農業協同組合新聞 JACOM
   

検証・時の話題

「野菜戦争」が再び勃発か!?
進む野菜輸出体制改革中国、安全性は日本と同等に

 中国の農産物輸出体制が抜本的に改革され、登録された野菜栽培基地で、厳しい基準をクリアしたもの以外は一切輸出できないことになった。冷凍ホウレンソウ残留農薬問題から1年。再び「野菜戦争」が始まろうとしている。国内生産者・産地を守るために何をしなければならないのか。それを考えるために、新たな中国の体制を紹介し、これからの課題を探ってみた。

◆輸出は登録認定された野菜栽培基地から

中国・瀋陽市郊外のハクサイの集荷場
中国・瀋陽市郊外のハクサイの集荷場

 昨年4月、中国産冷凍ホウレンソウから基準値の4倍近いパラチオンが検出され、その後も各地の検査で冷凍ホウレンソウから、シロアリ駆除にも使われるクロルピリホスなど基準値を超える残留農薬が検出された。
 これより以前、日本では北海道新聞や産経新聞など一部マスコミでしか報道されなかったが、2001年12月に中国の北京青年報が、中国政府の調査として中国の野菜卸売市場で売られている野菜の47.5%から基準を超える残留農薬が検出されたと報道した。この報道がされた直後の12月21日に北京で日中閣僚協議が開かれ、日本政府は野菜のセーフガード本格発動を回避し、中国は日本製自動車や携帯電話に対する報復関税を撤回することで合意したが、この問題に農水省は言及しなかったという。しかし、厚生労働省は中国政府に確認し2002年1月から検疫所での調査を強化。その結果、前述のような事実が明らかになった。
 中国からの冷凍ホウレンソウから基準値を超える残留農薬が検出されたことで、中国野菜に対する日本の消費者の不安が増大、毎年増加の一途をたどっていた中国からの輸入野菜は2割近くも減少し、国産野菜への需要が高くなっている。
 しかし、各地のJAを取材すると「いずれ、中国も安全性対策に力をいれ、再び日本に出してくるだろう」と考えている人は多い。だが、その動きはもっと早いという指摘がある。
 先ごろ中国江蘇省を視察した梶井功東京農工大名誉教授は、「中国の野菜輸出制度が抜本的に改革されました。認定登録された農場で、農薬の専門家の管理監督のもとで、基準を厳守して生産し、農場で残留農薬検査をしてそれをクリアしたものだけが出荷され、さらに港でも検査した上でなければ輸出許可が出ません。こうした中国の動きに、どう日本は対応するのか早急に考えなければいけないのではないか」という。

◆厳しい農薬の管理体制―すべての農薬使用を記録

えんえんと広がる大豆畑(中国・黒竜江省)
えんえんと広がる大豆畑(中国・黒竜江省)

 梶井名誉教授がいう「野菜制度の抜本的改革」とは、「輸出入野菜検査検疫管理弁法」が昨年8月に制定されたことを指している。
 この「弁法」は「生鮮野菜並びに保鮮、冷凍、脱水、漬物及び水煮等の加工野菜の輸出入野菜(食用きのこを含む)に係る検査検疫及び監督管理に適用」されるもので、「国家質量監督検験検疫総局」(略称・国家質検総局)が全国を統一的に管理。国家質検総局の下に、各地の貿易港に「出入境検験検疫機構」(略称・検験検疫機構)をつくり「管轄区域内の輸出入野菜の検査検疫及び監督管理を担当する」ことにしている。
 そして「輸出野菜原料は必ず検験検疫機構に登録された輸出野菜栽培基地(野菜基地)から出荷されなければならない」と規定されている。つまり、登録された野菜基地からのモノだけ輸出を認めるというもので、輸出をしたい商社や食品加工会社は、野菜基地と契約するか、自社で野菜基地をつくり登録しなければ、加工品を含めて野菜の輸出ができないことになる。
 そして野菜基地として登録できるのは、法人で「農薬の調達、保管、頒布、使用及び残留コントロール」などの内容が含まれた「基地に対する管理制度」があり、野菜基地の周囲の環境が汚染されていないこと、栽培面積が300ムー(約20ヘクタール)以上であること、専従植物保護員(植保員)を配置するという条件を満たしているものと細則で定めている。
 専従植保員は、関係部門の研修を受け、農学、植物保護、農薬使用の基本的な知識を持たなければならず、野菜基地の病害虫防除、農薬安全使用、農薬残留の「統一管理について責任を負う」。さらに、野菜基地では「専門の担当者が農薬の保管、頒布、施用」を行い、「農薬残留コントロール措置を有し、専門の農薬保存場所を定め、すべての農薬使用に関する情報を記録する」ことが義務づけられている。また、病害虫の発生や防除についても「報告制度と関係記録を有すること」も義務づけられている。

