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検証・時の話題

21世紀の集落営農を考える
まずは類型化そして法人化を
発展の追求には組織分割も
進む新たな担い手づくり

 集落営農。その実体はつかみにくいが、力をつけてきた背景には“ムラ社会”の空洞化に対する危機感がある。富山県の積極的な助成に代表されるような自治体の支援があったからだとする見方もある。全国に9661(平成12年11月現在)。農水省は、その中から「集落型経営体」(仮称)を選別する要件を固めた。稲作経営安定対策の廃止にともなう経営所得安定対策の対象を絞り込むためだ。兼業が多くて構造改革の遅れている水田農業の方向をどう考えるか。集落営農は、そのキーワードともされる。JA全中が10月30日に開いた「地域農業構造改革推進全国大会」の議論などから集落営農の可能性を検証してみた。

◆得体が知れない?

地域農業構造改革推進全国大会=31日、東京・大塚のホテルベルクラシック
地域農業構造改革推進全国大会=31日、東京・大塚のホテルベルクラシック
 「21世紀型の集落営農を考える」をテーマにした同大会は350人規模の予定を100人もオーバー。JA職員、わけても自治体や改良普及センターの職員また農水省からの参加も多く、担い手づくりへの強い関心をうかがわせた。
 集落営農にはイノシシやサルの野荒しを防ぐ目的の組織もある。その姿も様々だ。このため新しい形に進化させるためには、タイプ別にきめ細かなメニューを用意して取り組めるようにまずは類型化が必要だという提起があり、大会はこれをほぼ結論づけた。政策支援の検討にも類型化は必要とされる。
 また集落営農を“得体が知れない”と見る向きもあるため、社会的存在として認められるには法人化が必要だとの結論も出た。企業や団体に説明責任が求められる時代。行政の助成対象となる場合にも法人化によって透明性を確保しておく必要があるとされた。
 JA全中は法人化を来年秋のJA全国大会議案に盛り込む方針だ。

◆自給自足の桃源郷

 島根県津和野町の山間部奥ヶ野集落にある農事組合法人「おくがの村」の糸賀盛人・代表理事は「現在ある集落営農を法改正によって、すべて法人化してしまえば、それが一番よい」と大胆に主張した。
 同法人の事業は稲作の作業受託と施設・機械の共同利用、そして転作だ。16戸で構成している。土地利用の集積はしていない。
 糸賀さんは「うちの集落営農は食料や飼料の自給率向上だけでなく、エネルギーの自給も目ざしている。転作田で作ったナタネの油でトラクターやコンバインを動かす。油が余れば集落内の自家発電をやり、田んぼのバイオエネルギーによる自給自足で、みんなが晴耕雨読のゆとりある生活をするのが理想だ。これはグローバルな観点に立った集落営農ともいえる。行政はこんな取り組みをこそ支援すべきだ」と意気高い。
 これは市場原理主義に対置して自給自足圏を形成しようとするデンマークなど北欧型の経済運営と似ている。糸賀さんは大会1日目に先進事例報告をし、2日目はパネルディスカッションで発言した。

◆市場経済も考えて

 富山大学の酒井富雄教授は討論をまとめる形で、競争原理の徹底か、それとは別の市場経済システムを選択するかを問われた場合、「我々としては集落営農という点から、どちらをとるかについて提示できるのではないか」と指摘。大きな経済構造の中での集落営農の意義や位置付けを示唆した。また「集落営農は社会と環境を土台にした農業企業ともいえる」とした。
 大会は集落営農の前提となる地域合意の形成をめぐっても議論。その育成と発展の方策を探った。
 集落営農のイメージはひと様々だ。1日目の基調講演で酒井教授はまず「みんなで労働する」というイメージがあるとした。それから▽みんなで経営する▽資源管理をする、などがあるが、共通点は「集落をベースにした営農システム」であるとした。1集落だけでは経営できないことなどもあるからだ。
 先進事例報告では、新潟県・JA越後さんとうの今井利昭・営農部長が「集落の担い手を明確にするため認定農業者を集落ごとに選び、JAと行政が協議して認定している」と語った。

◆認定農業者の選定

21世紀型の集落営農を考えるパネルディスカッション=11月1日、同ホテルで
21世紀型の集落営農を考えるパネルディスカッション=11月1日、同ホテルで

 同JAは他産業なみの所得確保を考え、任意組織の集落営農では限界があるとして法人化を支援し8法人を育成した。ここはJAが地域農業の司令塔としての活動を展開。その中で法人への土地集中を考えている。 「法人組織は一人歩きする傾向に陥りがちだ。そうなると地域から見離されて農地集積が進まなくなる。このため法人は“集落とけんかしないこと”を鉄則としている」という。「法人の社会性をJAの地域農業マネジメントシステムで担保しながら経済性を追求している」とのことだ。
 法人化してよかったことの中には「法人、JA、改良普及センター、町役場の4者が情報を共有し、よくまとまっている」という点もつけ加えた。
 今後、大きな集落では加工事業を含めて生活者も参加できるような株式会社型の農業法人設立も検討しなければならないだろうともいう。管内では「農地流動化と地域農業システムづくり運動」がシステマティックに進んでいるからだ。
 一方、糸賀さんの報告は「年寄りが百姓仕事のできる仕組みをつくろうという非常に単純な話から集落営農ができた」とのことだ。

