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保険料助成アップ 担い手への支援拡充
  農業者年金が新制度で再出発へ (8/25)


 農業者年金制度改革の最終案が8月25日やっと決まった。農水省は昨年12月に受給額三割カットや、46歳以下は掛け損になるなどの改革大綱案を示したが、農業団体が強く反対。その結果、最終案では削減幅を1割以下に圧縮、また掛け損がなくなるなど大きな修正を勝ち取った。政府は9月の臨時国会に法案を提出。来年度中には新制度に移行する。加入者への説明や、新制度に乗り換えない脱退者の確認作業などがあるため実施は来夏以降になる見通し。

 新制度では、年金受給額が平均9.8%削られる。当初案の30%よりはマシだが、秋から始まる介護保険料払い込みなどと合わせ考えると年金生活者にはズシリと重い負担となる。老齢年金(併給老齢を除く)は削減されない。
 9.8%の数字的根拠については「総合調整の結果だ」(農水省)という。
 公的年金の給付減額は初めてであり、政府の年金調査会会長が、これを「大英断だ」と評価していることなどから、他の年金制度にも影響が出てきそうだ。

 一方、農業年金加入者の保険料は月額2万円で現行並みだ。35歳で加入し、25年間掛け続けた場合、平均寿命の83歳までの年金総額は1160万円で、保険料の1.9倍となる。当初案のような掛け損は、全世代でなくなった。
 新制度は@政策支援の拡大A給付額削減幅の圧縮B掛け損の解消を柱とした。
 うち政策支援が手厚い。保険料割り引きがあり、その分を国庫助成する。基本は3割(月額6000円)だ。当初案は2割だった。

 35歳未満の認定農業者で青色申告の場合は助成率が5割となる。その対象者と家族協定を結んで経営に参画している配偶者と後継者もまた5割助成だ。
 これらに準ずる者として将来は認定農業者となり青色申告者になる予定の人にも2割助成がつく。支援対象者を同一経営内に一人とする制限はなくなった。
 また当初案は、対象者を「青色申告特別控除後の農業所得が500万円以下」に限ったが、最終案では900万円以下に広げた。

 35歳以上の支援期間は10年間が上限だが、未満の人は最大20年間となる。例えば大卒の22歳で対象者になれば42歳まで受けられる。これは経営の厳しい時期に焦点を合わせた支援だ。

 新制度で支援対象から外れる加入者にも移行措置で3年間の支援がある。
 新制度は農業者年金を新基本法に即した政策年金と位置づけ、担い手の確保と育成を目的とした。支援はこれを達成するためだ。従来は経営近代化と農地保有の合理化が目的だった。
 年金財政は、現役の保険料で引退世代の年金給付をまかなう賦課方式から、自分で将来の年金財源を積み立てる方式に変えた。積立方式は加入者数の変動などに左右されにくい。
 また農地を持たなくても加入できるようハードルを低くした。この要件緩和で「約80万人規模の未加入者に門戸を開くことになるから今後、加入者は増える」(農水省)と見込む。

 一方、加入者と受給権者(待期者)の将来の年金額水準を保証し、全世代での掛け損を防いだ。さらに受給開始が後年になる若い人に対しては物価上昇分に相当する年率1.5%で保証水準を引き上げる。
 また現行の加算付経営移譲の要件を満たす45歳以上55歳未満での経営移譲には年齢の若さに応じて移譲年金の水準を引き下げていく経過措置を実施し、55歳以上についても同様とする。

 法改正で1995年から加入できるようになった特例配偶者については加入期間が短いため保険料納付済期間の3分の1を割り増し加算した年金額とする。
 新制度は任意加入となるが、脱退者への一時金は支払い保険料の80%程度とした。現行の30%では移行か脱退かの選択幅が狭すぎるとして引き上げた。


農業3団体の運動実る
今後は加入者拡大が課題−−農業者年金

 農業者年金制度が見直され、新しい仕組みで再スタートすることになった。
 決着までの曲折をたどると、昨年末に農水省が示した改革大綱案は「政府の管理責任を加入者や受給者にしわ寄せするもの」と現場の猛反発を買った。

 JAグループ、全国農業会議所、全国農業者年金連絡協議会は、それぞれ組織討議を重ね、3者共同で運動を展開。加入者を増やせるような魅力ある政策年金の再構築を求めて、大綱案の大幅改善を迫った。
 これを受けて政府・自民党の最終調整では政策支援を中心に農業団体の要請が各項目で実現し、粘り強い運動が成果を挙げた。

 決着のついた8月24日、JA全中の原田睦民会長と全国農業会議所の桧垣徳太郎会長は、制度改革の骨格を「高く評価する」との談話を発表した。「受給者、加入者、待期者は一定の負担を受け入れざるを得なかったものの、負担の最小限への圧縮が実現された」というものだ。

 今後は加入者をどんと増やす方策が課題となる。
 当初の大綱案は国庫負担を767億円とした。これに対して農業団体は実質上の追加負担を求めた。しかし、政府、与党、農業団体は、その金額を打ち出せずに三すくみとなり、調整は一時、膠着状態に陥った。
 このため自民党農業基本政策小委員会の松岡利勝小委員長らが具体的に700〜800億円を提案。これをきっかけに農業団体もぎりぎりの考え方を示し、急転、決着となった。

 最終調整で国庫助成は765億円上積みされ、政策支援と合わせて1772億円(1998年度ベース)となった。
 農業者年金は国民年金の上乗せで、給付は月額平均2万円だったが、新制度で約1割カットとなる。  従来は経営移譲を通じて経営の近代化を図ることなどを政策目的としていた。

 ところが後継者難で移譲が困難となり、また移譲しても、それはサラリーマン後継者で厚生年金に加入しており、農業者年金には入らないなどの矛盾を抱え、加入者1人が受給者2.5人を支える状態にある。
 加入者は約29万5000人、待期者は16万8000人、受給者は75万人(1998年度末)。




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