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家の光協会 ワールドウォッチ研究所と独占契約
  
−−地球環境問題も出版活動の柱に

       家の光協会常務理事 柳楽節雄氏に聞く

なぎら・せつお) 昭和23年生まれ。島根大学農学部卒。昭和45年 家の光協会(家の光編集部)、62年編集局家の光編集部編集次長、平成2年東京支所次長、6年家の光編集部編集長、9年総務局長、11年総務企画局長、12年3月常務理事に就任。


          聞き手:明治大学教授 北出俊昭氏

 『家の光』創刊75周年を迎えた(社)家の光協会は、今年度から地球環境問題の研究者として著名なレスター・ブラウン氏が所長を務めるワールドウォッチ研究所と独占契約を結び、同研究所の出版物『地球白書』、『地球環境データブック』などを順次発行していく。これまでの食と農というテーマに環境問題も柱に加えて、JAグループ内外への情報発信機能を一層強めることにしている。今後の出版事業の方向や課題などについて同協会の柳楽節雄常務に聞いた。聞き手は、北出俊昭明治大学教授。


日本の農業に自信と気概をもって

 北出 家の光協会は、これから環境問題にも力を入れて出版活動をしていくとのことですが、最初にその狙いをお話いただけますか。

 柳楽 これまで家の光協会の出版物は、園芸、料理、健康などの実用書のほか、農業や協同組合に関する図書が中心でしたが、1980年代から環境に関する関心も高まるなか環境問題についての図書も出版してきました。
 最近WTO交渉において農業の多面的機能についても議論されており、今後は、家の光協会も出版物のひとつの柱として、地球環境問題を訴えていこうと考えたわけです。

 とくに環境問題が重視されてくるなかで、農業と環境は切っても切れない関係にあることが指摘されるようになりました。また、「食料・農業・農村基本法」でも農業の多面的機能の重要性が位置づけられたわけです。
 環境問題の大切さを外に向けて訴えるだけでなく、農業自体が環境を守る上で価値があるんだということを組織のなかにおいても、もっと理解してもらい、自分たちのやっている農業に自信と気概を持ってもらうためにも情報を発信していこうということなんです。

 北出 環境問題を重視する背景がよく分かりましたが、そのなかでもワールドウォッチ研究所の日本語版出版物を独占契約することになった経過を聞かせてください。

 柳楽 環境と農業の問題については、外国の研究者のなかにもその重要性を説く人が多く、レスター・ブラウン氏のようにアメリカのなかに農業の多面的機能の大切さを訴える人がいるわけですね。グローバルスタンダード、貿易の自由化を叫んでいる国のなかにも世界各国で農業を大切にすべきだという警告を発している。それを日本に広く伝えていきたいという考えからまずこのシリーズを企画することになりました。
 実は、1976年にレスター・ブラウン氏の、『国境なき世界』を発行しているんですが、それをきっかけに日本でワールドウォッチ研究所と当協会は連携を保ってきました。同時に、数年前に全中が主催した日本各地のフォーラムを「家の光」や「地上」で紹介してきました。
 そういうなかで、JAグループの出版を担っている家の光協会が評価されて、ワールドウォッチ研究所と独占契約を結ぶことになったんです。

 北出 そうなると従来の読者層からずいぶんと拡大することも期待されますね。

 柳楽 そうですね。書店で購入してくれる人にとっては、JAグループは農業や環境問題について積極的に提起しているという対外広報的な意味合いも含め、読者層の拡大につなげていけるのではないかと思っています。
 環境問題をひとつの柱にすれば、これまでの出版物で訴えてきた食と農に加えて、環境についてのJAグループの取り組みも理解してもらえることになるし、JAグループの主張に対する理解も深まることになると考えています。今秋のJA全国大会でも「食料・農業・農村の国民的理解の促進」をすすめるとしていますから、そこに関心を寄せる人たちの受け皿づくりにもなると思います。

 それから、最初にも触れましたが、JAグループでもレスター・ブラウン氏の本を読んでもらって、自分たちの考えていることは彼も言っているじゃないか、と強い自信を持ってもらいたいということもあります。
 とくに最近では、食料問題も大切ですが、レスター・ブラウン氏は水の問題が重要になると指摘しています。水の争奪戦になるんだと。実際に、食料を輸入するというのは外国の水を奪い取っている面もありますね。そういう意味でやはり国内でしっかり食料生産をし、自給率を高めるということは、世界の環境を守ることに通じるんだということです。

