農業協同組合新聞 JACOM
   

検証・時の話題

個人リテール金融の変革と地域金融機関
メガバンク 個人リテール重視へ
−JAバンク これからの対応が課題−
鈴木利徳 農林中金総合研究所 調査第二部長


◆メガバンク、個人リテール重視へ転換
JA周南(山口県)・新南陽支店のカウンター
JA周南(山口県)・新南陽支店のカウンター

 今、個人リテール金融は大変革期の渦中にある。その発端は1999年から2001年にかけて相次いだメガバンクの誕生と2001年12月に発表された住宅金融公庫5年以内改廃の政府方針である。
 新しく誕生したメガバンクはいずれも、最初の中期収益計画のなかで、個人リテール重視の姿勢を明確に示した。従来、個人業務は手間がかかって採算の取れない業務であるとされ、都市銀行では脇役的な存在であった。確かに、個人業務部門の粗利益経費率はそれまで8〜9割に達し、コスト割れの面がないとはいえなかった。収益全体に占める個人業務部門の割合も1割程度に過ぎず、収益の柱としては期待されていなかった。
 ところが、メガバンクの中期計画では、2003年から2005年頃までに、個人業務部門の収益シェアを25%前後にまで高めることが明示されていた。メガバンクは誕生と同時に個人リテールに本腰を入れる決意をしたのである。
 さらに、住公の改廃方針が発表されたことで、各メガバンクは住宅ローンの争奪戦に突入していった。

◆店舗の削減から拡充へ

 メガバンクの個人リテール業務の最大の特徴は、不特定多数の顧客を相手にする「マス・リテール」であることだ。顧客数も膨大である。東京三菱で約1400万人、みずほで約2500万人といわれる。
 しかし、顧客数の割に店舗数はみずほでも約500程度であり、JAの14000店舗、信金の8500店舗に比べると非常に少ない。その代わり、ATM網、コンビニとの提携、インターネット・バンキングなどのダイレクト・チャネル網を構築し、利便性の提供を図っている。このようにメガバンクの個人リテールは「ネットワーク金融」という性格をもっている。
 ところで、「店舗は第2の不良資産」といわれたのは今から4、5年前である。一等地に立地している店舗が単なる事務処理の場となり、有効に活用されていないことに気づいたメガバンクは、店舗の再編に取り組み始めた。
 営業店の後方事務は事務センターに集中し、入出金、振替・送金などの簡単な処理はATMなど低コスト・チャネルへ誘導して、店舗のスペースを相談営業の場として活用することにした。合併によって二重投資となった店舗の統廃合を進める一方、住宅ローンセンターを拡充した。
 ここ数年は、店舗の削減と合理化に力を入れてきたメガバンクだが、最近、新しい動きを見せている。不良債権処理が一段落し、今後の収益回復が見込めるなかで、個人専門店舗の拡充に乗り出し始めたのである。みずほは個人専門店舗を大都市を中心に2006年3月までに100店増設、東京三菱は資産運用相談に特化した店舗を今後3年間で50〜100店新設、UFJは全店にテレビ電話付き端末を設置する計画である。支店内に個人専門の相談窓口を設置する動きや営業時間の延長、ATM24時間稼動などのサービス強化の動きも目立っている。

◆資産管理運用サービスが主戦場に

 メガバンクは、店舗の小型化で出店コストを低く抑えつつ、空白地帯に進出し、顧客基盤を拡大する戦略に打って出てきた。また、これまでは住宅ローンに重点的に取り組んできたが、今後はさらに、収益性の高い富裕層・準富裕層をターゲットに資産管理運用ビジネスに経営資源を投入する予定である。投信、変額個人年金保険などの銀行窓販が解禁となり、多様な運用商品を窓口で取り扱えるようになったことも、この動きを後押ししている。
 三井住友は、300の支店にマネーライフ・コンサルティングデスクを設置し、600人のマネーライフ・コンサルタントを配置した。コンサルタントは旧山一證券社員を中心に証券会社からの中途採用組が大半である。UFJは、投信、変額年金などの販売部隊1000人体制を整備しており、資産運用コンサルティング会社「UFJプラザ21」を拠点に信託・証券などグループを挙げた総合サービスを提供している。
 また、東京三菱は、銀行、信託、証券の商品とサービスをパッケージ化して、顧客に提供する戦略を発表し、銀行、信託、証券の機能を融合させた個人向け共同店舗「MTFGプラザ」を2004年度に10店程度開設する予定である。さらに、個人取引の営業担当者を今後3年間で1500名から2000名程度増加する計画であり、そのための人材育成専門機関「リテールアカデミー」を2004年4月1日に新設する。
 これまで、メガバンクは、『モビット』(UFJ)、『アットローン』(三井住友)などミドルリスクの消費者ローン市場の開拓・参入、住宅ローンの増強などをすすめてきたが、これからは資産管理運用サービス分野がメガバンクの主戦場になると思われる。

