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検証・時の話題


インタビュー
JAが主役の経済事業システムへの転換を提言
「選択と集中」の視点で改革を
経済的メリット発揮を 競争力の強化促す


農協のあり方についての研究会座長 今村奈良臣 東大名誉教授に聞く


 「農協のあり方についての研究会」は、昨年、9月27日の発足以来、月に1回の割合で開催され、農協の事業・組織のうちでもとくに営農・経済事業の改革方向について議論し3月28日に報告書を取りまとめた。
 報告書は(1)「農協系統の問題点」、(2)「農協改革の理念」、(3)「農協改革の基本方向」、(4)「農協改革の推進力」、(5)「行政との関係等」の5つの項目から構成されている。JAが主役となる経済事業への転換などを提言した。今回は同研究会座長の今村奈良臣東大名誉教授に報告書の概要とポイントについて聞いた。
◆農業者、消費者から選ばれるJAに

――最初に各項目の概要についてお聞かせください。

今村奈良氏

 「まず、『農協系統の問題点』では、経済事業改革の遅れや偽装表示をはじめとする不祥事など、現在、農協が抱える問題点について指摘しています。
 そして、その背景として▽組合員の組織というよりも、組織のための組織という色彩が強まっている、▽合併による大規模化に見合った運営ノウハウが確立されていない、▽消費者ニーズを踏まえた販売システムが構築されていない、▽担い手を中心とした“実質的に公平”な事業運営に転換されておらず、なお“形式的平等”な事業運営が行われている、と問題点を指摘しました。
 つぎの『農協改革の理念』のポイントは、『農協系統は経済社会のなかで一般企業との競争に勝ち抜き、そのうえで、農業者や消費者に選択してもらえるようにすることが基本』ということです。
 農協は農業者の自主的な協同組織ですが、民間の経済主体として一般企業と競争していることはまぎれもない事実です。ですから、競争に勝ち抜くために責任ある経営を行うことが必要になるし、経済的メリットの発揮が、農業者、消費者双方から選択してもらうために必要です。
 その場合、消費者に対しては安心・安全な国産農産物を適切な価格で安定的に供給していくことが基本となるし、農家組合員に対しては国産農産物の販売拡大と生産資材コストの削減によって所得の増大を図ることが基本になります」

◆JAトップに求められる『経営者』としての自覚

――3番目の柱の「農協改革の基本方向」では具体的な事業改革を提言していますね。

 「ここでは、経済事業改革の基本方向として、(1)『選択と集中』の観点から抜本的に見直し、これをベースに施設、人員などの見直しを進める、(2)組合員メリットを基本としつつ『経営者』としての自覚と能力のある人材を選任し責任の所在を明確にしながら改革に取り組む、(3)JAは経済事業についての自立をめざし、全農については連合会本来の任務である“JAの補完”に徹する方向をめざすべき、の3点が柱です。
 これに基づき具体的な改革方策を上げています。
 まず『国産農産物の販売の拡大』では、これまで全農や経済連といった連合会や市場に任せてきたJAの販売事業について、JAが消費者、実需者への直接販売を拡大し、地域農業活性化のコアとなっていくべきとの方向を示しました。
 また、営農指導事業については、収益を生み出さないためともすれば赤字部門として縮小の対象にされがちですが、これを販売事業などの“先行投資”と位置づけ、収支を含めて農産物販売や生産資材購買と総合的に考えるべきとの方向を示しています。
 それから、子会社を含む全農の販売関連事業については、段階的に代金決済、需給情報提供へ特化すべきことや、偽装表示を再発させないようコンプライアンス(法令遵守)の徹底を図るべきことを示しました。
 また、生産資材コスト削減の面では、報告書は農協が供給する生産資材について商系業者よりも割高な品目が多いことを指摘し、物流拠点の集約、大量取引割引など、担い手にメリットある価格体系の明示、有利であれば系統外からも仕入れを行うなどの手法の導入、など具体的な取り組みにまで言及しました。
 そのほか、全農は商系業者と競争できる見込みのない品目については撤退も考慮すべきとしています」

◆生活関連事業も抜本的見直しを指摘

 「さらに、『生活関連事業の見直し』では、JAの生活関連事業の多くが赤字基調となっていることを指摘し、そのうえで、生活関連事業は競争力があるか、組合員の利用上、必要かつやむを得ない場合のみ行うべきであり、それ以外は廃止、事業譲渡、民間委託などの抜本的な見直しをすることが必要としています。
 『経済事業等の収支均衡』では、信用・共済事業の収益がなくても成り立つ経済事業を確立することが必要との観点から、部門別の収支を明確にして改善方法を決定していくことや、分社化による改善を図る場合には、実効ある業務改革を行うことが必要だと指摘しました」