 輸出国の内部では、自国の貴重な水を使った生産物を売り続ければ国内でも問題になり、また国際紛争の火種にもなるとレスター・ブラウン氏は言っています。今後は、中国やインドの干ばつも非常に大きな問題だといわれていますし、またこれまで石油の奪い合いはありましたが、中東ではすでに水の奪い合いが始まっているということです。石油があっても水がなければ生活できないわけですからね。
 ですから、農業は食料生産だけでなく、水を守るという点でも重要でそこにも農業者に自信を持ってもらいたいと思っています。

 北出 日本農業を守ることは、国際的にも意義のあることだということを知ってもらいたいですね。

 柳楽 農業への理解の薄い消費者と話す場合にも、地球環境を考えると、単に農産物は安ければいい、輸入品でいいということなのか、と主張できますから説得力を持つことになると思います。この点は、今後のWTO交渉でもJAグループ陣営として環境問題の視点から訴えていくことを確認しています。

−−地域から都市への情報発信にも取り組む
(社)家の光協会は、21世紀の食料、農業、環境についてグローバルな視点から提言しているワールドウォッチ研究所の研究者らの著書を 「ワールドウォッチ21世紀環境シリーズ」 としてすでに刊行していて、今年度からは 『ワールドウォッチ地球環境データブック』 (写真・9月発行)と 『ワールドウォッチ地球白書』 (2001年版を来年3月発行)が加わり、一層充実した環境図書シリーズとなる。

都市住民にも知ってもらいたい

 北出 農業者にとっても、農業の世界だけでなく違った世界を知ることにもなりますね。ところで具体的な出版スケジュールはどうなっていますか。

 柳楽 9月に『ワールドウォッチ地球環境データブック』を出版し、来年春に『ワールドウォッチ地球白書2001』を出す予定です。地球環境データブックは、資料として利用するものですが、地球白書のほうは日本でも20年ほど前から出版されてきたもので、現在は30か国ほどで翻訳されているものです。

 北出 これまでも『地球白書』に注目して毎年読んできたという人もいるわけですが、家の光協会が出版することで家の光協会らしい活動も期待されますが、その点はいかがですか。

 柳楽 今のところワールドウォッチ研究所の代表的なこの2つの定期的な出版物が軸になりますが、研究所からはさまざまなデータがもっと早く私たちのところに届くと思うんです。そのなかから、日本の農業や農村に関わる重要なデータがあって、農業者や都市住民にも知ってもらいたいというものがあれば出版することもできます。そういう時宜を得た活動も考えていくつもりです。
 農業の多面的機能ということが盛んに言われていますが、それが具体的にはどういうことなのか、こうした出版物が解説する役目も果たします。
 日本の農業を活性化することが環境を守ることにつながる。規制緩和、自由化が当たり前だと言う声に対して、やはり日本農業は食料生産と環境保全の面で重要だということについて、国民の理解が得られる材料になればとも思っています。

 北出 それから環境問題の本を出すことによって、従来からの出版物についても多くの人が注目してくれることにもなりますね。

 柳楽 そうですね。今、出版界では版元イメージが大切だといわれていて、この分野の本ならこの出版社のものをという選択を読者はしています。その意味では、食と農という家の光図書に環境が加わることによって、これまでのイメージも変わるのではないでしょうか。農業に根ざしたJAグループの出版物だという視点でより多くの人に理解されることを期待しています。

地域の文化を掘り起こし伝えていく

 北出 今後の家の光協会の出版事業の方向、課題につていはどう考えておられますか。

 柳楽 今までは地域の生活の向上、営農技術の向上、読書の意欲を喚起するという面での図書が多かったんですが、今後の課題は、地域の文化を掘り起こしてそれを伝えていくということです。
 先頃も九州在住の料理家が土地の農産物を使った料理の本を出しましたが(『古川年巳のつくりんしゃい食べんしゃい』)、それによって地域で知識を共有できるし、また外にも発信していけることになります。九州出身の人にも郷土の文化を再確認してもらえると思います。
 それから、全中の原田会長の地元JA広島市の営農指導員の方々が家庭菜園の技術を書いた本を出しました(『JA広島市の元気な野菜づくり』)。これもJAからの情報発信ということで地域住民に対するイメージアップにもなります。