◆資産管理運用ビジネスはメガバンクの独壇場

 一方、信用金庫、信用組合のような地域金融機関の動向はどうか。まず、不良債権処理の進捗度をみると、メガバンクには早期に公的資金が注入され処理が進んだが、地域金融機関の不良債権処理は道半ばというところではないか。今後、メガバンクと地域金融機関の経営力格差が拡大することは確実であり、メガバンクの個人リテール分野での攻勢にどう対処するかは、地域金融機関の生き残りをかけた重要な課題である。
 ところで、信金、信組の実態調査をしてあらためて理解できたことは、信金、信組の顧客層は家族経営の町工場、商店、飲食店、従業員10人以下の零細企業、それに加えて地域に住むお年寄りが圧倒的に多いということである。従業員が数十人から数百人の中小企業はメガバンクや地銀にとられている。また、いわゆるサラリーマンも信金、信組は顧客として取り込むのが難しい。
 たとえば、住宅ローンでも1階が商店で2階が居宅のような変則的な物件を扱うケースが多く、メガバンクが取り扱いにくい案件を取り込むことで、特性を発揮してきた。また、こういう異例案件は金利を多少高くすることが可能であり、手間がかかるが、その分利鞘も大きいというメリットがある。
 しかし、資産管理運用ビジネスとなると、信託、証券などの機能を有するメガバンクが圧倒的に有利である。地域金融機関はこの分野ではノウハウの面で大きく劣後するし、もともと顧客層からして資産管理運用のニーズが乏しいといえる。
 このように個人リテール金融の分野も、メガバンクと地域金融機関では自ずと棲み分けが明確になってくるものと思われる。

◆狭域高密度経営で地域に根付く

 信金、信組などの地域金融機関の経営戦略の最大の特徴は狭域高密度経営にある。都内の信金の場合、500メートルから1キロメートル間隔で店舗が配置されている。営業エリア内にきめ細かく店舗・ATM網を配置し、渉外活動でくまなく訪問営業を行うことで地域密着を図っている。
 信金、信組では事業計画のなかで「地域内取引シェア」を目標に掲げているところが多いが、これは、地域密着を測るうえで一番分かりやすい指標であるためだ。と同時に、地域内取引シェアの低下は地域金融機関の存在意義の低下をも意味するからである。

◆対面営業と相談対応力こそ最大の武器

 地域金融機関とメガバンクの営業方法の違いを別の形で表現すれば、対面営業と非対面営業の違いである。地域金融機関の担当者は顧客の名前と顔が一致し、家族構成なども把握している。顧客のニーズも渉外営業時の会話のなかから見つける。一方、メガバンクは取引履歴をデータベースに蓄積し、統計的手法によって顧客のニーズを推測し、ダイレクト・メールなどでマーケティングを行う。メガバンクは顧客を個体識別していないのである。
 地域金融機関の最大の武器は対面営業にあり、顧客一人一人のニーズをつかむところにある。しかし、ニーズをつかんでも、それに対応し、行動しなければ意味がない。つぎに大切なことは、相談対応力である。相談対応力とは自分で全てを処理することではなく、関係者・関係機関を活用して問題を解決する行動力のことである。「良い仕事」をしている地域金融機関はこのことを実践している。
 JAの信用・共済事業は、信金・信組とは立地条件も客層も異なるが、地域社会的存在であるという本質は共通している。そして、JAにとっても対面営業と相談対応力で顧客の信頼を得ることが最大の武器となることを、ここで強調しておきたい。 (2004.3.10)


社団法人 農協協会
 
〒102-0071 東京都千代田区富士見1-7-5 共済ビル Tel. 03-3261-0051 Fax. 03-3261-9778 info@jacom.or.jp
Copyright ( C ) 2000-2004 Nokyokyokai All Rights Reserved. 当サイト上のすべてのコンテンツの無断転載を禁じます。