課題をめぐって、わが国の主張の理解促進と連携を図るため、各国農業団体への代表団(県独自・ブロック別)派遣も以下のような日程で予定している。@13年3〜4月頃、対象国:米国、カナダ、分野:一般セーフガード(野菜、柑橘)、ミニマム・アクセス問題、A13年4〜5月頃、対象国:多面的機能フレンズ国(EU、フィンランド、スイス、フランス)、分野:多面的機能、食料安保、国内支持など、B13年5〜6月頃、対象国:韓国、タイ、マレーシア、フィリピン、インドネシアなど、分野:食料安保、国家貿易関係、C13年6〜7月頃、対象国:豪州、ニュージーランド、分野:WTO交渉全般について、D13年7〜8月頃、対象国:中国、分野:多面的機能、セーフガードなど。

JA内の学習も強め、内外への広報活動を 

 WTO農業交渉についてのJAグループ内での学習活動も今後大切になる。JA全青協国際部会は、先月、漫画で解説した「ゴリパパ一家と学ぶ早わかりWTO入門」を作成し、JA全青協のホームページに掲載している。
 この資料は、神保あつし氏の「ゴリパパ」のキャラクターを起用して、農業を営む一家が「WTOとは?」、「食料安全保障とは?」と家族で考え理解を深めるストーリー。青年部員が個人で利用できるのはもちろんだが、組織での学習会にも利用されている。また、11月9、10日に行われた全国消費者大会でも同資料をPRした。今後もこのようにインターネットなどを活用した広がりのある学習、広報活動も期待される。

MA米の大幅な縮減を主張
農業者の憤りあふれる現状ふまえて
 

JAグループの日本提案への主張

 JAグループは11月21日のJA中央会・全国機関会長会議で「WTO農業交渉に関する日本提案策定に向けたJAグループの主張」を決めた。組織討議の結果を集約してまとめたもの。
 主張のなかでの大きなポイントが、「米のミニマムアクセスの取り扱い」についてだ。

 JAグループは、日本のように食料自給率が著しく低い国で、国民の主食である米の安定供給を維持することが食料安保確立の観点からもきわめて重要な課題であると指摘。
 しかし、UR合意後、米は、国内消費の減少と価格下落のなかで生産調整面積も拡大しており、「MA米が国内需給に影響を与えている」としている。さらに、こうしたことから「生産調整を行いながら、年々拡大するMA米を輸入しなければならないことへの農業者の憤りがあふれている」と厳しく指摘している。

 そのため、米のミニマム・アクセスについては、@制度の改善をはかり「大幅な縮減を実現するため」の提案をとりまとめるべき、Aその際、「国による一元輸入と輸入米の管理」、「マークアップ」、「高率の二次関税」を組み合わせた総合的な国境措置は「絶対に維持すべき」、B国産米の需給に影響を与えないよう、輸入米の管理、SBS(売買同時入札)の見直しなど、国内での措置を厳正に行うべき。また、円滑な食糧援助を可能にする仕組みが構築されるべき、C交渉の進展に応じてその都度の判断が必要になる事態が想定されるため、「交渉過程の透明性を確保」すべきである、との4点を主張の柱とした。

 また、先週末から野菜の輸入急増による一般セーフガード発動のための政府調査開始が焦点なってきたが、農業交渉では「農産物の特性に対応したセーフガード措置の設定」についても主張に盛り込むべきとしている。
 JAグループのこの主張は、輸入急増に対して、機動的・効果的に対応できるようなセーフガード措置が農業協定のなかに設定されるべきだとするもの。現行の一般セーフガードや特別セーフガードの規定はWTO協定で定められてはいるものの農業協定としては定められていない。
 そのため、農産物には、季節性や腐敗しやすいといった特性があることをふまえて、農産物貿易ルールとして、輸入量が一定水準以上になったり輸入価格が一定水準以下になった場合に「自動的に発動が可能なセーフガード」の仕組みを設定すべきと主張したものだ。

 同時に、国産野菜について現在の一般セーフガードが速やかに発動できるよう手続きや要件の見直しなど国内法の改善も行う必要があるとしている。また、UR合意時に関税品目に適用された特別セーフガードは、輸入国の「当然の権利として引き続き継続していく必要がある」としている。
 そのほか、関税についても「農産物貿易に関する自然的・経済的諸条件の違いを調整するための輸入国の正当な権利」であるとして、適切な水準と形態が維持されるべきであるとした。

 国内支持については、「自給率の向上を可能にするための国内支持」の観点から、一定の政策的支援の必要性を主張。
 なかでもUR合意で農業生産に直接結びつかない国内支持策と規定された「緑の政策」については、その要件の見直しは必要最小限とすべきであり、さらに農業生産と完全に切り離した農業政策は「現実には不可能」なことから、農業の実情に即して見直すべきとした。
 さらに、政府に対して、今後、交渉方針を変更する場合には、メリット、デメリットの検討を含め国民レベルで議論を積み上げることができるよう「情報開示の徹底」を求めている。  



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