◆使用農薬を絞り込み日本製検査器で残留チェック

 つまり、農薬防除にかかわる専門の担当者を決め、きちんとトレーニングをして農薬の知識を十分に持たせ、残留基準をクリアしているかどうかを検査してから、出荷しなければならないということだ。その上で、各港の検験検疫機構が検査して問題がなければ、はじめて輸出許可を出すという仕組みだ。
 実際に梶井名誉教授が訪れた食品加工会社でも「化学物質を検出するガスクロマトグラフィーを使って、詳しく残留農薬を自社で検査」していたという。
 また、上海市で冷凍野菜を製造している(株)ニチレイ上海事務所の坂本嘉博所長は「これまでの生産方法をやめ、新たな科学的管理をはじめた」という。それは、使用農薬の絞込み、畑の集約化・大規模化、そして契約農場または自営農場産以外の野菜を扱わないというもの。使用農薬は、日本の残留基準が設定されている毒性の低いものに切り替えているという。さらに、原料段階での残留農薬チェックを厳しくし、契約農場にも日本製農薬検査器でのチェックを義務づけている。(農水省ホームページ「海外農業事情」030107「日系冷凍食品企業に見る原料農産物の安全性確保」より)

◆各地に広がる「無公害食品行動計画」

 中国政府農業部は、01年4月に「農産物品質と安全管理を強化する報告」で「深刻な食卓汚染問題」を取り上げ「品質安全問題の存在は市民の健康を害し、消費の利益を損なうだけでなく、農産物の市場競争力が輸出にも影響を与え、また、世界に悪いイメージを与える」として、8〜10年かけて「主な農産物が生産と消費の両面で無公害を実現するために減農薬・減化学肥料栽培農産物の生産と流通を実現していくことを基本目標」とする「無公害食品行動計画」に、北京・天津・深せんの4都市をモデルに段階的に取り組んでいる。この「農場から食卓に至るまで監視・管理していくことをねらい」とする計画は、温家宝首相も積極的に推進しており、上記4都市以外でも「自主的な取組みが広範に展開」されているという(蔦谷栄一農林中金総研常務、詳しくは「農林金融」02年5月号の蔦谷氏論文を参照)。
 このように中国国内での生産・流通についての体制を整備するとともに、特に輸出向けには登録認定された野菜基地をつくり、そこでの生産物以外は輸出を認めないという改革が行われ、いままでのように仲買人が集めたどこでどのように生産されたのか分からないモノが輸出されることがなくなった。

◆産地間の連携で周年安定的供給体制の確立を

 野菜は輸出用中国農産物の目玉でもあり、各段階の行政も輸出用野菜基地を外国資本も呼び込んで積極的につくっていこうとしている。ニチレイの坂本所長も「中国産がいつまでも安い時代が続くとは限らない。安全はお金を出して買う時代になる。しかし、日本製野菜よりも安いことは確かだ」と、今後も中国野菜が日本の食卓をカバーし続けることを示唆した(同前)。
 これで、基本的には安全性について「日本も中国も同じ立場になった」といえ、生鮮野菜での競争は避けられなくなるだろう。もし、再び無登録農薬問題を起こしたり、農薬の安全使用基準違反、基準を超える残留農薬問題を起こせば、国産であっても間違いなく消費者から忌避されることになるだろう。
 そのうえで、日本の生産者・産地を守るには何をしなければいけないのかを早急に考えなければならない。
 地産地消によって地元の消費者との信頼関係を築くことはもちろん大事だが、野菜大産地は地場だけでは消費しきれないのだから、産地間で連携し、需要者への年間を通した安定的な供給をする体制をどうつくるかが課題となるのではないだろうか。
 梶井名誉教授は、中国が国をあげて統一的管理をしてくるのだから、「全国の営農指導員を組織化し、全国の産地で、いつ、どういうものが作られるかを統一的に把握し、出荷をコントロールするシステムを構築するなどで対応しなければ、中国には敵わないのではないだろうか」と危惧する。いたずらに産地間競争をすることで、生き残れる時代ではなくなったということだろう。コスト問題も含めて、個別産地・JAだけで対応できない重大な局面にきていることは間違いないだろう。 (2003.5.7)


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