 地元のJAグループにはこんなノウハウがあるんだということが伝わりますし、地元のJAはすばらしい技術を持っているんだから、地元の農産物を食べれば、元気になれるんだという評価にもつながると思うんです。
 地域にいる人の生の声を都市に向かって発信していくということですね。これが大きな課題でその方向をどんどん強めていきたいと考えています。市販ルートもあるわけですから、そのノウハウを生かして家の光協会が地域文化の情報発信基地としてJAグループのさまざまな活動をお手伝いしていきたいと思いますね。

 北出 21世紀を目前にして、これまでとは何か違った生き方とか価値観を見出そうとする空気はあると思いますね。そのときに料理であれ環境問題であれ、地域からの発信という形の情報が必要とされているのかもしれませんね。

 柳楽 『天声人語』で紹介され、評判を呼んでいる役重真喜子さんの『ヨメより先に牛(ベコ)が来た』も地域からの発信ですし、また、これからの生き方を示しているんだと思います。そういう個人の生き方も含め時代の変革期にフィットする出版物を出すことが大事だと思っています。
 その一方で、たとえば新基本法のもとで食生活指針が決められましたが、『家の光』や図書の料理、あるいは食をめぐるイベントなどは、まさにその食生活指針の先取り実践編だと思うんですね。そういう意味では、家の光協会がやってきたことが政策と合ってきているから、今まで培ってきたノウハウで今後も食料・農業政策にも貢献できると考えているんです。

協同組合学習の原点となる視点で

 北出 ところで雑誌の『家の光』についてはどんな課題があるのですか。

 柳楽 高田会長が絶えず主張されていますが、今後もっと読者の拡大を図ろうということです。今、JAは地域住民にも活動を広げていこうとしているわけですから、『家の光』も組合員家庭はもとより、地域住民に読んでもらうように制作も普及も努力していくことが大切です。つまり、JAを理解する仲間を増やしていくための雑誌の機能を強化したいと考えています。
 21世紀においては協同が重視されると指摘されています。人間一人ひとりが豊かになるには協同組合セクターが重要だといわれています。グローバルスタンダードと呼ばれる潮流が横行していくなかで、経済的な弱者は協同の力で生活を守っていくことが大切になると思うんです。

 JAにおいても世代交代が進むなかで、なぜJAがあるのか、JAが必要なのか知らない人もいてJAと一般企業と対比して考える世代もいます。そういう世代に対しても、たとえばJAの信用・共済・経済等の事業は、一般企業とここがこう違うというように、基本的な協同の学習も重要になると考えています。
 創刊75周年を迎えるなか、協同組合学習の原点となり得る視点から編集、製作し普及拡大もしていきたいと思っています。

 北出 記事活用体験も今後も大切な活動ですね。

 柳楽 ええ。家の光協会だけでなく、今、全国的に読書運動の見直しが始まっているんです。
 コンピューターの利用などデジタル化が進んでいますが、電子メールひとつ送るにも文章をきちんと書かなくてはなりません。活字文化が再評価されています。だから、もっと本を読まなくてはいけないということで、中学校や高校で朝の10分間読書に取り組むところが増えています。今、2000校ぐらいになっていると聞きました。読む本は本ならどんな本でもよいという。それでも一日のはじめに黙って読書をすると荒れていた学校もだんだん落ち着いてきたというんですよ。

 家の光協会では、読書運動を兼ねて記事活用グループを作っていて今2000グループほど登録されていますが、全国的な読書運動の見直しのなかで、これが注目されているんです。地域でこの活動に取り組んでいる人たちは、当たり前だと思っていますが、『家の光』を使ったこの活動を外部の人から見ると非常にユニークだと評価されるんですね。ですから、われわれも力強く外部にも訴えていきたいと考えているんです。

 活字は文化の出発点だといわれます。今の時代は、活字よさようならという風潮もありますが、そうではなくて活字をもう一度見直していく。そういう視点から雑誌、図書の出版活動を続けていく、そこに21世紀の家の光協会の役割の一つがあるのではないかと思っています。
 先日もある組合長から、教育文化活動はJAの土づくりだと叱咤激励されたんですが、その期待に応えていかなければならないと思います。

 北出 JAの土づくり、というのは本当にそのとおりですね。JAの事業は厳しいと言われていますが、事業を伸ばすためにも、土づくりが大切ですね。今後の事業に期待しています。今日はどうもありがとうございました。



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