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検証・時の話題

生産者と国の役割分担を明確に
適切な計画生産と公平確保が前提
冨士重夫 JA全中 食料農業対策部長

 米政策の見直しに向け政府の生産調整研究会で議論が行われている。6月末にも中間的な整理が行われる見通しだが、必ずしも一定の方向が示されるほど議論は深まっておらず、JAグループとしては7月以降、この秋に想定される本格的な検討に向け、現場の実態をふまえた政策提案を打ち出す方針だ。JA全中食料農業対策部富士重夫部長にこれまでの経過とJAグループの対応方向について解説してもらった。

◆政府研究会の議論の状況

政府の生産調整研究会

 政府の生産調整研究会は、4月以降生産調整部会、流通部会、企画部会に分かれ、毎回精力的な議論や検討をすすめているが、必ずしも議論が深まっている状況にはないように思う。このままでは当初描いていたスケジュールの6月末までの各部会での一定の考え方整理はできそうもないし、議論状況を率直に踏まえれば無理矢理まとめるべきでもない。
 7〜8月に、いくつかの考え方がある程度整理されたとしても、具体的な仕組みや、総合的なシステムの議論は今秋にならざるを得ないように思う。
 政府研究会は公開であり、インターネットやホームページでその議論のやりとりは知ることができるが、JAグループからすれば、これまでの議論は無責任や身勝手な主張が多いと感じずにはいられない。
 米も商品経済の視点で考えなければならないが、米が年1作であること、容易に腐らないこと、全体需給がくずれれば在庫が根雪のように存在し、長期間価格低迷が続くこと、北から南まで多くの生産者により供給されていること、転作率が40%近くなっているが、米を核にした耕種農業が営まれ、水利、水田を中心にして農村社会が形成されていること。生産調整の実施・未実施、需給調整経費の負担の有無などの不公平が存在することなどの現実や、実態を充分念頭に置いて、課題や、問題点を掘り下げ、米政策の総合的な見直しや改革を議論してもらいたい。
 また、ミクロ的な点の事象が全体に通用し当てはまるような議論は充分検証してもらいたい。
 政府研究会の生産調整部会では高木部会長の「総合的検証の視点と対応方向の考え方」が出された。内容については大いに議論のあるところであるが、米づくりの本来あるべき姿、それを実現するステップ、主要な条件整備事項、実行プログラム、客観的な需要予測、第三者機関による調整システム、供給量調整手法の検討、地域で選択可能なシステムの構築などの項目整理は、今後の真剣な議論をすすめるうえで前進であると思う。
 研究会での議論が現場の実態を見据え、問題点、課題の改善を考え、将来方向を踏まえた、責任ある、総合的なものとなるよう期待したい。

◆米政策の見なおし・改革の前提

 米政策の見直しなり改革を検討するにあたって、いくつかの前提がある。
 生産調整の押しつけとか、いろいろな不公平があり問題だと言うなら、自由な生産に任せてしまえばという無責任かつ短絡的な議論があるが、米の商品特性、価格弾性値、水田農業等の実態からして、そのような方向は選択できない。将来にわたって消費者に安定的に米を供給するためにも、生産基盤である農地を有効利用し全体の自給率向上のためにも、米の適切な計画生産の実施は必要であり、まずこのことを前提にすべきである。そのうえで公平性ある需給調整の仕組みや、水田農業の構造改革、集落営農も含めた担い手に対する経営政策など水田農業が持続的に発展できる総合的な基本政策を確立することが必要である。
 適切な計画生産の実施とともに、豊作に伴う過剰米の公平性ある処理対策を確立することがもうひとつの前提である。
計画流通米だけで豊作分に伴う過剰分を調整保管や飼料用向けに別途処理し、その負担を背負っている不公平な実態を払しょくし、生産者と国の役割分担を明確にした処理対策を確立することが、米政策の見直し、改革の柱にならなければならない。

◆JAグループの組織討議

 JAグループでも研究会、水田農業対策本部委員会などで検討を重ねており、現場においても現行米政策の問題点なり課題についての幅広い議論も実施している。7月11日の全中理事会には、米政策の改革に関する対応方向の一定の考え方を整理し、8月末までにJA各段階での組織討議を実施してもらうよう準備をすすめている。
 討議の柱は、(1)新たな生産調整のあり方、(2)過剰米処理対策、(3)生産調整に対するメリット対策、(4)新たな流通制度、JAグループの米事業の改革対策、(5)水田農業の構造対策について――の5本に整理し、わかりやすいものにしていくべきだと考えている。

