農業協同組合新聞 JACOM
   

検証・時の話題

本紙緊急調査 16年産 実作況は「95」?
主要産地201JAの米担当者に聞く新米の「量」と「質」
1等米比率、想像以上の低下 潮風害 日本海、瀬戸内沿岸で深刻
―関東を中心に太平洋側は豊作基調

 過剰基調で推移していた16年産米は9月以降の相次ぐ台風の上陸や長雨で作柄が悪化。10月26日に農水省が公表した10月15日現在の全国平均作況指数は「98」と9月10日現在から3ポイント低下した。ただ、地域によって差が大きく佐渡では「51」と半作の地域もある。また、九州は品質の低下が影響し14ポイントも低下した。
 2年連続で不作が確実となったが、現場からは作柄はもっと悪い、との声も出ている。そこで本紙ではこのほど米生産量の多いJAを中心に米担当者への緊急取材を行った。調査は北海道から鹿児島まで201JA。これらのJAの合計米生産量は平年作なら420万トン近くになるが、今回の調査をもとに試算すると実作況は「95」程度になるとの結果となった。米生産現場の声とともに調査結果を紹介する。

 本紙では、全国201JAからの管内推定作況、平年生産量などを聞き取り取材した。県別の推定作況はデータが得られたJAのデータを集計し推定した数字。全国平均は各JAの平年生産量と推定作況から今年の生産量を試算し数値を出した。(JAごとのデータは別掲)
 10月15日現在の公表データでは全国の水稲作付け面積169万7000ヘクタール。予想収穫量は全国で872万7000トンとなっている。10アール当たり収量は514kg。

地図

◆作況調査の基準、現場には違和感も
 ―現場も予想を超える被害

 本紙の緊急調査は10月21日から29日にかけてJAの米事業担当者に対して電話取材したもの。JA管内の平年生産量とJA管内の作況指数、1等米比率などを聞いた。管内作況指数は担当者の推定値、1等米比率は調査時点の全品種を対象に回答してもらった。1等米比率は今後の検査によって変わる。
 今回の緊急調査は9月になって各地で台風被害などが報じられるなか、16年産米の作柄がかなり低下するとの現場の声を受けて実施することにしたもの。
 担当者から台風等の被害で多く聞かれたのが、潮風害だ。農水省が発表した10月15日現在作況の地帯別で「51」と全国でもっとも低かった佐渡では、「相川地区570ヘクタールのほ場のうち9割が皆無作となった。最初は被害面積は3割程度とみていたが日が経つにつれて拡大し5割になった。年輩の方でもこれほどの被害は初めてと話す」(JA佐渡)という。
 日本海側だけでなく山口、岡山、兵庫などの一部地域の瀬戸内海沿岸でも潮風害が発生した。「海岸部を中心に潮風害で大幅な減収」(JA山口宇部)、「潮風害で籾が落下」(JAあわじ)などの声が聞かれた。また、九州でも発生している。「有明海沿岸で約180ヘクタールが被害」(JA佐城)。台風の被害ではそのほか倒伏と倒伏による穂発芽も多い。

◆長雨の影響で収穫に遅れ

 一方、台風の被害が大きくなかった地域でも、長雨の影響を指摘する担当者もいた。「台風被害よりも、ほ場のぬかるみによる収穫の遅れなど二次災害が発生」(JA新いわて)、西日本でも「通常30アール当たり1時間半の作業が長雨続きで今年は4時間かかっている」(JA鳥取いなば)、などの声が聞かれた。
 また、8月の気温による高温障害もある。「夏の高温で乳白米が発生。品質低下につながっている」(JA京都丹の国)などの指摘が聞かれた。
 作柄が全体として良好なのは東北の太平洋側と関東、東海。ただし、農水省の公表よりも現場の実感としては作況指数は低い。

