農業協同組合新聞 JACOM
   

検証・時の話題

焦点 漠然とした不安払拭が課題
遺伝子組換え作物をどう考えるか
―食料・環境問題に貢献の視点も―

 今年5月、海外の大手バイオ企業が遺伝子組み換え小麦の研究・開発の延期を発表した。消費者の反対が強く製粉メーカーなどにも抵抗感が広がったためだといわれている。
 その一方で同じ5月に国連食糧農業機関(FAO)は年次報告を発表し、そのなかで遺伝子組み換え技術などのバイオテクノロジーは「万能薬ではないが発展途上国の農業にとって有望」と指摘。貧困の解消や食料増産などに貢献する技術と位置づけ、環境への影響などを注意深く見守る必要があるものの、個々の遺伝子組み換え作物について、「得られる利益とリスクを個別に評価」すべきと報告した。
 わが国でも遺伝子組み換え作物の研究・開発が進められているが、安全性や環境への影響について消費者の不安が払拭できず現在商品化されているのは色変りカーネーションのみ。国は理解促進の取り組みを強化する方針だ。今回は遺伝子組み換え作物をどう考えたらよいかを議論するために最近の動向を紹介したい。

◆安全性チェックのためのカルタヘナ法が2月施行

世界初の「青いバラ」・サントリー(株)
世界初の「青いバラ」・サントリー(株)

 遺伝子組み換え作物の自然環境への安全確保措置は、今年2月からカルタヘナ法(「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」)に基づいて行われている。
 同法は、2000年に採択されたカルタヘナ議定書の的確な実施のために制定されたもので、バイオテクノロジーによって性質が改変された生物が、生物多様性に悪影響をおよぼさないよう措置することが目的。研究開発段階は、文科省と環境省、ほ場での栽培実験については農水省と環境省がそれぞれ生物多様性に影響を与えないことを確認して承認する。
 そのうえで商品化にあたってはさらに安全性チェックが行われる。
 食品であれば、「食品安全基本法」と「食品衛生法」により、食品安全委員会のリスク評価と厚労大臣の審査が必要となる。また飼料利用では、「飼料安全法」と「食品安全基本法」に基づき、食品安全委員会の意見聴取と農水大臣の確認が必要とされている。
 こうしたチェックが不要で生物多様性への悪影響がないことのみ確認されれば商品化できるのは花など非食品だけとなっている。

遺伝子組換え農作物の開発から商品化までの安全性チェックの流れ

◆小規模農業者にメリットFAOが年次報告で指摘

 カルタヘナ法施行以前は、それぞれの省庁がガイドラインを設定し栽培を承認してきており、わが国で栽培が認めれているのは41作物。これに同法施行後に新たに10作物が加わっている(6月末現在、ただし、ガイドラインですでに承認を受けているものも一部ある)。このほかに栽培は認めれていないが輸入は認めれているものが30作物ある。
 国内で栽培が認められているもののうち、すでに商品化に必要な安全性確認が終了しているものも20近くあるが、商品化されているのは色変わりカーネーションだけ。そのほかはまったく商業栽培されていない。
 商品化されない理由として害虫に強いトウモロコシや除草剤の影響を受けないイネなど、「確かに消費者にとっては魅力がないかもしれない作物」(農水省農林水産技術会議事務局技術安全課)と推進する立場の国も指摘する。
 ただ、それ以前の問題として遺伝子組み換え作物への漠然とした不安があったり、さらにはこの技術そのものを短絡的に否定して批判する人も少なくない。
 これについて「砂漠化の進行による農地の減少の一方で人口が増加しているなか食料問題に貢献する技術。農薬の使用量も減らせる品種をつくるなど環境問題にも対応する技術であることを理解してほしい」(同)と話す。
 冒頭に紹介したFAOの年次報告では、中国の例をレポートしている。
 同国では400万の小規模農家がワタの総作付面積の約30%に害虫抵抗性を持つ遺伝子組み換え品種を導入。これによって収穫量は従来の品種より約20%増加する一方、殺虫剤のコストは70%減少した。殺虫剤使用量は2001年では7万8000トン減少したと推定しており、この量は中国の殺虫剤の総使用量の約4分の1にあたるという。