◆経営譲渡の受け皿

 農業者年金をもらうのに必要な経営委譲の受け皿とするため最初から任意組合でなく特定農業法人として立ち上げた。「年金をやるから60歳で経営をやめろというのは百姓をするなということになる。おかしな制度だ。百姓を続けながら年金を需給する方法はなかろうかと考えた」という。
 奥ヶ野は人口79人。うち75歳以上の現役は95歳を筆頭に32人。目の黒いうちは自分で伝来の農地を管理しようといった気概から、みんな元気だ。このため「イノシシやサルも遠慮している」と笑う。
 「経営所得安定対策は求めるが、他産業並みの所得は農業者全体として従来から要望したことはないと思う。それは農水省がいい出したことだ」とも語った。
 福岡県久留米市にある有限会社「八丁島受託組合」の井上芳男・代表取締役は事例報告で「我が社と農事組合法人の八丁島営農組合はワンセットで集落営農になっている」と説明する。
 もとは任意の営農組合だったが、これを二つに分け役割分担をして平成9年、2法人を同時に設立した。

◆ワンセットの法人
  連携プレーが重要

 2日目のパネルディスカッションで農業経営コンサルタントの森剛一税理士は「地域の合意形成という時間のかかる社会的機能と、迅速な意思決定が求められる経済的機能を一つの組織で果たそうとする弊害を避けるためには別々の組織に分けることが将来必要になる」と説いたが、八丁島の場合はまさしく、それの先駆けとなった形だ。
 井上さんは「営農組合のほうは地域合意をはかって事業の大枠を決め、一方、受託組合は、それにもとづき担い手法人として経営をする。だから営農組合は年配者でよいが、受託組合は実働部隊だから若手のほうがよい」とする。
 会場の質問(書面)に答えた討論での発言では「両者の連携プレーが完全にうまくいかないといけない」と強調。また「あくまで集落の合意形成がベースにないと農地の利用設定も団地化も協業化もマネジメントもできない」とした。
 八丁島地区の農家は110戸。うち機械を持つ自己完結型の農家は受託組合から作業の再委託を受けている。また作業委託型の農家は余剰労働力を受託組合に提供している。あとの土地持ち非農家約50戸は農地約50ヘクタールを組合に貸して小作料約970万円を受け取り、一方、転作助成金約2100万円は組合が受け取っている。

◆アレルギー克服へ

 「集落営農は個別農家の機械を遊ばせないとか例えば病気の時の農作業代行などマネジメントもしているから個別農家との関係は良好だ」と井上さんは語る。 法人化では「アレルギーがあるかも知れないが、株式会社化がおすすめ」と森さん。「地域合意が基盤にあるのだから地域に可愛いがられる株式会社になればよい」とする。有限会社は出資者が限定されるが、株式ならば地域から均等に出資を求められる。原資は任意組合の清算金から得られる」などとした。

共通認識かなり高まる

 集落営農の構成員はほとんどが兼業農家だが、農水省の「農業構造改革推進のための経営政策」は、その実態に目を向けていない。一般的に家族農業への冷たい目もある。そうした中で「21世紀型の集落営農を考える」大会で展開された議論の意義は大きい。
 多様な地域農業の実情に応じた構造改革の中で集落営農の果たす役割が、かなりの共通認識になった。
 日本経済がどういう市場経済システムを選択するかといった際に農業サイドからは集落営農を一つ提示できるとの論点まで出た。
 また地域合意を取り付けるには、地域社会の中での経済的弱者の視点が必要という論点もあった。
 集落営農は法的にみただけでも任意組織、任意組合、法人、みなし法人の「人格のない社団」に分けられることから大会は類型化して取り組む方向を出した。また法人化の必要性も結論づけた。
 農水省調査では集落営農9900余のうち稲作主体は約7000。法人は5%、任意組合は92%。1集落内の営農を一括管理・運営している組織は12%。活動内容は機械の共同利用、団地化、農作業の共同化が多い。
 なお同省は集落営農の定義を「集落を単位に農業生産活動を農家の合意で共同化している営農の形態」としている。

集落型経営体の4要件とは?

 農水省は経営所得安定対策の対象とする「集落型経営体」(仮称)の要件を次ぎの四つとする考えだ。
 (1)資材購入から農産物販売、そして収益配分までを一元化していること。
 (2)組織経営体として市町村の経営指標実現が確実と見込まれること。
 (3)組織の中の主な農業者が市町村の定めた目標所得水準を目指し得ること。
 (4)一定期間内に法人化し担い手として経営を発展させる計画を持ち、その実現が確実と見込まれること。
 これらを満たすような集落営農は認定農業者とともに「育成すべき農業経営」と位置付け、各種の担い手対策の対象とする。




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