◆製品収量は大きく低下

 その理由としてJAの担当者からしばしば聞かれたのが、作況調査のふるい目の差だ。国の調査では1.7ミリが基準だが多くのJAでは1.80ミリ以上を基準として良質米の販売に取り組んでいる。こうしたことから「生産量は例年の8割だが製品収量としては7割」といった捉え方だ。
 同時に台風、長雨の被害で広がったのが品質の低下。1等米比率は10%以下との回答を寄せたJAも多く、なかには「ほとんどない」というJAもあった。地域別というよりも潮風害などにより局地的に深刻な品質低下がみられる。
 規格外米が増加したため「管内の業者に引き取ってもらい少しでも生産者の収入になるように対応している」や、「野菜、麦など作付けを災害対策として推進する」というJAもあった。
 一方で良好な作柄に恵まれた地域では、「今年は食味がいい」、「ほぼ全量1等米」といった声も。

◆品質に格差広がる

 国の見通しでは生産数量は全国計で872万7000トン。16米穀年度の需要量は859万トンとしており、約14万トン程度が過剰となるが、このうち12万トンが加工用となる。そのため生産量との差は2万トン程度で需要に見合うとみている。
 ただし、本紙の調査でも示されているように産地銘柄によって収量とともに品質に大きな差があるのが実態だ。これら地域ごとの米の作柄が今後どう流通、販売に影響するか注目される。
 夏までは過剰基調とされていた16年産米。「今年は稲の生育は極めて順調に推移したが8月末の台風で収量や品質に多大の被害を出した」とのJA担当者の言葉が多くの産地の実感を象徴しているように思われる。

×  ×  ×

 米政策改革元年の今年、全国ベースで2年連続の不作が確実になった。調査では台風や長雨が各地に大きな被害をもたらしたことが浮き彫りになった。「経験のない被害」、「どう稲作指導をしていけばよいのか分からなくなった」とのJA担当者の声がそれを物語っている。また、品質低下も地域によっては想像以上に深刻だった。今回は被害実態の一端を明らかにするために調査時点での一等比率の回答を紹介した。生産者からは「自然には勝てないな」との声があったというJAも。本紙では今後も生産現場の努力と実態を伝えていきたい。ご協力いただいたJA担当者に感謝します。

 調査は東京、神奈川、山梨、沖縄を除く43道府県のJAを対象に10月21日から29日にかけて実施した。JA数は201となった。担当者の推定作況では100以上との回答が74JA、37%。90台は81JA、40%を占めもっとも多かった。80台以下の回答は46JA、23%。1等米比率は調査時点での実績。まだ検査が実施されていないJAもあった。数値は四捨五入。


1等比率低下で手取り確保に苦しむ現場
全国のJA米穀事業担当者の声


【北海道】
▽地域の作況は90に近い。▽風による脱粒も。未熟粒、シラタも発生した。▽脱粒、倒伏被害も一部発生したが米はまずまずの出来。▽強風による脱粒とコンバインロスで10%以上の収穫減の見込み。▽夏の高温障害も一部で発生。ほ場格差、品種格差も大きい。▽色彩選別の能力を上げて品質向上を図っている。生産者には全量1等米を指導。

【東北(日本海側)】
▽昨年は大冷害だったので比較すれば今年は良。▽風害と夏場の高温障害が発生。沿岸部では潮風害も。▽地域条件による差が大きい。▽米が痩せて整粒不足で1等比率が低下。▽歴史的に経験がない被害。圧倒的に潮風害がひどい。登熟期に被害にあった。▽1等米は1割か? とんでもない状況だ。▽分げつ期の天候不順、登熟不足、台風による収穫の遅れが出ている。▽収穫直前に冠水被害。▽台風15号(8月19、20日)の潮風害が甚大。規格外米の処理を検討。▽コシヒカリで風による倒伏被害。

【東北(太平洋側)】
▽台風被害よりもほ場のぬかるみによる収穫の遅れ。▽倒伏、発芽が一部発生したが、台風の直接の影響はない。▽収穫が1週間程度遅れた。作柄は平年並み。▽台風被害はないが長雨で穂発芽。▽今年は食味のよい米ができた。▽台風の影響はなし。しかし、7月の高温、8月下旬の低温、10月の長雨が作況に影響。▽台風の影響はないが長雨で品質低下がある。▽1等米比率は平年並み。予想以上にくず米が少ない。

