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 検証・時の話題

輸入急増 野菜戦争 その1

国内生産者を守るには何が必要なのか

シイタケ、イ草を対象としたセーフガード早期実現の緊急集会を15日開催した
 
シイタケ、イ草を対象としたセーフガード早期実現の緊急集会を15日開催した(東條インペリアルパレスで)
 輸入生鮮野菜は、平成10年8月下旬から10月中旬までの長雨と台風の影響によって、生鮮野菜が高値になったのを機に、一気に増加した。11年も10年の高値の影響、夏場の高温多雨の影響、円高などから前年比20%増となった。12年は秋口まで国内産が記録的な安値にもかかわらず、輸入野菜はそれを下回る価格で量販店や外食産業を中心に販売を拡大し増加した。
 そのため、ミニトマト、ピーマン、ネギをはじめ国内産野菜や果実の市場価格が低迷し、多くの生産者が「このままでは採算割れになる」と危機感を強めている。野菜産地をもつ地方自治体は政府に対してセーフガードの発動を求める決議を行い、これによる意見書や請願書の数は、平成12年議決分で意見書1348件、請願書3件、13年議決分意見書58件、合計で1409件(農水省発表、3月9日到着分まで)の多数に上っている。
 野菜は、他の農畜産物で自給率が大幅に低下するなかで高い自給率を維持し健闘してきた農産物だ。しかし、ここ数年の生鮮野菜の輸入急増は、国内産地に大きな打撃を与えている。特に、中国や韓国などは国家の支援も得て、自国内では消費が少ない品目・品種を日本市場向けに生産するようになり、日本の生産そのものの存続を危うくする危険性をもっている。  本紙はこの事態を「野菜戦争」と位置づけ、この戦争に国内生産者が勝ち残り、日本の農業を守るために何をしなければいけないのかを考えてみることにした。

◆輸入の中心は中国・韓国にシフト

 財務省の「貿易統計」によれば12年の野菜輸入量は275万6713t、果実が280万6898tとなっている。その内、生鮮野菜は11年の4万1000t増の92万6000tと過去最高となっている。生鮮野菜以外は、冷凍、塩蔵、乾燥、缶・ビン詰など加工品として輸入されている。「輸入野菜は300万t時代」になったという関係者は多いが、加工品を生鮮換算すれば、平成6年(1994年)に輸入野菜はすでに300万tを超えていると、藤島廣二東京農大教授は指摘する。
 最近の国内生産と輸入の動向は 表1 のとおりだが、生産量(収穫量)は平成2年までは1600万t前後で推移してきたが、最近は、単収は増加傾向にあるものの、ピーマン、ニンジンなど緑黄野菜は横ばい、重量野菜は減少傾向にあり1400万t弱となっている。
 表1 を見ると、国内生産量が減少した分を輸入野菜が埋めているとも見える。しかし、ここ数年、生鮮輸入野菜の傾向は大きく変化してきている。それは、かつては国内産の端境期や国内産の不作による価格高騰時期にスポット的に輸入されていたが、最近は、品質が向上したこともあって、国内産の収穫・出荷時期に低価格で輸入される傾向が強まっていることだ。それによって、野菜価格が低迷し国内生産者の所得は減少し、「採算割れ寸前」「採算がとれない」状況になってきており、このまま推移すれば国内生産者は野菜生産から撤退せざるをえないところに追い詰められることにもなりかねない。
 この「野菜戦争」の攻撃側の中心にいるのが、中国、韓国などアジア諸国だといえる。最近5年間のアジア諸国からの生鮮野菜の輸入動向をまとめたのが 表2 だが、アジア諸国からの生鮮野菜の輸入量は、10年に全体の40%を超え、この5年で2倍強となっている。なかでも中国は、この5年間で20万t以上も増加し、生鮮輸入野菜全体の35%近くを占めている。

◆日本向け品種・規格で攻勢かける韓国

 また、9年までは5000tにも満たなかった韓国からの生鮮野菜輸入は、10年に一挙に2万7000t弱へ増え、12年には3万tを超えた。その主な品目別生産・輸出(韓国からの)動向は 表3 のようになっている。輸出量は全量が日本とはいえないが、かなりの部分が日本向けと考えて間違いない。いずれも98年(平成10年)から輸出量が増えているが、パプリカは韓国国内ではほとんど消費されないため、輸出するために生産されているといえる。
  表3 に韓国の輸出向けの主要品種を掲げたが、キュウリ、ナス、イチゴでは韓国国内向けとは異なる品種が栽培されている。キュウリの場合には、半白系の銀星白タタキ、白峯タタキや青長系、四葉系が韓国内向け品種として栽培されており、日本向けの百成やシャープなどの品種は韓国内では好まれないという。ナスも黒真珠、可楽長ナス、新黒山号など内需向けには、輸出用とは異なる品種が栽培されている。
 韓国の全北貿易(株)が、今年のFOODEX JAPAN 2001で配布した資料によると、平成4年からナスやキュウリの専門輸出団地が全羅北道で造成され、「徹底した産地管理(輸出規格共同選別)により高い味と品質に優れた新鮮な」ナスやキュウリの供給が可能だという。
 同資料に添付されている標準規格(品位・等級・大小・量目・包装基準)を、日本有数のキュウリ産地であるJA高知春野の北岡修身組合長に確認したところ、キュウリの規格は「高知や宮崎の規格と一緒」であり、「シャープ(キュウリの品種)だったら、産地表示がなければ高知か韓国か見分けがつかない」という。品種の選定から品質・規格まで、すべてが日本市場に合わせて生産されているわけだ。