◆栽培実験の計画と情報提供を義務づけ

栽培実験を行うには説明会が義務づけられた
栽培実験を行うには説明会が義務づけられた
 わが国では国民の理解のもとで開発を円滑に進めるため、カルタヘナ法施行に合わせて栽培実験指針が策定された。
 隔離ほ場での栽培実験が認められた作物(第1種使用規程承認組換え作物)は生物多様性影響のないことが承認されたものだが、これまでは実験を行うにあたっての交雑防止措置や情報提供については研究機関ごとに個別に対応してきた。これを国として円滑な実施をするために統一した指針として決めた。
 指針では栽培実験計画書に盛り込むべき内容や、交雑防止のための実験作物と同種作物との具体的な取るべき距離、種子の管理、実験終了後の作物の処理法などが定められている。
 同時に計画書の報道発表やホームページ上での公開と説明会の開催を義務づけている。また、実験経過についてもホームページ上などで公表することを求めている。
 この指針は独立行政法人の各研究所を対象にしたものだが、国は栽培実験を行う民間企業もこれに従うように勧めており実際に指針に基づいた対応が行われている。
 説明会はこの3月から栽培実験を行う機関が順次実施してきている。農水省は「研究者自らが実験について説明することが理解を促進することにもなるという面があると考えている」(技術会議事務局)と話す。

◆消費者が望む作物開発と不安払拭する技術も課題

 世界の遺伝子組み換え作物の作付け面積は2003年で6770万ヘクタール。日本の農地面積の15倍ほどに広がっている。ただし、FAOの年次報告では品種はトウモロコシ、ダイズ、ワタ、ナタネの4品種に集中しており、イネなど発展途上国の農民が依存している重要な農産物について研究を進めている有力な機関がほとんどないと報告。発展途上国ではバイオテクノロジーの恩恵が受けられていないと遺伝子組み換え作物開発の問題点を指摘した。日本は周知のようにイネの遺伝子解析では世界トップレベルにある。
 6月に公表された「バイオテクノロジーの活用による農業・食品産業等の展望と方策」では、遺伝子組み換え作物の実用化の突破口を開くために国民理解の促進強化が不可欠としている。情報発信強化とともに、発展途上国への国際協力を通じて理解を広げることも挙げた。

世界の遺伝子組換えの農作物の作付動向
 同時に遺伝子組み換え作物の開発の方向についても改めて提起した。
 ひとつは花粉症を軽減させるコメなど消費者が望む作物を開発すること。これまでは生産メリットを重視した遺伝子組み換え作物が中心(第1世代)だったが、消費者メリットを軸にした第2世代を基軸にしていく方向を示した。しかも通常の品種改良では不可能で遺伝子組み換え技術でなければ開発できないものとする。血糖値をコントロールするイネなども開発の課題にあがっている。
 また、微生物の遺伝子を組み込み害虫抵抗性を持たせたトウモロコシが開発されているが、今後は微生物などからの遺伝子導入は見合わせ食用としている植物の遺伝子を利用すべきとした。また、食用にする部分では組み込んだ遺伝子が発現しないような開発も必要としている。たとえば、イモチ病耐性の遺伝子組み込みでは葉や籾の外皮のみで遺伝子が発現し、食べる部分では発現しない方法などが考えられている。
 さらに花粉として飛ぶ部分には遺伝子を導入せず、そもそも環境に拡散しないようにする技術開発も課題だとしている。
 FAOの年次報告では、今後30年間で20億人に増加する人口を養うため、収穫量の増加、コスト軽減、環境保護、食の安全確保など複合的な目的を解決するための技術開発が必要だとし、「バイオテクノロジーは従来の方法では不可能だった問題の解決法を提供する」ものだとしている。
 今後もこの問題について考えていきたい。 (2004.7.20)

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