◆今後の焦点となる経済事業版自主ルール

――「農協改革の推進力」「行政との関係」のポイントは何でしょうか。

 「ここでは経済事業等の改革を進めるには、全中が指導指針、『経済事業版自主ルール』を策定、公表したうえで、強力なリーダーシップを発揮していくべきと指摘しています。
 また、全国的なJA改革実践運動では、JA、全農、全中を含め、農協系統で改革スケジュールと目標数値を掲げ、その実行状況を第三者機関で点検するなど、確実に改革を進めていくことや、先進的JAを表彰したり、新聞などでPRすることで全国的な実践運動とすることも提言しました。
 そして、最後に行政との関係について報告しています。
 ここでは行政がこれまで安易に農協系統を利用してきた側面もあることを指摘し、今後、行政は法令に基づく指導監督を基本とし、あとは農協系統が自立していくようにする必要があるとしています。
 また、行政運営のうえで、農協系統と農協系統以外の生産者団体とのイコール・フィッティングを確保することも指摘し、補助金などの交付要件についても指摘しました」

◆全農は段階的にJAへの支援に特化を

――報告書の内容は多岐にわたりますが、もっとも基本的なポイントはどういうことになりますか。

 「一言でいえば、経済事業改革について“全農中心のシステムからJA中心のシステムへの転換をめざす”ということだと思います。
 先にも触れましたが、今回の報告書では“農協は民間の経済主体であって一般企業との競争に勝ち抜き農業者や消費者に選択される存在にならなければならない”と指摘しました。
 そのためには、農業者に近いところにいるJAが“主役”となり、消費者や実需者のニーズを感知し、それを農業者にフィードバックできる仕組みに変え、農協経営の収支改善を図ることが必要です。そして、こうしてJAが力をつけていくに従い、全農は段階的に機能をJAの支援に特化し、組織も抜本的に見直していくことが必要だと強調しています。

――全農の改革についてはどう考えていますか。

 「報告書では、『全農改革の断行』と改めて項立てをしています。そのなかで再三にわたり不祥事を起こしていることについて、コンプライアンス(法令遵守)体制の確立を求めたほか、事業機能として、販売面ではJAの補完に徹することや、生産資材供給では商系業者との競争の見込みのない品目は撤退も考慮、などと方向も示しました。そして、“全農の改革の実現は農協改革の試金石”だとしています。全農自らが抜本的な改革方策を打ち出していただきたいし、系統全体として真剣に取り組んでほしいと考えています」

――報告書には経済事業版自主ルールを含め「自主ルール」という言葉が3回出てきますが、具体的にはどういうものになるのでしょうか。

 「経済事業版自主ルール、あるいは経営体制の自主ルールなどの具体的な内容については、この報告書を受けて今後、全中で検討されることになっています。
 その際、報告書に盛り込まれた国産農産物の販売拡大、生産資材コストの削減といった具体的な方策が定められるものと考えています。
 また、経営体制の自主ルールについては、多くの委員から意見が出された『経営者』としての自覚と能力のある人材の選任、担い手や女性の役員登用、定年制の導入などが盛り込まれるべきだと考えています」

◆不公正な取引は自らも厳しくチェックする体制を

――関心の高かった農協と独占禁止法との関係についてですが、適用除外制度の見直しはしないことになったのですか。また、信用・共済事業の農協からの分離論は議論されたのですか。

 「農協に対しては、他の協同組合同様、共同販売、共同購買などについて独禁法の適用が除外されていますが、このような協同組合の本来的な事業については、独禁法適用除外は引き続きその意義があると考えています。
 独禁法で問題となったのは、これまでとくに連合会が“不公正な取引方法”を用いた場合で、このことについては農協系統といえども適用除外になっていないわけです。したがって、研究会の議論では、現行制度の問題点に言及する意見は出ず、むしろ農協系統と行政の双方で「不公正な取引方法」に違反がないよう厳しくチェックしていくことが必要、という結論になりました。
 それから、信用・共済事業については、すでにJAバンク・システムの確立や全共連への一斉統合など改革が行われてきており、今回は、改革の遅れている経済事業を中心に議論したわけです。ですから、信用、共済事業のいわゆる分離については議論していません」

◆JA全国大会議案に期待

――報告書には「事業からの撤退」といったJAグループにとって厳しい指摘もあります。今後、どのように実現されていくことを期待していますか。

 「研究会の委員には系統関係者も5人参加していただいていますから、報告書の内容については一定の理解が得られたと思っています。今後、JAグループでは10月のJA全国大会に向けて大会議案の組織討議が行われるようですが、報告書をふまえた組織討議と決定が行われることを期待しています。
 農協の事業見直しは、それぞれの実情に応じて行われるべきであり、一律に強制するものではないと思いますが、経済事業についてとくに今回、報告書で指摘した『選択と集中』の視点から真剣に取り組んでもらいたいと考えています」

――ありがとうございました。

◆改革に向け真剣な議論を

 4月3日の全中理事会で10月に開催されるJA全国大会議案が決まった。今後、各地で組織討議が行われることになる。中心的な課題は、農協のあり方研究会も報告している営農・経済事業の改革だ。今回は、報告書について今村座長に話を聞いたが、本紙では今後も継続的にこのテーマについて「シリーズ・農協のあり方を探る」として議論を深めていきたいと考えている。さまざまな立場からのご意見をお待ちしています。(編集部) (2003.4.10)




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