◆量販店の価格競争が輸入増大の要因

 しかし、どんなに日本の消費者の嗜好に合わせて生産されても、日本国内で流通し販売されなければ彼らの努力は意味をなさない。毎日、必ず食卓にのる「野菜はスーパーの顔ですよ」と、ある食品スーパーの役員はいう。「顔」である以上、年間を通した品揃えと、安定した品質と量の確保が必要であり、競争に勝つためには競合店よりも安いことが条件となる。
 量販店同士の激しい価格競争によって「野菜は顔だけれども赤字」だという事態に陥り、品質が同じで少しでも安い野菜を求めた結果が、人件費が安く低価格な輸入野菜を、ということになったのではないだろうか。そこに商社や種苗会社が介在したことも間違いない。彼らによれば、それは「消費者の望んでいる」ことであり、「市場原理」だということになる。しかし、歯止めのない「価格破壊」は、その一翼を積極的に担ってきた量販店の経営を悪化させ、野菜輸入を積極的に進めてきたダイエーは経営危機に陥っている。そして日本経済は、経済学の教科書でしかお目にかかれなかった「デフレ」という深刻な事態になった。
 市場原理を声高に唱え、価格破壊を賛美した人たちにその責任を問うても、有効な方策は期待できないだろう。そして、多額の投資をして日本市場へ進出してきた中国や韓国が簡単に引き下がることも考えにくい。韓国も深刻な経済状況にあり、国内向けに切り替えても、先行きの見通しが立つとは思えない。むしろ死に物狂いで日本へ向かってくるのではないだろうか。FOODEXの会場ではそういう熱気すら感じた。

◆県と生産者団体が一体で強い産地づくり取り組む

 「品質がよくて、安ければ買う」という消費者の手を、国内産野菜に向けさせるために、生産者は、産地は何を考えているのだろうかと、高知県を訪れた。
 高知県は、野菜粗生産額では全国11番目(10年)だが、ナス、キュウリ、ピーマン、温室メロン、シシトウ、ニラ、ミョウガ、オクラ、ショウガ、大葉の全国有数な産地だ。
 その高知県では、「いままで通りでは、将来を考えたら危ない」と県とJA県中、野菜の販売を一元的に集出荷する高知園芸連、JA・生産者が一体となり「園芸高知パワーアップ戦略会議」を昨年9月に発足、「消費地に安定した高品質な野菜を供給できる強い産地をつくる施策を3年くらい集中的にやっていく」ことにしていると、県園芸流通課の市原利行課長とJA高知中央会の中原営農農政部長。
 そして「高知ファン」をつくるために統一キャンペーンを展開し「高知を丸ごと売っていく」。そのためには橋本大二郎県知事もPRに一役かう予定だ。高知ファンをつくるためには、消費者の購買動機を深くつかみ、調理や食べ方などの情報提供をするなどひとつひとつ積み上げていくことが大事だと市原課長はいう。
 生産者には、県産野菜の70%以上を占める11品目を野菜価格安定対策事業の対象にしているが、品質がよければ補填価格を上積みする予算措置を考え、「安くなっても、しっかり良いものをつくってください」という施策をとったり、養液栽培のための初期投資を支援するなどを実施していく。

◆新鮮な野菜を消費者に届ける

 平成5年に選果施設を統廃合し、年間7700tのキュウリを自動的に選別できる施設をつくったJA高知春野の北岡組合長は、キュウリの輸入量はまだ少ないが、価格は確実に低下したという。これに対抗するためには、生産コスト低減や規格の簡素化によるコスト低減と収量をあげるなど栽培体系の見直しが必要だという。
 春野では農薬を50%減らしたハウスショウガの生産に取り組んでいるが、栽培履歴などを明らかにすることで、安全性を保証することも大事だ。
 生協や量販店と直接取引きをしている全農東京生鮮食品集配センターの三浦広二加工物流部長は、安心・安全対策とともに、コンテナによるコスト削減や規格簡素化、バラ出荷による労力削減と栽培面積の拡大などコスト対策。日本人の好みや気候にあった品種の選定や有機、減農薬減化学肥料栽培による差別化。年間を通して朝とれたものを夕方に食卓に届けるなど品質対策などが、輸入に対抗する方法ではないかという。
 高知県の市原課長は、海外の技術が向上すれば「5年後10年後には安全・安心は購買動機にはならない」と考えているが、いまは日本人の健康にとっては国内産がもっとも適していることを消費者に理解してもらうことであり、「原産地表示を追い風に、1日でも半日でも早く強い産地をつくることだ」と強調する。
 物流を含めたコスト削減は絶対に必要だが、人件費が安い輸入物に価格面で勝つことは至難の技だ。北岡組合長は、生鮮野菜の命ともいえる新鮮さを「1日でも早く消費者に届ける」ことと、市場などとJAグループが提携して、周年で売り場を確保できる体制をつくることが必要であり、そのために全農のリーダーシップに期待しているという。
 JA高知春野では、Aコープ・JAグリーンと併設して産直店を開設して大きな成果をあげているが、少なくとも野菜産地では地産地消を実践し、輸入野菜を入れないという覚悟が必要なのではないだろうか。  



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