【北陸】
▽潮風害は時間が経つにつれて拡大。皆無作のほ場も多い。▽台風の時期、コースが悪かった。稲の生育が止まり未熟粒が目立つ。米が細い。▽潮風被害米は別出荷で対応。しかし、一部はすでにCEに搬入されてしまったものもある。▽山間部では台風被害は少なかったがそれでも収量は減少。▽7月の集中豪雨で冠水したほ場は大被害。▽収穫後に台風が来襲。幸い被害はなし。▽9月下旬からの長雨で収穫に遅れ。▽長雨で着色粒発生。品質低下に。▽8月中旬の台風で倒伏。しかし、9月中旬に収穫し、それ以降の台風被害はない。▽高温続きのあと降雨で胴割れが発生した。

【関東・東山】
▽作況は考えていた以上に良かった。台風による影響はほとんどない。▽台風による倒伏あり。長雨で収穫が遅れ、穂発芽が心配される。▽収穫が早く被害受けず。▽天候に恵まれ品質は良好。▽出穂前後の高温、空梅雨のため籾の一部が茶褐色に。▽管内の一部水田で冠水。長雨での品質低下を懸念。▽長雨による刈り遅れはあるが台風被害はない。▽台風による作業の遅れと倒伏被害で当初予想より収量、品質とも低下した。

【東海】
▽高温のため品質があまり良くない。▽台風による倒伏被害あり。品質が低下。▽夏の高温で斑点米カメムシが発生。色彩選別機の導入を検討。▽倒伏で刈り遅れ。平年より作業が10日遅れ。▽稲の生育はきわめて順調だったが、8月末の台風で収量、品質に多大な被害が出た。▽日照不足で品質低下。乳白米が多い。3等米比率が増えている。斑点米カメムシ被害も。

【近畿】
▽台風で収穫が1週間の遅れ。▽台風16号、17号の影響で品質悪化。病害虫の発生は少ない。▽乳白米目立つ。斑点米カメムシの被害も出ている。▽夏の高温で乳白米が発生。品質の低下。▽倒伏での穂発芽、強風による細菌病の拡大、日照不足による粒張りの低下があった。台風23号で一部の米保管倉庫への浸水被害も。▽赤穂、姫路では潮風害も発生。▽潮風害が発生。強風で籾の落下もあり。倒伏も著しい。▽倒伏が激しい地帯と、逆に籾が落ち倒伏がなかった地帯に分かれた。

【中国】
▽雨によるほ場のぬかるみで通常30アール1.5時間の収穫作業が4時間に。▽今年の天候は最悪。どう技術指導してよいか、分からなくなった。▽収穫の遅れ、未熟粒発生のダブルパンチで等級比率が低下。▽今年は価格と品質の両方が心配。▽潮風害も発生し、収穫皆無の生産者も。▽早生品種は完全に倒伏した。▽県下では最悪の状況では。1等比率は6%だ。▽海岸部では潮風害で大幅な減収。中山間地では倒伏による穂発芽など。規格外米が大量発生。▽天候不順が続いたが、無理にでも収穫しようとしてコンバインロスが多発。▽長雨で収穫できず、立ったまま穂発芽する稲もある。

【四国】
▽台風による冠水と倒伏が発生。遅い時期のほうが被害が大。▽乳白米、未熟粒が多かった。▽CEで1等に調製ができず2等に。その原因を説明してほしいとの声が生産者から出ている。近く生産部会を開く予定。▽夏場の高温で心白粒発生。台風被害では穂発芽と登熟不良。▽極早生品種で倒伏・風ズレが発生。中生品種では出穂期に風ズレで不稔モミが発生。

【九州】
▽今のところ1等米は30kg出荷でほんの数袋。2等、3等ばかり。製品収量としては平年作の7割か。▽風害で実入りのない稲が多い。7割が2等米とみている。▽有明海沿岸で潮風害が発生。台風21号、23号では籾脱落も発生した。▽反収が平年の7割以下になるかもしれない。▽反収は300kg以下に。6割の減収。▽加工用米での作況調整を考えている。▽出穂期に台風が来たため籾の表面に黒ずみもあり。▽価格が下がることが予想される。1円でも高く売るしかない。▽規格外米は管内の業者に販売し少しでも生産者手取りにつなげる。▽稲作所得安定対策は規格外米は対象にならない。規格外が多かったからこそ生産者への補てんが必要。▽乳白米と痩せた米が多い。原因は出穂期初めの暑さと倒伏。

(2004.11.2)

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