 現段階での検討状況は
(1)新たな生産調整のあり方
 仕組みは達成者に対するメリット措置を前提に、生産面積を基本として過剰米処理を生産調整の達成条件とする考え方はどうか。これまでの減反面積の仕組みと異なり、生産面積を基本として、過剰米処理を達成要件とすることで生産量の把握と確実な豊作対策ができるのではないか。そのうえで計画生産目標の調整の具体的仕組みや生産面積当たり拠出金の徴収を実施する仕組みを法的制度的措置も含めて検討する必要があるのではないか。

(2)過剰米処理対策
 主食用需要の生産数量目標を上回る豊作分は主食用とは別に安価で集荷し処理することを生産調整の達成要件とし、メリット対策を付与する必要があるのではないか。過剰米を加工・飼料用など主食用以外に豊凶にかかわらず安定的に供給するため、生産を越えてプールできるような新たな「加工用途・飼料用等備蓄制度」を創設する必要があるのではないか。

(3)生産調整メリット対策
 1) 生産調整助成金をわかりやすくメリットあるものに転換することが必要ではないか。地域の実態を踏まえ、関係者の合意に基づく地域の取り組みを生産者が選択でき、これに対して助成金を一括交付する措置が必要ではないか。麦・大豆等にかかわらず耕畜連携に向けた飼料作物、地域で取り組む戦略的な作物や有機米など消費者が求める米の生産対策、水田農業構造改革など経営対策等への取り組みも含めることが必要ではないか。
 2) 新たな経営所得安定対策は現行品目対策を基本に、担い手の経営全体の所得を安定させる対策として確立し、米の需給と価格の安定を確保する観点から生産調整の実施を要件とする必要があるのではないか。対象者は効率的な集落営農も含めた新たな担い手制度を確立し、この担い手が自らの選択で加入できるものにする必要があるのではないか。
 3) 稲経は個人ごとに煩雑で大量の事務処理の実態や資金収支の悪化、消費地・大都市圏での加入率が低いといった現状や米政策改革の全体の内容や将来の状況を踏まえ、わかりやすい対策への見直し検討が必要ではないか。

(4)新たな流通制度では、計画流通米の競争力を確保する観点から販売や流通段階の需給調整などの現行流通規制は緩和する必要があるのではないか。そのうえで大凶作時などは国の責任ですべての集荷・販売業者に米の集荷を義務づけられる登録などの仕組みを考える必要があるのではないか。検査、表示、安心・安全な米を供給し、トレーサビリティできる制度を併せて構築する必要があるのではないか。また、流通に大きな影響を及ぼす県間流通銘柄については、必要な対策を措置し、安定的な供給と価格の安定を確保する仕組みが必要ではないか。

(5)水田農業の構造対策においては、農地を農地として利用することを基本に、地域の農地全体の有効利用に向けた計画策定、担い手への農地集積を抜本的にすすめるなど、水田農業を支える担い手として、集落営農を含め育成すべき経営体として明確化した新たな担い手制度を確立することが必要ではないか。耕種と畜種が連携し、飼料作物の拡大、飼料用稲、ホールクロップサイレージ、堆きゅう肥の有効利用など耕種と畜種を結びつける制度的な仕組みの確立が必要ではないか――といった点をポイントとしている。
 今年の米政策改革の組織討議は、政府研究会でのいくつかの考え方が出されれば、そのことについても議論していただき、JAグループの対応方向としての一定の考え方について討議してもらいたい。そして良い悪いではなく、自由な生産に任せるのではなく、現行の制度、政策システムを変える具体的な考え方や総合的なシステムの提案も併せてしてもらうような討議のもち方、すすめ方を考えたい。討議を踏まえて9月にはJAグループとしての政策提案を取りまとめる必要があり、与党においても9〜11月にかけて具体的な議論が展開されるものと想定される。その時に水田農業の将来を賭けて、組織が一丸となって運動を展開できるようにしていかなければならない。




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